この研究は、スペイン、ギリシャの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Frontiers in Bioinformatics

ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: Crossref

研究の目的

テーブルオリーブは地中海地域を代表する発酵野菜のひとつで、その発酵は主にラクティプランティバチルス属の乳酸菌によって進みます。研究チームによると、同じ属のLactiplantibacillus pentosusについてはゲノムレベルの研究が数多く行われてきた一方、オリーブ発酵に関わるLactiplantibacillus plantarumのゲノム情報はほとんど蓄積されていませんでした。

そこで著者らは、この知見の空白を埋めることを目的として、テーブルオリーブ発酵から分離された新規のL. plantarum菌株のゲノムを解読し、他の環境に由来する同種のゲノムと比較しました。

調べた対象と方法

対象となったのは、スペインのテーブルオリーブ発酵から分離されたLpl15とLPT703、そしてギリシャの発酵から分離されたB282という3つの新規株です。論文では、これらについて全ゲノム配列の解読と比較ゲノム解析が行われたと報告されています。

比較には、野菜の発酵、動物由来食品、ヒトに関連する環境など、さまざまな生態的由来をもつL. plantarumのゲノムが加えられました。用いられた手法として、ゲノム同士の塩基配列の似かたを数値で示す平均ヌクレオチド同一性(ANI)、ある種がもつ遺伝子全体の集合を扱うパンゲノム解析、そして多くの株に共通して存在するコアゲノムにもとづく系統解析が挙げられています。

主な報告結果

著者らの報告では、ゲノムの大きさは3.25〜3.50メガベースの範囲にあり、タンパク質をコードすると予測された遺伝子は3,060〜3,328個でした。Illuminaによる解読ではゲノムが断片的なままだったのに対し、複数の手法を組み合わせたハイブリッド解読によって、Lpl15株については染色体1本と3つのプラスミドを含む完全なゲノム配列が得られたとされています。

ANIによる比較でも系統解析でも、テーブルオリーブ発酵に固有の系統が存在することを支持する結果は得られませんでした。一方、機能面と代謝面の比較からは、生態的由来と結びついた2つの大きなゲノムグループが浮かび上がったと報告されています。野菜の発酵に主に関連するゲノムでは窒素代謝の経路が完全な形で備わっていなかったのに対し、動物由来の株では一般にこれらの機能が保たれていました。また野菜に関連する株では、菌が細胞の外に分泌する多糖(菌体外多糖)の生合成に関わる遺伝子が多く見られました。タンパク質ファミリーやドメイン、可動性遺伝因子に関する解析からも、生息環境と結びついたゲノムの特徴が示されたとしています。

この結果が意味すること

著者らは、テーブルオリーブ発酵に由来するL. plantarumは独立した進化系統を構成するわけではないと結論づけています。むしろ、環境への適応は系統の分岐としてではなく、生態的由来と結びついた機能的な特徴や、株ごとに異なる付随的な遺伝子として現れているようだと述べられています。

この見方は、同じ種でありながら多様な環境に広がるL. plantarumが、どのような形で各環境に適応しうるのかを考えるうえでの新たな手がかりになります。

著者:Elio López-García(Food Biotechnology Department, Instituto de La Grasa (CSIC), Campus Universitario Pablo de Olavide, Seville, Spain)、Antonio Benítez-Cabello(Food Biotechnology Department, Instituto de La Grasa (CSIC), Campus Universitario Pablo de Olavide, Seville, Spain)、Efstathios Z. Panagou(Laboratory of Microbiology and Biotechnology of Foods, Department of Food Science and Human Nutrition, School of Food and Nutritional Sciences, Agricultural University of Athens, Athens, Greece)、José Luis Ruiz-Barba(Food Biotechnology Department, Instituto de La Grasa (CSIC), Campus Universitario Pablo de Olavide, Seville, Spain)、Francisco Noé Arroyo-López(Food Biotechnology Department, Instituto de La Grasa (CSIC), Campus Universitario Pablo de Olavide, Seville, Spain)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Elio López-García, Antonio Benítez-Cabello, Efstathios Z. Panagou, et al. Comparative functional genomic analysis of table olive-associated Lactiplantibacillus plantarum strains. Frontiers in Bioinformatics 2026-09-01. DOI: 10.3389/fbinf.2026.1936258. 原著ライセンス:CC BY.