この研究は、韓国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Comprehensive Reviews in Food Science and Food Safety

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

何を目的とした研究か

著者らは、アミロスクラーゼ(ASase)と呼ばれる酵素について、これまでに蓄積された知見を整理し、食品や医薬品の素材づくりに活かすための課題と方向性をまとめることを目的として、この総説をまとめています。

ASaseは、ショ糖(砂糖)だけを原料にして、ブドウ糖どうしがα-1,4という結合でつながった糖の鎖をつくる酵素です。似た働きをもつ酵素群(グルカンスクラーゼ)は通常、α-1,6やα-1,3といった別の結合をつくりますが、ASaseはα-1,4結合だけをつくる点、そして糖質分解酵素ファミリー13(GH13)に分類される唯一のメンバーである点で特異だと論文は説明しています。

著者らは、従来の総説が酵素の基本的な性質や微生物からの発見、デンプン加工の一般的な方法を記述するにとどまっていたと位置づけ、本総説ではそれらとの違いとして、人工知能を使った酵素設計、構造と生成物の対応関係、工業化に向けた工程上のボトルネックまでを含めて論じたとしています。

どのように整理し、何が報告されているか

総説は既存の研究報告を横断的に検討する形式をとっており、微生物ごとのASaseの性質、立体構造と反応の関係、酵素を人工的に改変する研究、そして生成物ごとの応用研究という順に論点を整理しています。

ASaseの反応の仕組みについては次のように説明されています。酵素はまずショ糖と反応して果糖を切り離し、ブドウ糖が酵素に結合した中間体をつくります。この中間体は水と反応してブドウ糖を放出することもあれば、別の糖(受け手となる分子)と反応して糖鎖を伸ばすこともあります。周囲に果糖が十分あると果糖自身が受け手になり、トゥラノースやトレハルロースといったショ糖の異性体(同じ成分だが結合の仕方が違う糖)が生じます。受け手としてフラボノイドやイソフラボンなどのポリフェノールを使えば、それらに糖を結合させた化合物をつくることもできると論文は述べています。

微生物由来のASaseには機能の多様性があると報告されています。至適pHは細菌の種類によらずおおむね6〜8で共通する一方、至適温度や熱への安定性は由来によって大きく異なります。よく研究されている2種を比べると、Neisseria polysaccharea由来(NpAS)は糖鎖を伸ばす活性が高い一方で熱に弱く、Deinococcus geothermalis由来(DgAS)は熱安定性と比活性が高い一方で糖鎖伸長の活性が低い、という対照的な性質が示されています。著者らは、こうした違いが活性部位周辺のくぼみ(活性ポケット)の形の違いに結びついていると説明しています。また、Truepera radiovictrix由来のASaseは融解温度69.6°Cという際立った熱安定性を示すと紹介されています。

配列が似ているだけでは同じ働きとは限らない例も挙げられています。NpASと高い配列一致を示したXanthomonas campestris由来の遺伝子は、実際にはショ糖を分解するだけでα-1,4グルカンもショ糖異性体もつくらないスクロース加水分解酵素だったと報告されており、構造研究により活性ポケット周辺のアミノ酸配列の違いが原因と示されたとしています。

酵素の改変研究では、活性部位近くのアミノ酸を置き換えたり、ループと呼ばれる柔軟な部分の動きやすさを変えたりすることで、生成物の性質が変わることが報告されています。例えばDgASのループ3に着目した改変体A226Nは、糖鎖を伸ばす反応と分解反応の比率が大きく改善したとされています。近年はタンパク質言語モデルなどのAI技術や分子動力学シミュレーション(原子の動きを時間を追って計算する手法)が、こうした改変候補の予測に用いられるようになっていると論文は述べています。

生成物ごとの応用に関する報告

ASaseがショ糖からつくる短鎖グルカン(SCG)は、条件によって鎖の長さが変わる糖の混合物で、平衡状態では自然に集まってマイクロメートル大の安定した粒子を形成すると報告されています。この粒子を使って、水に溶けにくく化学的に不安定なβ-カロテンを包み込んだ研究では、遊離状態や分散液よりも紫外線や酸化に対して強い微粒子が得られたとされています。Bifidobacterium属の4種のASaseを比較した研究では、収率39.8〜63.2%、粒子径0.92〜3.17マイクロメートル、数平均重合度18.6〜25.8と、使う酵素によって粒子の性質が異なることが示され、酵素の選択が粒子設計の手段になりうると述べられています。

