この研究は、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Foods (Basel, Switzerland)

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC

研究の目的

石油由来のプラスチック包装は分解されにくく、環境中に長く残ることが問題となっています。そこで著者らは、植物由来の素材でつくれて、しかも食品を守る働きを持つ包装材料に注目しました。

この研究で用いられたのが「エアロゲル」と呼ばれる素材です。ゲルの中の液体を、構造を壊さないように気体に置き換えてつくる固体で、全体が細かい穴だらけの三次元構造になっています。論文によれば、こうした素材は非常に軽く、表面積が大きく、断熱性にも優れるとされます。細かい穴が多いため、抗菌性や抗酸化性を持つ成分をため込み、少しずつ放出させる担い手としても期待されています。

著者らが材料に選んだのは、アジア、特に中国で広く栽培される水生作物ヒシ(Trapa bispinosa Roxb.)から取り出したデンプン(以下、ヒシデンプン)です。これまでヒシデンプンは抽出方法や物理化学的性質、食品加工への利用が主に調べられてきましたが、エアロゲルの骨組みとして、またポリフェノールの担体として使えるかはほとんど検討されていなかったと論文は述べています。

閉じ込める対象として選ばれたのは、茶葉に含まれる主要なカテキンの一つエピガロカテキン(EGC)です。抗酸化性や抗菌性を持つ一方、酸素・光・水分・高温にさらされると酸化や分解を受けやすく、そのままでは扱いにくいという課題があります。そこで著者らは、ヒシデンプンのエアロゲルにEGCを担持させ、EGCを加えることが構造・物性・放出のしかたにどう影響するのかを明らかにすることを目的としました。

何を、どう調べたか

著者らはまず、皮をむいたヒシの塊茎から、うすいアルカリ溶液に懸濁して超音波をかける方法でデンプンを抽出しました。条件の最適化を行った結果、実際に得られた抽出率は平均65.16±0.85%、デンプン中のアミロース含量は20.31±0.20%と報告されています。

次に、抽出したデンプンを水に分散させて加熱してのり状にし(糊化)、型に流して−20℃で凍らせたうえで、真空下で凍結乾燥してエアロゲルにしました。凍結乾燥では、凍結時にできた氷の結晶が型の役目を果たし、それが真空中で昇華して抜けた跡が穴として残ります。デンプン量は水50mLに対して2.0g、2.5g、3.0gの三通りを比較しました。

そのうえで、選んだ配合にEGCを0.6g、1.2g、1.8g、2.5gと量を変えて加えたエアロゲルを作製しました。分子レベルの結びつきを見る赤外分光(FTIR)、結晶のようすを見るX線回折(XRD)、微細な形を見る電子顕微鏡(SEM)、ゲルの硬さや弾性を測るレオロジー測定と食感測定(テクスチャー解析)、さらに水や油の保持量、色の測定を行っています。加えて、EGCがどれくらい放出されるかを10日間にわたって調べる試験、大腸菌と黄色ブドウ球菌に対する抗菌性の試験、土壌に置いたときの分解のようすを見る試験も実施されました。

主な報告結果

配合の比較では、水50mLに2.5gのデンプンを用いた系がもっとも適していたと報告されています。2.0gでは弱いゲルしかできず、3.0gでは粘性的な性質が優勢で安定した弾性のある網目構造ができなかった一方、2.5gではゲルとしての強さと扱いやすさのつり合いが最もよかったためです。実際、この配合のエアロゲルは硬さ約205.67±6.17N、弾性(スプリンギネス)0.85で、試した中で最も高い値を示しました。

構造の分析からは、加工によってデンプンの性質が大きく変わることが示されました。抽出したままのヒシデンプン粒はA型と呼ばれる結晶構造に特徴的な回折ピークを示し、電子顕微鏡では表面のなめらかな楕円形の粒として観察されました。ところが糊化と凍結乾燥を経たエアロゲルでは結晶性は実質的に0%となり、ほぼ非晶質(結晶の秩序を持たない状態)に変わっていました。一方でFTIRのスペクトルはデンプン本来の特徴的なピークを保っており、化学的な骨格そのものは変化していないと著者らは述べています。電子顕微鏡では、緻密な粒の集まりから、穴どうしがつながった軽い多孔質構造へと形が完全に変わったことが確認されました。

EGCを加えたエアロゲルでは、FTIRでデンプンとEGCの両方の特徴的なピークが現れ、EGCが確かに取り込まれたことが示されました。水酸基に由来する吸収帯が3442cm⁻¹から3432cm⁻¹へと低い波数側に移り、幅も広がる傾向が見られたことから、EGCのフェノール性水酸基とデンプンの水酸基のあいだに水素結合が生まれた可能性が示唆されています。新しいピークは現れなかったため、両者の関わりは共有結合を伴うものではなく主に物理的なものだと解釈されています。XRDでは、EGCの量が増えるほど鋭いピークが強まりました。著者らはこれを、EGCが分子レベルまでばらけるのではなく結晶のまま非晶質のデンプン網目の中に分散している状態を示すものと考えています。

