この研究は、イタリアの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Food Research International

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

小麦を避ける必要がある人向けのグルテンフリー食品は需要が高まっている一方で、食物繊維やたんぱく質が少なく、血糖値を上げやすいという課題が指摘されてきました。研究チームは、乾燥に強く食物繊維や機能性成分を多く含む雑穀ソルガム(モロコシ)に注目し、これをグルテンフリーのパンづくりに活かす方法を検討しました。

鍵となるのは、乳酸菌が発酵中につくる「菌体外多糖(EPS)」です。EPSはとろみをつける増粘剤のように働き、グルテンのない生地でも膨らみや食感を支えることが期待されます。さらにEPSにも、ソルガムにも、腸内の有用な菌を増やすプレバイオティクスとしての可能性が報告されてきました。ただし論文によれば、この二つを一つの食品として組み合わせたときにどうなるかは、これまで調べられていませんでした。そこで著者らは、EPSを多く含むソルガムのサワードウ(発酵種)を使ったグルテンフリーパンをつくり、その製パン特性と、腸内細菌への影響を評価することを目的としました。

どのように調べたか

まず、EPSをつくる能力を持つ4種類の乳酸菌をソルガムの生地に加え、発酵の温度(25℃と30℃)、時間(16時間と24時間)、砂糖(ショ糖)の添加量(5%と10%)を変えて、EPSが最もよくできる条件を探しました。EPSの生成量は生地の粘度の変化を手がかりに判断し、さらに菌の増え方、有機酸や糖の量、EPSの重量を測定しています。

次に、選ばれた発酵ソルガムをとうもろこし粉ベースのグルテンフリー生地に配合してパンを焼き、発酵させていない対照のパンと比べました。比較したのは、とうもろこし粉のみのパン、とうもろこし粉にソルガム粉を25%加えたパン、そして発酵ソルガムを配合した3種類のパンです。パンについては体積や硬さ、色といった性質、訓練を受けた15名のパネルによる官能評価、そしてでんぷんの消化されやすさを示す「加水分解指数」を調べました。

腸内細菌への影響は、動物実験を使わない代替手法として、MICODEと呼ばれる試験管内の大腸モデルで評価しました。健康な成人の便から採取した腸内細菌を用い、パンを口・胃・腸の消化酵素で処理したうえで、酸素のない大腸に近い環境の培養槽に加えて48時間発酵させ、菌の種類ごとの量の変化や、発酵によって生じる揮発性の代謝物を測定しています。

報告された主な結果

発酵条件の検討では、25℃で16時間、ショ糖10%という条件が良好で、ロイコノストック・シュードメセンテロイデスDSM20193という菌株が最も多くEPSをつくり、その量は生地100gあたり3.29gと報告されています。ワイセラ属の菌株でも、100gあたり1.19〜2.89gのEPSが得られました。発酵時間を24時間から16時間に短縮したのは、酸性が強くなりすぎるとEPSの生成が妨げられるためだと説明されています。

パンの性質では、EPSを多く含む発酵ソルガムを配合したものが、比重あたりの体積(比容積)で最大78%の増加、硬さでほぼ50%の低下を示し、官能評価でも受け入れられやすさが高まったと報告されています。でんぷんの加水分解指数は、とうもろこし粉のみのパンが98%だったのに対し、ソルガム粉を加えると有意に下がり、発酵ソルガムを配合するとさらに下がりました。著者らはこれを、ソルガムの食物繊維と、発酵による酸の生成などの働きによるものと考察しています。

大腸モデルでの発酵では、EPSを多く含むパンが腸内細菌のバランス(ユウバイオシス、つまり良好な状態)を保ちながら、ビフィズス菌の仲間や乳酸菌の仲間、次世代プロバイオティクスとして注目されるフィーカリバクテリウム・プラウスニッツィといった有益な菌群を増やし、一方でクロストリジウム・クラスターIや腸内細菌科といった日和見的な菌群を減らしたと報告されています。生態学的な指標でも、ソルガムを含まないパンや未発酵のソルガム粉のパンと比べて、プレバイオティクス作用とバランス改善の効果が高いことが確認されたとされています。

この研究が示すもの

この研究は、ソルガムという乾燥に強い穀物と、多糖をつくる乳酸菌による発酵を組み合わせることで、グルテンフリーパンの弱点とされてきた膨らみの乏しさや硬さを改善しつつ、試験管内の腸内細菌モデルでも好ましい変化が観察されたことを示しています。パンの食べやすさと、腸内環境への働きかけという二つの側面を、一つの配合の中で同時に狙えた点が、著者らの報告の中心にあります。

著者:Lorenzo Nissen(Dept. for the Promotion of Human Science and Quality of Life - San Raffaele University of Rome, Via di Val Cannuta 247, 00166 Rome, Italy)、Davide Addazii(Dept. of Agricultural and Food Sciences, University of Bologna, Piazza Goidanich 60, 47521 Cesena, Italy)、Andrea Gianotti(CIRI-Interdept. Centre of Agri-Food Industrial Research, University of Bologna, P.za G. Goidanich 60, 47521 Cesena, Italy)、Andrea Torreggiani(Dept. of Environmental Biology, “Sapienza” University of Rome, 00185 Rome, Italy)、Carlo Giuseppe Rizzello(Dept. of Environmental Biology, “Sapienza” University of Rome, 00185 Rome, Italy)、Michela Verni(Dept. for the Promotion of Human Science and Quality of Life - San Raffaele University of Rome, Via di Val Cannuta 247, 00166 Rome, Italy)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Lorenzo Nissen, Davide Addazii, Andrea Gianotti, et al. Optimization of an EPS-enriched gluten-free sorghum bread with improved technological properties and eubiotic potential: evidence from an in vitro colonic model. Food Research International 2026-08-26. DOI: 10.1016/j.foodres.2026.120554. 原著ライセンス:CC BY.