この研究は、中国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的と背景
発酵食品には、原料のタンパク質が分解されてできるアミノ酸が蓄積します。その一つであるチロシンは、量が増えると製品の品質上の問題につながることが知られています。研究チームは、こうしたチロシンに関わる品質課題を管理する手がかりを得るため、発酵食品から分離した細菌に注目しました。
対象となったのは、そら豆を原料とする発酵調味料「豆瓣醤(ブロードビーンペースト)」から分離された乳酸菌の一種、Enterococcus lactis KUST2812です。この菌は高い塩分濃度でも生きられる「耐塩性」を持ちます。著者らは、この菌が発酵のスターター(種菌)として使えるかどうかと、塩ストレスがチロシンの代謝にどう影響するかを調べました。
何を調べ、何が分かったか
まず安全性に関わる性質が確認されました。論文によれば、この菌は18%の食塩存在下で98.32%という高い生存率を示し、赤血球を壊す溶血活性は認められず、臨床上重要な抗生物質に対しては感受性を示したと報告されています。耐性は、その菌種がもともと備えている性質の範囲にとどまったとされています。
続いて、生育とチロシン代謝の関係が調べられました。6%の食塩は菌の増殖を明らかに妨げた一方で、チロシンの消費はむしろ速まりました。塩を加えない条件ではチロシンがなくなるまで96時間かかったのに対し、6%食塩の条件では12時間で消費されたと報告されています。著者らはこれを、塩ストレスが「増殖」と「チロシンの分解」を切り離す現象だと説明しています。
この変化の背景を探るため、遺伝子やタンパク質などを横断的に調べる多層オミクス解析が行われました。チロシンを分解する酵素の遺伝子(tdc)2つがそれぞれ1.85倍と6.50倍に、チロシンを菌体内へ取り込む輸送体の遺伝子(tyrP)が4.99倍に、タンパク質合成に関わる遺伝子(tyrS)が4.93倍に、それぞれ発現量を増やしていました。著者らは、これらがチロシンを複数の経路で使い分ける戦略を裏づけるとしています。あわせて、細胞内のナトリウムと水素イオンを入れ替える輸送系、浸透圧を調整する物質の輸送体、酸化ストレスの指標なども連動して変化しており、塩への適応を支える代謝的な基盤になっていると述べられています。
実際の豆瓣醤の発酵での評価では、この菌はチロシンの蓄積を減らす可能性が示され、その際にチラミン(チロシンが分解してできる物質)の顕著な増加は伴わなかったと報告されています。
この研究が示すこと
塩の多い環境では菌が弱って働かなくなる、と単純には考えにくいことをこの研究は示しました。増殖が抑えられていても、特定の代謝はむしろ活発になりうるという点です。
著者らは、この菌が発酵食品におけるチロシン関連の品質課題に取り組むための微生物資源となり、その仕組みを理解する理論的な土台を与えると位置づけています。なお、ここで紹介した内容は論文の抄録に記載された範囲にもとづいています。
著者:Xiaoqi Gong(Faculty of Food Science and Engineering, Kunming University of Science and Technology, Kunming 650500, China)、Qingyu Ma(School of Biological and Food Engineering, Honghe University, Mengzi 661199, China)、Yujie Zhong(Faculty of Food Science and Engineering, Kunming University of Science and Technology, Kunming 650500, China)、Zhijia Liu(Faculty of Food Science and Engineering, Kunming University of Science and Technology, Kunming 650500, China)、Chuanqi Chu(Faculty of Food Science and Engineering, Kunming University of Science and Technology, Kunming 650500, China)、Junjie Yi(Faculty of Food Science and Engineering, Kunming University of Science and Technology, Kunming 650500, China)、Tao Wang(Faculty of Food Science and Engineering, Kunming University of Science and Technology, Kunming 650500, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Xiaoqi Gong, Qingyu Ma, Yujie Zhong, et al. Salt Stress Accelerates Tyrosine Depletion by Enterococcus lactis KUST2812: Multi-Omics Insights into Metabolic Remodeling. Foods 2026-09-09. DOI: 10.3390/foods15183190. 原著ライセンス:CC BY.