著者の所属・活動拠点の国は、エストニアです。
掲載誌:Molecules
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
ナナカマド(Sorbus属)は、北欧など寒冷な気候によく適応する果樹で、これまであまり食品加工に活用されてこなかった果実です。酸味や渋みが強いため生食には向かないとされてきましたが、ジュースやピューレ、ジャム、ゼリー、マーマレードなどへの加工原料として使える可能性が注目されています。今回紹介する研究は、エストニア生命科学大学のポリ園芸研究センターに所属する研究者らが、甘みや色、加工適性に関わる基本的な性質が品種によってどれほど違うのかを調べたものです。
17種類のナナカマドを比較
研究チームは、甘みのある栽培品種、他の果樹(ナシ属やリンゴ属、アロニア属、サンザシ属など)との交配で生まれた種間雑種、そして野生種のセイヨウナナカマド(Sorbus aucuparia)を含む合計17種類のナナカマドの遺伝子型(ジェノタイプ)を、エストニアのポリ試験農場で同じ栽培条件のもとで収穫し比較しました。凍結保存した果実を解凍したうえで、低速ジューサーを使って果汁を搾り、「果実全体」「果汁」「搾りかす(ポマス)」という3つの画分に分けて、それぞれの糖と有機酸の量を高速液体クロマトグラフィーなどの機器分析で測定しています。
まず果実の重さは、野生種で0.40グラムだったのに対し、栽培品種「アラヤ・クルプナヤ」では1.55グラムに達し、遺伝子型によって果実サイズが大きく異なることが示されました。また、果実の色を数値化するCIELAB表色系(明るさや赤み・黄みを数値で表す方法)を使った分析では、赤黒い色をした「ブルカ」と「リケルナヤ」(いずれもナナカマドとアロニアの雑種)がひとつのグループを形成し、赤色系の雑種品種、そして野生種を含むオレンジ系の品種群という具合に、色の特徴に基づいて品種がいくつかのまとまりに分かれることも分かりました。
甘みと酸味のバランス、そして「ソルビトール」という糖
果実の糖度(可溶性固形分、いわゆる糖度計で測るブリックス度)と滴定酸度(酸っぱさの指標)の比率は、甘みと酸味のバランスを示す目安として使われています。この研究では、この比率が品種によって2倍近く異なり、「ブルカ」と「オランゼバヤ」が最も甘みと酸味のバランスが良い一方、「モラビカ」は酸味が際立って強いという結果が得られました。滴定酸度そのものも、「リケルナヤ」の2.38%や「ブルカ」の2.40%から、「モラビカ」の5.36%まで幅がありました。
糖の中身をさらに詳しく見ると、ナナカマドの果実に含まれる糖の中で最も多かったのは、ブドウ糖や果糖ではなく「ソルビトール」という糖アルコールでした。ソルビトールはバラ科の植物が光合成でつくった炭素を運んだり蓄えたりする際に中心的な役割を果たす物質で、低カロリーで血糖値を上げにくい甘味料として食品にも使われています。今回の測定では、ソルビトール量は品種によって大きな差があり、「リケルナヤ」の乾燥重量1グラムあたり46.2ミリグラムから、「クラスナヤ」の189.0ミリグラムまで、実に4倍以上の開きがありました。ブドウ糖・果糖・ソルビトールのいずれも、「クラスナヤ」「オランゼバヤ」「ロシカ」「クボバヤ」「ベフェド」といった品種で多く、「リケルナヤ」「ブルカ」「グラナトナヤ」で少ないという、一貫した傾向も見られています。
興味深いことに、糖の少なかった「リケルナヤ」「ブルカ」「グラナトナヤ」は、代わりに「シキミ酸」という有機酸を多く含んでいました。シキミ酸は植物が香りやポリフェノールなど二次的な成分を作る経路(シキミ酸経路)に関わる物質で、著者らは、糖を蓄えることに炭素を多く使う品種と、シキミ酸経路の成分作りに炭素を多く回す品種とがあるのではないか、という見方を示しています。ただしこれは代謝の流れそのものを直接測定した結果ではなく、著者ら自身も、この仮説を確かめるにはさらに代謝や遺伝子発現の詳しい分析が必要だとしています。有機酸全体では、リンゴ酸がすべての画分で最も多く、特に「クラスナヤ」の搾りかすでは乾燥重量1グラムあたり70.9ミリグラムに達しました。
果汁を搾ったあとの「搾りかす」に残るもの
この研究のもうひとつの着眼点は、果汁を搾ったあとに残る「搾りかす」に、糖や有機酸がどれだけ残っているかという点です。結果は意外にも、糖・有機酸ともに、果実全体や果汁よりも搾りかすで濃度が高いというものでした。搾りかすは果実全体の重さの1〜3割程度しか占めないにもかかわらず、乾燥重量あたりで見ると最も濃縮された画分になっていたのです。著者らは、この理由として、搾汁工程で糖や酸をすべて搾り出しきれないこと、また搾りかすを構成するセルロースやペクチンなどの繊維質の構造に、可溶性の成分が物理的に保持されやすいことを挙げています。つまり搾りかすは単なる残りかすではなく、追加で圧搾すればまだ果汁分を回収できる余地があり、食物繊維やペクチン、ミネラル、ポリフェノールに加えて糖や酸も含む、活用の余地がある副産物だと位置づけられています。
この研究をどう読むか
この研究は、エストニアの単一の試験農場で、1回の生育シーズンに収穫した果実を対象にしたものです。著者ら自身も、気象条件の年ごとの違いや、品種と栽培環境の組み合わせによる影響までは今回の結果だけでは評価できないと述べています。今回観察された品種ごとの傾向が、別の年や別の土地でも同じように現れるかどうかは、今後複数年・複数地点で確認する必要がある点として挙げられています。また、シキミ酸と糖蓄積の関係についても、あくまで観察された相関に基づく仮説であり、確定した結論ではありません。
とはいえ、17種類という幅広い遺伝子型を同じ条件で比較し、果実・果汁・搾りかすという3つの画分すべてで糖と有機酸の分布を調べた点は、品種選抜や搾りかすの有効活用を考えるうえで具体的な手がかりになるといえそうです。
原著論文の著者・所属:Viive Sarv(Polli Horticultural Research Centre, Institute of Agricultural and Environmental Sciences, Estonian University of Life Sciences, Uus 2, Polli, Mulgi Parish, 69108 Viljandi, Estonia)、H. Kaldmäe(Polli Horticultural Research Centre, Institute of Agricultural and Environmental Sciences, Estonian University of Life Sciences, Uus 2, Polli, Mulgi Parish, 69108 Viljandi, Estonia)、Alar Aluvee(Polli Horticultural Research Centre, Institute of Agricultural and Environmental Sciences, Estonian University of Life Sciences, Uus 2, Polli, Mulgi Parish, 69108 Viljandi, Estonia)
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Viive Sarv, H. Kaldmäe, Alar Aluvee. Compositional Variability of Rowanberry Genotypes and Sugar–Organic Acid Distribution Between Juice and Pomace. モレキュールズ (2026). DOI: 10.3390/molecules31162796. 原著ライセンス: cc-by.