この研究は、ブラジルの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Starch - Stärke

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

食品の製造では、水や油、合成添加物を使わずに素材をまとめる方法が求められています。粉末を強い力で押し固めて形にする「圧縮成形」は化学・医薬・食品の分野で広く使われていますが、食品の材料は熱や圧力のもとで複雑にふるまうため、応用が難しいとされてきました。

研究チームが着目したのはデンプンです。デンプンは入手しやすく安価で用途が広い一方、粒の中に規則正しく並んだ結晶構造をもつため、押し固めても体積が縮みにくく、圧縮成形には向かないという弱点があります。そこで著者らは、熱と水分を使った物理的な改質法である「加熱–水分処理(HMT: heat–moisture treatment)」でこの弱点を補えるかを検討しました。HMTとは、水分量を一定に抑えたまま高温にさらし、粒の内部で分子の並び方を組み替える処理です。原料には、収量が高くアフリカ・アジア・ラテンアメリカで広く栽培されるサツマイモから取り出したデンプンを用いました。論文では、圧縮成形によるデンプン主体の食品の製造を調べた研究はこれまでにないと述べられています。

何を調べたか

著者らは、サツマイモデンプンに水を加えて冷蔵で一晩なじませたのち、130℃で4時間乾燥させ、粉砕してHMT改質デンプンを作りました。処理前の天然デンプンと改質デンプンについて、電子顕微鏡による形の観察と粒子径、色、X線回折による結晶性、赤外分光による化学結合、水分量、そして微生物の増えやすさの目安となる水分活性を測定しています。

次に、デンプン(約82.6%)、ハチミツ(約8.3%)、クルクミン(約4.1%)、シナモン(約5.0%)を混ぜて直径3cmの円盤に成形し、油圧プレスで1トン、3トン、5トンの力を2分間かけてスナックを作製しました。できあがったスナックについては、断面や表面の構造、色、水分活性、結晶性、厚み、かたさの指標となるせん断強度を調べ、さらに5名の訓練を受けたパネルによる官能評価(見た目・味・におい・食感・色を9段階で採点する探索的な評価)を行っています。

報告された主な結果

天然のサツマイモデンプンは直径2〜23µmの球形や多角形の粒でしたが、HMT後は本来の粒の構造が失われ、130〜520µmの大きく不規則な塊に変化したと報告されています。X線回折では、天然デンプンに見られた鋭いピークが弱まり、結晶の割合は11.4%から2.35%へ低下しました。赤外分光の結果とあわせ、著者らはHMTが新しい官能基を生み出すことなく分子の並びを組み替える物理的な改質であるとしています。色は明るさが96.76から79.68へ下がり、赤みと黄みが増しました。著者らはこれを、加熱による非酵素的な褐変反応によるものと説明しています。

スナックでは、原料デンプンの種類が圧縮する力よりも仕上がりを左右する要因だったと述べられています。天然デンプンのスナックは粒が残った不均一な構造で、もろく「砂っぽい」質感でしたが、改質デンプンのスナックは空隙の少ない緻密で均質な構造になりました。かたさの指標であるせん断強度は、天然デンプンの4.5〜10.4Nに対し、改質デンプンでは25.3〜33.3Nと約3倍に達しました。厚みも改質デンプンのほうが薄く、力を1トンから3トンへ上げると薄くなり、3〜5トンでは横ばいになりました。水分活性はいずれの試料でも0.285〜0.323にとどまり、微生物が増えるために必要とされる0.60を大きく下回っていたと報告されています。

官能評価では、においと色に統計的に意味のある差はなく、差が出たのは食感でした。天然デンプンのスナックが3.8〜4.2と「好ましくない」側の評点だったのに対し、改質デンプンのスナックは7.6〜8.0を得ました。総合的な受容性も、評価者の人数が少ないため統計的には同等ながら、改質デンプンのほうが平均で高い点(7.0〜7.2、天然は6.0〜6.2)でした。著者らは、最も高いせん断強度と緻密な構造を示した5トン・改質デンプンの試料が食感でも最高評価を得たことから、パネルが硬さと構造のまとまりを望ましい「サクサク感」として受け取ったと考察しています。

この研究が示すこと

この研究は、熱と水分だけを使う物理的な改質でデンプンの結晶構造をくずすと、押し固めたときにまとまりやすくなり、機械的にも官能的にも受け入れられるスナックが得られることを、原著の報告として示しました。合成添加物も水も油も使わず、機械的な加工だけで製品が得られた点を、著者らは特徴として挙げています。著者らは今後の課題として、圧縮成形スナックの栄養面や消化性の検討を挙げています。

著者:Giovanna Gonzalez Amadio(Department of Chemical and Food Engineering Federal University of Santa Catarina Florianópolis Santa Catarina Brazil)、Raul Remor Dalsasso(Department of Chemical and Food Engineering Federal University of Santa Catarina Florianópolis Santa Catarina Brazil)、Paola Andrea Perdomo Gonzalez(Department of Chemical and Food Engineering Federal University of Santa Catarina Florianópolis Santa Catarina Brazil)、Alcilene Rodrigues Monteiro(Department of Chemical and Food Engineering Federal University of Santa Catarina Florianópolis Santa Catarina Brazil)、Germán Ayala Valencia(Department of Chemical and Food Engineering Federal University of Santa Catarina Florianópolis Santa Catarina Brazil)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Giovanna Gonzalez Amadio, Raul Remor Dalsasso, Paola Andrea Perdomo Gonzalez, et al. Physicochemical Properties, Microstructure, and Sensory Analysis of Compression‐Molded Snacks Based on Modified Starch Produced by Heat‐Moisture Treatment. Starch - Stärke 2026-09-01. DOI: 10.1002/star.70295. 原著ライセンス:CC BY.