栄養不足が深刻な状態、いわゆる重症急性栄養不良(SAM)から回復しつつある子どもたちは、感染症への抵抗力が弱まったり、発達に影響が出たりすることが知られています。その背景にビタミンDの不足が関わっているのかどうかは、これまではっきりしていませんでした。プロス・ワンに掲載予定の今回の研究は、アフリカ南部のザンビアとジンバブエで、SAMから回復し退院する子どもたちの血中ビタミンD濃度を調べ、どのような要因と関連しているのかを検討したものです。
世界保健機関(WHO)によると、5歳未満でSAMを抱える子どもは世界で推定1,900万人にのぼり、年間40万人が命を落としているとされます。ザンビアでは人口の約1%、ジンバブエでは年間約1万5,000人の子どもがSAMの治療を受けているとされています。SAMの治療には「即席治療食(RUTF)」と呼ばれる栄養補助食品が使われ、これには100gあたり15〜22マイクログラムのビタミンD(コレカルシフェロール)が含まれていますが、これがすべての子どもにとって十分な量かどうかは分かっていません。
どのように調べたのか
この研究は、「HOPE-SAM」という大規模な追跡調査(ザンビアとジンバブエの3つの病院でSAMのため入院した5歳未満の子ども745人を対象にした前向きコホート研究)の一部として行われました。今回の解析では、退院時に血漿サンプルが確保できた442人(ザンビア101人、ジンバブエ341人)を対象に、血中の25-ヒドロキシビタミンD〔25(OH)D〕濃度をELISA(酵素免疫測定法)という方法で測定しました。25(OH)Dは体内のビタミンDの状態を示す代表的な指標で、半減期(体内で半分に減るまでの期間)は約3週間とされています。今回の研究では、この濃度が1リットルあたり50ナノモル未満の場合を「欠乏」と分類しました。また、年齢、性別、HIV感染の有無、季節、浮腫(むくみ)の有無、脳性麻痺の有無、居住国を含めた統計モデルで、濃度と関連する要因を検討しています。
研究でわかったこと
442人のうち33人(7.5%、95%信頼区間5.2〜10.3%)がビタミンD欠乏に該当し、この33人は全員がジンバブエの子どもでした。ザンビアの子どもの血中濃度(中央値89.1ナノモル/L)は、ジンバブエの子ども(同77.1ナノモル/L)より高く、この差は統計的に意味のあるものでした。ジンバブエ国内の2つの病院間では濃度に差はなかった一方、ザンビアの病院はこれら2病院よりも有意に高い値を示していました。
季節による違いも見られ、両国合わせた解析では、暑い季節(69.3ナノモル/L)は、雨季(79.1ナノモル/L)や涼しい季節(88.4ナノモル/L)より濃度が低い傾向がありました。ただしこの傾向はジンバブエでは明確だった一方、ザンビアでは季節による有意差は見られませんでした。著者らは、気温が下がると日光を避ける行動が減って皮膚でのビタミンD合成が進む可能性など、複数の要因が関係しうると考察しています。
年齢別では、生後1〜5か月の子どもで濃度が最も低く、この年齢層は完全母乳栄養で日光を浴びる機会も限られることが背景として考えられるとしています。多変量回帰分析では、生後6か月未満の子どもと比べて、6〜11か月、12〜23か月、24〜59か月の子どもはいずれも有意に高い濃度を示しました。また、脳性麻痺がない子どもは脳性麻痺がある子どもより有意に高い濃度を示し、涼しい季節の採取やザンビア居住も高い濃度と関連していました。この関連は、生後6か月未満の子どもを除いた感度分析でも同様に確認されています。
一方、性別による差、HIV感染の有無による差(HIV陽性児の方がむしろ濃度が高い傾向でしたが)、浮腫の有無による差は見られませんでした。また、退院後に死亡した36人と生存した406人との間でも、退院時のビタミンD濃度に有意な差はありませんでした。
この研究の位置づけと限界
著者らは、今回報告した欠乏率(7.5%)は、アフリカの他地域で報告されている栄養不良児の値より低い水準だとしつつ、いくつかの限界も挙げています。まず、栄養状態が良好な子どもや、SAM以外の理由で入院した子どもを比較対照群として含めることができませんでした。また、ザンビアとジンバブエのサンプル数に差があるため、国別の比較や、脳性麻痺・浮腫のある子どものように人数が少ないサブグループについては、結論を確定させるだけの統計的な力が十分でない可能性があるとしています。さらに、サンプルは各1回のみの測定であり、2つの異なる検査室で処理したことが、両国間の濃度差に影響した可能性も否定できないとしています。
著者らは、現在のRUTF(即席治療食)に含まれるビタミンD量がすべての子どもにとって十分かどうか、また追加のビタミンD補充が臨床的な転帰を改善するかどうか、特にリスクの高い集団を対象にさらに検討する必要があると述べています。欠乏が確認された場合には、各地域のガイドラインや方針に沿った管理を行うことを推奨しています。
まとめ
ザンビアとジンバブエでSAMから回復した442人の子どもを対象にした今回の横断研究では、退院時のビタミンD欠乏は7.5%に認められ、全員がジンバブエの子どもでした。年齢、季節、脳性麻痺の有無、居住国がビタミンDの状態と関連していた一方、性別やHIV感染の有無、浮腫の有無、その後の生存とは明確な関連が見られませんでした。これは一つの横断研究の結果であり、著者ら自身も対照群の不在やサンプル数の違いなど複数の限界を挙げています。ビタミンD補充が臨床的な転帰の改善につながるかどうかは、今後のさらなる研究が必要とされています。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:ザンビアおよびジンバブエにおける重症急性栄養不良から回復中の小児のビタミンD状態と関連因子の横断的分析(プロス・ワン・2026年08月)