穴の多さ(空孔率)はEGCの量によって単純には変わりませんでした。EGCを含まないエアロゲルの空孔率は51.07%でしたが、0.6gで28.66%に下がり、1.2gで18.74%と最も低くなり、1.8gでは36.76%、2.5gでは37.69%と回復しています。電子顕微鏡の観察では、1.2gでつながった網目が緻密で不規則な塊に置き換わり、1.8gではより整った構造で穴の壁も丈夫そうに見え、2.5gでは粒子の集まりが見られたと報告されています。著者らは1.8gあたりではEGCが網目をつなぎ留める補助的な役割を果たした可能性を、2.5gではデンプンが抱えられる量を超えてEGCが集まり、相分離が起きた可能性を指摘しています。

物性面では、EGCを加えたエアロゲルはEGCなしのものと比べて硬さと弾性が大きく下がりました。またEGCの濃度が上がるにつれて硬さは高まり、弾性は下がっています。著者らはこれを、デンプン鎖とEGCの結びつきが網目の密度を高めて分子の動きを抑え、硬く緻密だが柔軟さに乏しい構造になるためと説明しています。見た目の変化も大きく、EGCなしのものとの色差(ΔE)は31.23から44.81に及び、明るさを示すL値は0.6gの59.15から2.5gの70.89へと上昇しました。これはEGCの粉末が白いことと合っています。

この研究が示すこと

この研究は、これまで十分に活用されてこなかったヒシのデンプンから多孔質のエアロゲルをつくれること、そして茶由来のEGCをその中に取り込めることを、構造と物性の両面から示したものです。

特に重要なのは、EGCを加える量が構造の良し悪しを単純に決めるわけではなく、穴の多さや硬さ・弾性が量に応じて複雑に変わるという点です。デンプンとポリフェノールの結びつきが、ゲルができる過程や凍結乾燥の過程にどう働くかによって、できあがる素材の姿が変わる——著者らの結果は、こうした分子レベルの相互作用と素材の構造・機能とのつながりを読み解く手がかりを与えています。デンプンを土台に天然の機能性成分を安定して保持・放出させる材料を設計するうえでの、基礎的な知見といえます。

著者:Dong X(Hubei Key Laboratory of Resource Utilization and Quality Control of Characteristic Crops, College of Life Science and Technology, Hubei Engineering University, Xiaogan 432000, China.; National "111" Center for Cellular Regulation and Molecular Pharmaceutics, Hubei University of Technology, Wuhan 430068, China.)、Wu J(Hubei Key Laboratory of Resource Utilization and Quality Control of Characteristic Crops, College of Life Science and Technology, Hubei Engineering University, Xiaogan 432000, China.)、Yao T(Hubei Key Laboratory of Resource Utilization and Quality Control of Characteristic Crops, College of Life Science and Technology, Hubei Engineering University, Xiaogan 432000, China.; National "111" Center for Cellular Regulation and Molecular Pharmaceutics, Hubei University of Technology, Wuhan 430068, China.)、Xu P(Hubei Key Laboratory of Resource Utilization and Quality Control of Characteristic Crops, College of Life Science and Technology, Hubei Engineering University, Xiaogan 432000, China.)、Zeng S(Hubei Key Laboratory of Resource Utilization and Quality Control of Characteristic Crops, College of Life Science and Technology, Hubei Engineering University, Xiaogan 432000, China.)、Chang Y(Hubei Key Laboratory of Resource Utilization and Quality Control of Characteristic Crops, College of Life Science and Technology, Hubei Engineering University, Xiaogan 432000, China.)、Liu J(Hubei Key Laboratory of Resource Utilization and Quality Control of Characteristic Crops, College of Life Science and Technology, Hubei Engineering University, Xiaogan 432000, China.)、Wang H(Hubei Key Laboratory of Resource Utilization and Quality Control of Characteristic Crops, College of Life Science and Technology, Hubei Engineering University, Xiaogan 432000, China.)、Zhang X(Hubei Key Laboratory of Resource Utilization and Quality Control of Characteristic Crops, College of Life Science and Technology, Hubei Engineering University, Xiaogan 432000, China.)、Li L(Hubei Key Laboratory of Resource Utilization and Quality Control of Characteristic Crops, College of Life Science and Technology, Hubei Engineering University, Xiaogan 432000, China.; College of Food Science & Technology, Huazhong Agricultural University, Wuhan 430070, China.)、Huang M(Hubei Key Laboratory of Resource Utilization and Quality Control of Characteristic Crops, College of Life Science and Technology, Hubei Engineering University, Xiaogan 432000, China.)、Han Y(Hubei Key Laboratory of Resource Utilization and Quality Control of Characteristic Crops, College of Life Science and Technology, Hubei Engineering University, Xiaogan 432000, China.; National "111" Center for Cellular Regulation and Molecular Pharmaceutics, Hubei University of Technology, Wuhan 430068, China.)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Dong X, Wu J, Yao T, et al. Development of Epigallocatechin-Loaded Water Caltrop Starch Aerogels: Structure, Functional Properties and In Vitro Release Behavior. Foods (Basel, Switzerland) 2026-09-19. DOI: 10.3390/foods15183320. 原著ライセンス:CC BY.