ショ糖異性体の生産についても多くの報告が整理されています。トゥラノースは酸性条件で安定なため果汁やヨーグルト飲料への利用が注目され、天然のはちみつに含まれるものの量が限られるため酵素合成が検討されてきました。NpASを用いた条件最適化で56.2%、Neisseria subflava由来の酵素で76%の収率が報告され、さらに構造にもとづく改変では、BtASの二重変異体Y414F/P200Rが89.3%の収率に達したとされています。BtASのG374S変異体を担体に固定化した研究では、55°Cでの半減期が約50時間、10回の再利用後も初期活性の68%を保持したと報告されています。一方トレハルロースについては、Deinococcus属のASaseが選択的に生成しやすく、D. deserti由来の酵素が条件最適化で最大36%の収率を示したとされています。

デンプンの改質も主要な応用分野として扱われています。ASaseは、枝分かれの多いアミロペクチンの非還元末端にブドウ糖を付け足して枝を長くします。この処理により、重合度25〜36の長い鎖が増えて重合度6〜12の短い鎖が減り、伸びた鎖が二重らせんをつくってB型の結晶構造が形成されると報告されています。その結果、糊化温度や融解エンタルピーが上がって熱に強くなり、粒の膨潤が抑えられて最高粘度が下がるといった変化が示されています。消化性の面では、急速に消化されるデンプンが減り、ゆっくり消化されるデンプンや難消化性デンプンの割合が増えると整理されており、DgASを30°Cで反応させた研究では50°Cの場合より長い側鎖が多く生じ、難消化性デンプンが未処理デンプンのほぼ2倍に増えたと報告されています。焼き菓子での予備的な検討では、小麦粉の10〜30%を置き換えるとクッキーの直径が小さく高さが増す変化がみられ、ゆっくり消化されるデンプンの割合が最大38.7%まで高まったとされていますが、著者らはヒトでの検証はこれからだと明記しています。

この総説が示すこと

著者らは、ASaseがショ糖という身近で安価な原料ひとつから、糖の粒子、希少な糖、改質デンプン、そして糖を結合させた機能性化合物まで、性質の異なる多様な素材をつくり分けられる酵素であることを、個別の報告を突き合わせる形で示しています。何がつくられるかは酵素の由来や立体構造、活性部位周辺の柔軟性に左右されるため、目的に応じて酵素を選び、設計するという考え方が有効だという見通しが述べられています。

同時に、課題も率直に整理されています。異性体の混合物を分離する下流の精製工程には擬似移動床クロマトグラフィーのような高コストな技術が必要で、工業化の主な壁は酵素反応そのものではなく分離・精製にあると指摘されています。粒子への内包についても、対象物質ごとに包み込みやすさや安定性が大きく異なるにもかかわらず、比較可能な報告の基準がまだ整っていないと述べられています。また、ASaseを構成する複数の構造領域(ドメイン)のうちCドメインと呼ばれる部分が、酵素の働きや分子どうしの会合にどう関わるかは未解明のまま残されているとされています。

つまりこの総説は、ASaseをめぐる研究が個別の成果の積み重ねから、構造の理解と計算科学を手がかりに目的の素材を狙って設計する段階へ移りつつある状況と、その実現のために何がまだ足りないのかを、あわせて描き出したものといえます。

著者:Dong‐Ho Seo(Department of Food Science & Biotechnology, and Carbohydrate Bioproduct Research Center Sejong University Seoul Republic of Korea)、Byung‐Hoo Lee(Department of Food Science & Biotechnology, and Carbohydrate Bioproduct Research Center Sejong University Seoul Republic of Korea)、Sang‐Ho Yoo(Department of Food Science & Biotechnology, and Carbohydrate Bioproduct Research Center Sejong University Seoul Republic of Korea)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Dong‐Ho Seo, Byung‐Hoo Lee, Sang‐Ho Yoo. Amylosucrase as a Versatile Biocatalyst for Next‐Generation Functional Ingredients: Starch Modification and Glycoside Synthesis. Comprehensive Reviews in Food Science and Food Safety 2026-09-01. DOI: 10.1111/1541-4337.70656. 原著ライセンス:CC BY.