著者の所属・活動拠点の国は、インドネシアです。

掲載誌:Aquaculture Aquarium Conservation & Legislation

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

鉱山周辺の海で何が起きているかを知るために

ヒ素、カドミウム、水銀、鉛などの重金属は、自然界にもわずかに存在します。しかし人間の活動によって濃度が大きく上がることがあります。分解されずに環境中に残り、生物の体や海底の泥にたまりやすい性質があるため、海の生態系や、魚介類を食べる人の健康への影響が心配されています。鉱山開発は、雨水による流出、土壌の侵食、廃棄物を通じて、こうした金属を沿岸の海へ運び込む原因の一つとされています。

インドネシア北スラウェシ州のサンギヘ諸島県は鉱物資源を持ち、鉱山開発が進んでいる地域です。一方で、その活動が周辺の海にどう影響しているかを示す科学的な情報は限られていました。そこで研究チームは、鉱山周辺の海の水質と、海水・堆積物・ナマコに含まれる4種類の重金属(ヒ素、カドミウム、水銀、鉛)を調べました。さらに、その値がインドネシアの環境基準を満たすかを評価し、生物への蓄積の兆候と生態系へのリスクを検討しました。

二つの村の沿岸で海水、海底の泥、ナマコを採取

調査は2026年4月に、鉱山に近いビネバス村とボウォネ村の沿岸で行われました。水質については、各村に3か所ずつ測定地点を設けました。水温、pH(酸性・アルカリ性の度合い)、濁度、溶存酸素(水に溶けている酸素の量)、総溶解固形物(水に溶けている物質の総量)、塩分、水深を、それぞれの地点で3回ずつ測定しました。

これとは別に、海底表層の堆積物とナマコを、二つの村それぞれで1回ずつ採取しました。堆積物は各村の試料を2回繰り返して分析し、ナマコは各村の試料(200 g)を繰り返しなしで分析しています。ナマコは、ビネバスではクロナマコ(Holothuria atra)、ボウォネではHolothuria leucospilotaという種類です。ナマコは海底の泥を飲み込み、その中の有機物を食べて暮らします。そのため堆積物の汚れを反映しやすい「生物指標」として知られています。また、アジアでは食材としても取引されています。

重金属の濃度は、試料を酸で分解したうえで、原子吸光分析法で測定しました。これは、元素ごとに特定の光を吸収する性質を利用する方法です。得られた値は、インドネシア政府が港湾、海洋観光、海洋生物という用途別に定める海水の基準値と比較されました。汚染の程度は、測定値を基準値で割った比率などで示されています。

水質は生物に適した範囲、重金属は多くが基準を超過

水質の測定では、水温はおよそ28.6〜29.3℃、pHは7.3〜7.8程度でした。濁度は基準の5 NTU未満、溶存酸素は海洋生物に必要とされる5 mg/Lを上回り、塩分も自然な海の範囲に収まっていました。著者らは、両地点の水質がナマコを含む海洋生物の生育に適した範囲にあると報告しています。総溶解固形物は過去の研究より比較的高い値でしたが、熱帯沿岸の通常の海水と大きく矛盾しない水準とされています。

一方、論文が報告した海水中の重金属濃度は、ヒ素が1.83〜2.71 mg/kg、水銀が0.06〜0.08 mg/kg、鉛が1.53〜22.15 mg/kgでした。カドミウムは0.01 mg/kg未満と低い値でした。論文によると、ヒ素は海洋観光や海洋生物の基準を100倍以上、水銀は基準をおよそ20〜80倍上回っていました。鉛はとくにビネバスで21.66〜22.15 mg/kgと高く、海洋観光の基準を400倍以上超えていました。研究チームは、鉛と水銀を最も深刻な汚染物質と位置づけています。カドミウムについては、港湾の基準はおおむね満たす一方、海洋生物向けの基準には近いか上回る水準と評価しました。

ビネバスで鉛の値が際立って高かったことについて、著者らは、近くの鉱山活動に関係する局所的な汚染源がある可能性を示しています。

重金属の分布は、海水中で高く、堆積物やナマコでは低い傾向でした。ただし水銀は、堆積物(0.03 mg/kg)とナマコ(0.04 mg/kg)からも検出されました。著者らはこの結果を、金属の多くがまだ海水中に溶けたり漂ったりしている段階にあり、海底への沈着や生物への蓄積は始まったばかりであることを示すものと解釈しています。

水質が良好に見えても、重金属は別に見る必要がある

この研究は、水温や酸素などの一般的な水質指標が生物に適した範囲にあっても、同じ海域で重金属が基準を大きく超えている場合があることを報告しています。水銀が海水・堆積物・ナマコのすべてから見つかったことは、汚染物質が環境の中で移り始めている兆しとして示されました。

ただし、鉱山活動がこれらの汚染の原因であるかどうかは、さらに調べる必要があると著者ら自身が述べています。そのうえで、海水・堆積物・生物に含まれる重金属を継続的に監視し、沿岸住民の健康リスクを評価する必要性を指摘しています。

原著論文の著者・所属:Daniel F. Aling(Doctoral Program in Marine Science, Postgraduate Program, Sam Ratulangi University, Manado, North Sulawesi, Indonesia)、Rene C. Kepel(Faculty of Fisheries and Marine Science, Sam Ratulangi University, Manado, North Sulawesi, Indonesia)、Daisy M. Makapedua(Faculty of Fisheries and Marine Science, Sam Ratulangi University, Manado, North Sulawesi, Indonesia)、Flora P. Kalalo(Faculty of Law, Sam Ratulangi University, Manado, North Sulawesi, Indonesia)、James J. H. Paulus(Faculty of Fisheries and Marine Science, Sam Ratulangi University, Manado, North Sulawesi, Indonesia)、Sipriana S. Tumembow(Faculty of Fisheries and Marine Science, Sam Ratulangi University, Manado, North Sulawesi, Indonesia)、Desy M. H. Mantiri(Faculty of Fisheries and Marine Science, Sam Ratulangi University, Manado, North Sulawesi, Indonesia)、Reiny A. Tumbol(Faculty of Fisheries and Marine Science, Sam Ratulangi University, Manado, North Sulawesi, Indonesia)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Daniel F. Aling, Rene C. Kepel, Daisy M. Makapedua, et al. Water quality and heavy metal contents in sediments and sea cucumbers from the Sangihe Islands, North Sulawesi, Indonesia. Aquaculture Aquarium Conservation & Legislation 2026-08-10. DOI: 10.67784/0014. 原著ライセンス:CC BY.