この研究は、インドの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Scientific Reports

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の背景と目的

化学肥料は現代農業の収量を支えてきた一方、著者らは、過剰で偏った施用が土壌の劣化や酸性化、養分バランスの乱れを招き、長期的な土壌肥沃度を損なうと指摘しています。また窒素肥料はハーバー・ボッシュ法による製造そのものが多くのエネルギーを消費する、投入資材の中でも特にエネルギー集約的なものだと述べています。

そこで注目されるのが「生物肥料(バイオ肥料)」です。これは、窒素を固定したりリン酸やカリウムを植物が吸収しやすい形に変えたりする有用な微生物を含む資材のことで、なかでも液体タイプは微生物の生存率や保存性、付着のしやすさの点で従来の担体入り製剤より優れるとされています。研究チームは、これを種子にあらかじめ処理しておく「バイオプライミング(種子生物処理)」に着目しました。

ただし著者らによれば、複数の有用微生物を組み合わせた「有用微生物群(EM)」のような多機能な資材が、従来の単独菌資材と比べて養分利用効率やエネルギー収支、炭素収支の面でどう違うのかを比較した情報は乏しい状況でした。本研究の目的は、液体生物肥料による種子処理がダイズの収量・種子品質・養分利用効率・土壌の生物性に及ぼす影響を評価し、あわせてエネルギー効率や炭素効率、温室効果ガス排出強度への影響を数量化することです。

どのように調べたか

研究チームは、インド・ベンガルールの研究所の圃場で、2024年と2025年の雨季作(カリフ期、7〜10月)に2年間の野外試験を行いました。試験地は酸性の砂壌土で、窒素・リン・カリウムは中程度、有機炭素は低い水準でした。

試験は乱塊法(ランダム化ブロック計画)で、3反復・9処理を設けました。処理は、肥料も種子処理も行わない無処理区のほか、推奨施肥量100%を基準として、大学の推奨技術(殺菌剤とリゾビウムによる処理)、有用微生物群(EM)資材、リン酸可溶化細菌(PSB)、カリウム可溶化細菌(KSB)、アゾスピリラム、リゾビウム単独、これら3種の組み合わせ、そしてリゾビウム+PSB+トリコデルマからなるバイオ資材の組み合わせという構成です。種子は処理後に30分間陰干ししてから播種されました。

評価項目は、播種後60日の生育(葉面積、葉色を示すSPAD値、乾物重など)や根粒の数、収量とその構成要素、発芽率や粗タンパク質・油分などの種子品質、収穫時の土壌微生物数と土壌の全般的な生物活性を示すデヒドロゲナーゼ活性です。さらに、投入資材と収穫物にそれぞれ標準的な係数を掛け合わせる方法で、エネルギー収支と炭素収支の各指標が算出されました。なお年次と処理の交互作用は有意でなかったため、結果は2年間の平均として示されています。

報告された主な結果

論文によれば、有用微生物群(EM)資材で種子処理した区が全般に最も良好な値を示しました。播種後60日の葉面積は1株あたり2254.58平方センチメートル、SPAD値は55.9、乾物蓄積量は1株あたり18.49グラムで、いずれも有意に高い値でした。根粒についても、内部が赤みを帯びて活発に働いていると判定される「有効根粒」が1株あたり62個と最も多く、無処理区の23個を上回ったと報告されています。

収量面では、EM処理区は推奨施肥量100%の慣行処理区と比べて、1株あたりの莢数が28.08%、子実収量が8.3%、茎葉収量が14.6%高い値でした。実数では子実収量2592キログラム毎ヘクタール、茎葉収量3788キログラム毎ヘクタールです。種子品質でも発芽率96.67%、粗タンパク質39.36%、油分19.02%と高い値が示されました。

土壌側では、EM処理区で窒素固定菌、PSB、KSBの菌数が無処理区よりそれぞれ103%、78.2%、67.2%多く、デヒドロゲナーゼ活性も土壌1グラム・1日あたり64.67マイクログラムTPFと高い値でした。ただしこれらは、リゾビウム+PSB+KSB区やバイオ資材組み合わせ区と統計的に同等の水準だったとされています。

エネルギーと炭素の指標では、EM処理区でエコ効率57.74、炭素効率14.58、純エネルギー71213メガジュール毎ヘクタール、エネルギー生産性0.17キログラム毎メガジュールが得られ、温室効果ガス排出強度は0.43と最も低い値でした。経済面でも、無処理区に比べて粗収益43.7%、純収益68.4%、費用便益比22.7%の増加が報告されています。

この研究が示すこと

著者らは、液体生物肥料による種子処理が、ダイズの生産性を高めると同時に土壌の生物的な働きを改善し、推定される温室効果ガス排出強度を下げたと結論づけています。特に、単独の菌よりも複数の微生物を組み合わせた資材のほうが安定した効果を示した点は、土壌中での定着や競合といった条件のばらつきを補う仕組みとして説明されています。

収量という目に見える成果と、土壌微生物の活性やエネルギー・炭素の収支という見えにくい側面を同じ試験の中で並べて測った点に、この研究の特徴があります。化学肥料への依存を見直す方策を考えるうえで、種子という小さな入口からの微生物の導入がどれだけの広がりを持ちうるかを示す一例といえます。

著者:Chethan Kumar Talavar(University of Agricultural Sciences, GKVK, Bengaluru, 560065, India)、Pushpa Krishna(University of Agricultural Sciences, GKVK, Bengaluru, 560065, India)、Manjanagouda S. Sannagoudar(ICAR-National Institute of Seed Science and Technology, Regional Station, GKVK Campus, Bengaluru, 560065, India)、Krishnamurthy Rangaiah(ICAR-National Institute of Seed Science and Technology, Regional Station, GKVK Campus, Bengaluru, 560065, India)、Hadivappa Marulappa Jayadeva(University of Agricultural Sciences, GKVK, Bengaluru, 560065, India)、Vinay Mallikarjuna Gangana Gowdra(ICAR-National Institute of Seed Science and Technology, Regional Station, GKVK Campus, Bengaluru, 560065, India)、Ramya Parakkunnel(ICAR-National Institute of Seed Science and Technology, Regional Station, GKVK Campus, Bengaluru, 560065, India)、Shantharaja Chittanahalli Shivanna(ICAR-National Institute of Seed Science and Technology, Regional Station, GKVK Campus, Bengaluru, 560065, India)、Sripathy Kudekallu Vasudeva(ICAR-National Institute of Seed Science and Technology, Regional Station, GKVK Campus, Bengaluru, 560065, India)、C. Gireesh(ICAR-National Institute of Seed Science and Technology, Regional Station, GKVK Campus, Bengaluru, 560065, India)、Anandan Annamalai(ICAR-National Institute of Seed Science and Technology, Regional Station, GKVK Campus, Bengaluru, 560065, India)、Bhojaraja Naik Keshava(ICAR-National Institute of Seed Science and Technology, Regional Station, GKVK Campus, Bengaluru, 560065, India)、Udaya Bhaskar Kethineni(ICAR-National Institute of Seed Science and Technology, Regional Station, GKVK Campus, Bengaluru, 560065, India)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Chethan Kumar Talavar, Pushpa Krishna, Manjanagouda S. Sannagoudar, et al. Biopriming with liquid biofertilizers enhances productivity, seed quality, soil health, and resource use efficiency in soybean under semi-arid conditions. Scientific Reports 2026-08-28. DOI: 10.1038/s41598-026-68680-7. 原著ライセンス:CC BY.