この研究は、タイの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Aquaculture Reports
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
何を調べた研究か
バナメイエビ(Litopenaeus vannamei)の養殖現場では、微胞子虫の一種であるEcytonucleospora hepatopenaei(略称EHP、以前はEnterocytozoon hepatopenaeiと呼ばれた)による被害が問題になっています。研究チームによれば、この寄生虫は大量死を引き起こすというより、エビの成長を遅らせ、ほかの病原体への感染しやすさを高めるタイプの脅威です。
エビをはじめとする無脊椎動物は、体内に入り込んだ異物を「自分ではないもの」として見分ける仕組みを持っています。その役割を担うのがパターン認識タンパク質と呼ばれる分子群で、病原体の表面にある糖などの特徴的な分子を認識して免疫反応の引き金を引きます。レクチンは糖と結合するタンパク質の総称で、なかでもカルシウムイオンを必要とするものはC型レクチンと呼ばれます。
本研究の著者らは、バナメイエビが持つ可溶性C型レクチンの一つであるLvLectin1に着目し、これがEHP感染に対する防御でどのような働きをするのかを調べることを目的としました。具体的には、EHPに感染させたときの遺伝子の発現の変化、胞子を認識して結合・凝集させる能力、そしてエビの免疫応答への寄与を検討しています。
用いた方法と主な報告結果
論文では、EHPに感染したエビと同じ水槽で健康なエビを飼育する「同居感染」の手法を用い、血球と肝膵臓におけるレクチン関連遺伝子の発現量を測定しました。その結果、LvLectin1の発現は感染後7日目に顕著に上昇し、血球では非感染の対照群と比べておよそ3000倍、肝膵臓ではおよそ9.2倍の水準に達したと報告されています。
次に著者らは、大腸菌を使ってLvLectin1を人工的に作らせた組換えタンパク質(rLvLectin1)を精製し、その働きを試験管内で調べました。rLvLectin1はEHPの胞子に加え、カンジダ・アルビカンスという真菌や複数の細菌を寄せ集めて塊にする「凝集」を起こしました。走査型電子顕微鏡と蛍光顕微鏡による観察では、rLvLectin1が胞子の表面に結合している様子が確認され、胞子の形そのものを壊す様子は見られなかったとしています。
結合の強さを調べるELISAという実験では、解離定数(値が小さいほど結合が強いことを示す指標)が0.1681マイクロモーラーと算出されました。ここに単糖を加えて競わせると結合は弱まり、とくにN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)を加えたときに顕著に低下しました。GlcNAcは微胞子虫の胞子壁を構成するキチンの主要成分であることから、著者らはLvLectin1が胞子表面のGlcNAcを含む糖鎖、おそらくキチンを認識していると考えています。カルシウムを取り除くEDTAを加えた場合にも結合が弱まり、この結合がカルシウムに依存することが確かめられました。
さらに著者らは、EHPの胞子が宿主細胞に侵入する際に極管(きょくかん)と呼ばれる管を打ち出す「発芽」という現象に注目しました。rLvLectin1を2.5マイクロモーラーおよび5マイクロモーラーで加えると胞子が広く凝集し、発芽は完全に抑えられたと報告されています。加えて、rLvLectin1は血球による貪食(異物の取り込み)や、異物を血球が取り囲む被包化、黒い色素を沈着させるメラニン化を促し、その背景にあるプロフェノールオキシダーゼ系という免疫カスケードを活性化させました。逆に、RNA干渉という手法でLvLectin1の働きを抑えたエビでは、肝膵臓のEHP遺伝子コピー数が対照群より有意に高くなりました。
この研究が示すこと
これら一連の結果から、著者らはLvLectin1がEHPに対するエビの防御においてパターン認識タンパク質として機能していると結論づけています。胞子表面の糖鎖を手がかりに寄生虫を見分け、まとめて動きを封じ、同時に血球の働きを呼び起こす——そうした複数の役割を一つのタンパク質が担っている可能性を、この研究は示しています。
養殖エビの成長不良という見えにくい形の被害をもたらすEHPについて、エビ自身がどのように応答しているのかを分子のレベルで描き出した点に、本研究の意義があります。
著者:Warumporn Yingsunthonwattana(Center of Excellence for Molecular Biology and Genomics of Shrimp, Department of Biochemistry, Faculty of Science, Chulalongkorn University, Bangkok, 10330, Thailand)、Kanokporn Bunyanam(Center of Excellence for Molecular Biology and Genomics of Shrimp, Department of Biochemistry, Faculty of Science, Chulalongkorn University, Bangkok, 10330, Thailand)、Wisarut Junprung(Aquatic Animal Molecular Genetics and Advanced Genomics Technology Center, Marine Shrimp Broodstock Research Center II, Charoen Pokphand Foods Public Company Limited (CPF), Phetchaburi, 76000, Thailand)、Prakob Saman(Aquatic Animal Molecular Genetics and Advanced Genomics Technology Center, Marine Shrimp Broodstock Research Center II, Charoen Pokphand Foods Public Company Limited (CPF), Phetchaburi, 76000, Thailand)、Anchalee Tassanakajon(Center of Excellence for Molecular Biology and Genomics of Shrimp, Department of Biochemistry, Faculty of Science, Chulalongkorn University, Bangkok, 10330, Thailand)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Warumporn Yingsunthonwattana, Kanokporn Bunyanam, Wisarut Junprung, et al. Soluble C-type lectin LvLectin1 mediates recognition and agglutination of Ecytonucleospora hepatopenaei spores in Pacific white shrimp Litopenaeus vannamei. Aquaculture Reports 2026-08-28. DOI: 10.1016/j.aqrep.2026.103798. 原著ライセンス:CC BY.