スーパーの惣菜やお菓子を包むプラスチック包装は、便利さの一方で使い終わればほとんどがそのままゴミになります。土や海の中で分解されるまでに100年から1000年かかるとされ、細かく砕けたマイクロプラスチックが土壌や水系、さらには人の血液や肺、胎盤からも見つかるようになったことが報告されています。今回紹介する研究は、そうした使い捨てプラスチックの代わりになる包装材料を、海藻由来の成分とキャッサバのデンプンから作ろうという試みです。研究チームはインドネシアのPoliteknik Negeri Tanah LautとUniversitas Ibrahimyに所属しています。

研究の舞台となったインドネシアは、年間およそ987万トンのプラスチックごみを出し、海洋プラスチック汚染の発生量では世界第2位とされる国です。一方でこの国は紅藻の一種であるEucheuma cottonii(学名Kappaphycus alvarezii)の生産量が世界最大で、2023年の年間生産量は970万トンを超えるとされます。さらにキャッサバ(Manihot esculenta Crantz)の生産量も世界第3位(2023年に約1920万トン)で、この2つの国内資源を組み合わせれば、輸入に頼らない包装材料を作れるのではないかというのが研究の出発点です。

どうやって作り、何を調べたのか

研究チームはまず、東ジャワ・スメネップで採取したEucheuma cottoniiから、水酸化カリウム溶液を使ってカラギーナン(正確にはκ(カッパ)-カラギーナンという多糖)を抽出しました。得られたカラギーナンは硫酸基含量24.8%、ゲル強度312g/cm²で、食品グレードの基準(200g/cm²超)を満たす品質だったとしています。もう一方の原料であるキャッサバ(東ジャワ・マランで入手した現地品種「Adira-4」)からは、水洗いと沈殿を繰り返す湿式製法でデンプンを取り出し、アミロース含量18.7%という結果を得ました。

この2つの成分を、カラギーナンとキャッサバデンプンの重量比を10対0から0対10まで7段階に変えたフィルム(F1〜F7)として作成し、可塑剤としてグリセロールを加えて薄いシート状に成形しました。できあがったフィルムについて、厚さや透明度といった物理的な性質、引っ張り強度や伸び率などの力学的な性質、水蒸気や酸素の通しやすさ(バリア性)、赤外分光法(FTIR)や走査電子顕微鏡(SEM)、示差走査熱量測定(DSC)による構造・熱特性、土に埋めたときの分解のしやすさ、そして食品への安全性まで、幅広い項目をASTMやISO、インドネシア国家規格(SNI)、EU規則といった基準に沿って評価しています。

研究でわかったこと

7種類の配合のうち、カラギーナンとデンプンを5対5の割合で混ぜたF4が、もっともバランスの良い性質を示したと報告されています。具体的には引っ張り強度18.74MPa、破断伸び32.16%で、これは食品包装フィルムの目安とされるASTM D882の基準(強度10MPa超、伸び20%超)を上回る値です。興味深いのは、通常の高分子材料では強度と伸びやすさはトレードオフの関係になりやすいのに、F4ではその両方が同時に高まっていたという点です。研究チームは、赤外分光の測定でカラギーナンの硫酸基とデンプンの水酸基の間に水素結合が新たに生じていたことを確認し、この分子どうしの結びつきが、両方の性質を同時に押し上げた仕組みだと説明しています。熱測定(DSC)でも、単体のカラギーナンとデンプンがそれぞれ別の温度で変化するのに対し、F4では71.4℃というひとつの熱転移だけが見られ、2つの成分がよく混ざり合っていることを裏付けたとしています。また電子顕微鏡による観察でも、F4の断面にはひび割れやデンプン粒の残存が見られず、均一な構造だったと報告されています。

包装材料として重要な「ものを通しにくさ」については、水蒸気の透過率が126.8g/m²・日、酸素の透過率が42.3cm³/m²・日・気圧で、乾燥した食品やスナック類の包装には適した水準とされています。ただし研究チーム自身が指摘しているように、この水蒸気透過率は一般的なポリエチレン包装(8〜15g/m²・日)と比べるとかなり高く、湿気の多い食品への応用には向かない可能性があるとしています。

生分解性については、熱帯の堆肥化条件(気温28℃、湿度55%)を模した土壌埋設試験で、F4は30日間で94.7%の重量減少を示しました。これはISO規格が定める合格基準(180日以内に90%分解)を大きく上回るペースで、比較対象とした一般的なポリエチレン(6か月で1.2%未満の減少)とは対照的な結果だったとしています。食品への安全性試験では、50%エタノールを使った溶出試験での全体溶出量が4.82mg/dm²で、EU規則の上限値10mg/dm²やインドネシアのSNI規格の基準を下回り、鉛やカドミウムなどの重金属も検出限界に近い低い値だったと報告されています。

この研究の読み方

この研究は実験室レベルでの材料評価であり、実際の食品を包んで流通させる実証や、大規模な製造コストの検証までは行われていません。また、水蒸気を通しやすい点は研究チーム自身も限界として挙げており、蜜蝋やナノ粒子を加えるなどのさらなる改良が今後の課題として述べられています。あくまで一つの研究段階の成果であり、この包装材料がすぐに市場に出回ることを保証するものではない点には注意が必要です。

まとめ

海藻由来のカラギーナンとキャッサバのデンプンを5対5で混ぜ合わせることで、強度と伸びやすさ、酸素バリア性、そして高い生分解性を兼ね備えたフィルムができたとする研究です。原料となる海藻とキャッサバはいずれもインドネシアで豊富に生産されており、地域資源を生かした使い捨てプラスチック代替の可能性を示す基礎データとして位置づけられています。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Almira Ulimaz, Lovi Sandra. Development of Biodegradable Food Packaging from Seaweed and Cassava Starch as an Alternative to Single-Use Plastic. サイエンス・ゲット・ジャーナル (2026). DOI: 10.69855/science.v3i3.687. 原著ライセンス: cc-by.