この研究は、ブラジルの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Journal of Food Measurement & Characterization

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

捨てられてきた「中果皮」に目を向ける

バーバス(Attalea speciosa)はヤシ科の樹木で、その果実であるバーバスヤシの実はブラジルを中心に広く産出されます。実は外側の薄い外果皮、デンプンを多く含む中果皮、硬い内果皮、そして1〜8個の種子(核)から成りますが、産業として利用されているのはほぼ核だけです。核は実全体の重さのわずか7%ほどですが、油の含有量が高く、化粧品などの分野で価値の高い原料として扱われています。

一方、実の23%を占める中果皮は、油を採った後に大量に残るにもかかわらず、ほとんど活用されないままです。著者らによれば、2010年から2024年のあいだにブラジルで20万トンを超える中果皮が発生したと推定されますが、その多くは未処理または未利用のままとどまっています。中果皮は最大85%に達するデンプンを含むとされ、非従来型のデンプン源として有望だと報告されています。

ただし課題があります。中果皮は繊維やタンパク質、脂質が複雑に絡み合った組織で、そこからデンプン粒だけをきれいに取り出すのは簡単ではありません。従来は中性・酸性・アルカリ性の溶液に浸す「湿式製粉」が使われてきましたが、化学排水や薬剤の残留といった問題を伴います。そこで研究チームは、薬剤に頼らない「グリーン」な手法がこの素材に使えるかどうかを調べることにしました。著者らは、バーバス中果皮についてこうしたグリーンな分離法を検討した研究はこれまで存在しないと述べています。

6通りの取り出し方を比べる

研究チームは、ブラジル・ロンドニア州で採取した実から中果皮を手作業で取り出し、5日間天日干ししてから粉砕し、中果皮粉を用意しました。この粉を出発点として、6通りの条件でデンプンを分離しました。冷水に5℃で18時間浸す方法(CW)、温水に45℃で8時間浸す方法(WW)、複数の酵素を含む市販の酵素複合剤を使う方法(EZ)、超音波を3分間かける方法(US)、そして酵素処理のあとに超音波をかける方法(EZ/US)と、その順序を逆にした方法(US/EZ)です。ここで使われた酵素複合剤は、細胞壁を構成する成分を分解する働きを持つもので、繊維の壁をゆるめてデンプン粒を解放することが狙いです。超音波も同様に、細かな泡の発生と崩壊(キャビテーション)によって組織を壊す効果が期待されます。

得られたデンプンについて、収率と純度のほか、成分組成、粒の形と大きさ、結晶構造、加熱したときのふるまい(糊化)、糊としての粘りの変化などを調べました。各処理は独立に3回繰り返され、統計的に比較されています。なお本文中の「アミロース」と「アミロペクチン」は、デンプンを構成する2種類の分子で、前者は直鎖状、後者は枝分かれした構造をしています。この比率がデンプンの性質を大きく左右します。

期待に反し、新しい技術は収率を上げなかった

著者らが報告する中心的な結果は、やや意外なものでした。酵素や超音波といった新しい技術は、昔ながらの冷水浸漬に比べてデンプンの収率も純度も高めなかったのです。収率は冷水で72.5%だったのに対し、超音波のみの処理では67.8%と、統計的に有意に低下した唯一の条件となりました。著者らはこれを、超音波処理の前に十分な浸漬(マセレーション)の工程がなかったため、繊維質の組織からデンプンが十分に放出されなかったことと結び付けています。他の作物での報告も引きながら、組織を軟らかくする浸漬時間こそがデンプンの放出を左右し、技術を強化してもその不足は補えないと論じています。

純度でも冷水法が最も良く、デンプン含量95.47%と、デンプン以外の炭水化物が最も少ない結果でした。酵素と超音波を組み合わせた処理は、それぞれ単独で行うよりは純度を改善しましたが、その改善は収率の向上にはつながりませんでした。著者らはここに純度と収率のトレードオフがあると指摘しています。

構造面でも超音波の影響が現れました。超音波処理で得たデンプンはアミロース含量が31.70%と最も低く(他の条件では最大40.21%)、糊化に必要な熱量(糊化エンタルピー)も12.55 J/gと有意に低下しました。著者らはこれを、キャビテーションによってデンプン粒の表面に亀裂が入り、直鎖状のアミロースが溶け出したこと、また結晶領域が壊れて相転移に要するエネルギーが減ったことによると説明しています。

一方で、6つの方法に共通する特徴もありました。いずれのデンプンも明度70以上の淡い黄色みを帯びた色をしており、市販トウモロコシデンプンより黄色寄りではあるものの、著者らは多くの食品用途で許容範囲内だとしています。粒の大きさは約2μmと約17μmに山を持つ二峰性の分布を示し、結晶構造はいずれもC型でした。C型はA型とB型の両方の特徴を併せ持つ構造で、豆類やバナナ、キャッサバなどのデンプンにみられます。また、偏光顕微鏡で十字模様(マルタ十字)が確認されたことから、どの処理でもデンプンは糊化していない、つまり天然の状態が保たれていたと報告されています。

この研究が示すこと

著者らの結論は、今回検討した範囲において、最も単純な冷水浸漬が最も費用対効果が高く持続可能な道筋であり、純度95%以上の天然デンプンを工業規模で得るのに適しているというものです。酵素の購入費用や高エネルギーの物理処理を伴わなくても、バーバス中果皮からデンプンを分離できることを示した点が、技術経済的な意味を持つと述べられています。

同時にこの研究は、分離方法が単に「取り出せるかどうか」の問題ではないことも示しています。方法によってアミロース含量、結晶性、糊としてのふるまいが変わり、酵素処理と超音波処理では老化(レトログラデーション)の傾向が低くなりました。つまり分離方法は、目的に応じてデンプンの性質を調整する手段にもなり得るということです。捨てられてきた副産物をどう見直すかを考えるうえで、素朴な方法が必ずしも劣らないという知見は示唆に富んでいます。

著者:Poliana Sander Ferreira(Escola de Química, Universidade Federal do Rio de Janeiro, Rio de Janeiro, 21941-909, RJ, Brazil)、Julia Brito da Silva(Escola de Química, Universidade Federal do Rio de Janeiro, Rio de Janeiro, 21941-909, RJ, Brazil)、Pedro Saleti Cordeiro(Escola de Química, Universidade Federal do Rio de Janeiro, Rio de Janeiro, 21941-909, RJ, Brazil)、Melícia Cintia Galdeano(Embrapa Agroindústria de Alimentos, Rio de Janeiro, 23020-470, RJ, Brazil)、Eveline Lopes Almeida(Escola de Química, Universidade Federal do Rio de Janeiro, Rio de Janeiro, 21941-909, RJ, Brazil)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Poliana Sander Ferreira, Julia Brito da Silva, Pedro Saleti Cordeiro, et al. Green-assisted extraction of babassu (Attalea speciosa) mesocarp starch: impact of multi-enzymatic and physical strategies on multi-scale structure and techno-functional properties. Journal of Food Measurement & Characterization 2026-09-02. DOI: 10.1007/s11694-026-04902-w. 原著ライセンス:CC BY.