著者の所属・活動拠点の国は、インドネシアです。

掲載誌:Chi e Journal of Japanese Learning and Teaching

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:ネット上の言葉の「風景」からブランド像を読む

街の看板や標識にどの言語がどれだけ目立って使われているかを調べる分野を「言語景観」研究と呼びます。研究チームは、この考え方をSNSなどのデジタル空間に広げた「バーチャル言語景観」という視点から、日本の飲料ブランドがInstagramの言葉づかいを通じてどのようなブランド像を作っているかを調べました。

背景にあるのは、製品の生産国のイメージが購買者の受け止め方に影響する「原産国効果」という考え方です。著者らは、インドネシアでは日本製品が品質や信頼性の面で好意的に見られていると述べています。一方、日本国内では「日本の製品であること」は当たり前の前提です。そこで研究チームは、インドネシア向けの発信では意図的に「日本らしさ」が強調されているのか、そして同じ製品の日本国内向けの発信とはどう違うのかを問いとしました。

何を調べたか:2ブランド・4アカウントの投稿文

対象は、大塚製薬の「ポカリスエット」と伊藤園の「お〜いお茶」です。著者らは、両ブランドの日本とインドネシアの公式Instagramアカウントで2025年11月から2026年4月までに公開された投稿を集めました。分析したのは画像や動画の中の文字ではなく、投稿に添えられたキャプション(説明文)です。

研究は、数値で効果を測るのではなく内容を読み解いて記述する質的研究として行われました。まず投稿の主なテーマを分類し、次にインドネシア向け投稿のキャプションに出てくる日本関連の語を拾い出してその出現回数を数え、さらに日本向けアカウントと比べて共通点と違いを整理しています。

主な結果:ブランドと市場ごとに異なる見せ方

お〜いお茶では、観察期間中の投稿数が日本12件に対しインドネシア95件と大きく異なりました。日本のアカウントは、ブランドアンバサダーを務める大谷翔平選手に関連した野球の話題が半数以上を占めていました。研究チームは、世界で活躍する選手を通じて、国際的に認められた日本の誇りや日本茶文化の担い手というイメージを打ち出していると読み取っています。インドネシアのアカウントでは日常生活、教育・情報、活動的なライフスタイル、製品の長所といったテーマが多く、「Jepang(日本)」「ocha」「sakura」「hanami」などの語や「日本でNo.1の緑茶」という表現、無糖であることが用いられていました。著者らは、甘い飲料が好まれる市場で、苦みのある無糖緑茶を本物の健康的な日本茶として受け入れてもらうために「日本らしさ」が使われていると解釈しています。

ポカリスエットでは、日本のアカウント87件のうち41件が写真をテーマとしていました。ファンが「#ポカリフォト」で投稿した写真を紹介する形が中心で、キャプションには「写真」「カメラ」「ファインダー」「光」といった語や、「アオハル(青春)」「女子」「キッズ」など若さを感じさせる語が多く見られました。研究チームは、製品の機能を説明するよりも、見た目の美しさや若者との感情的なつながりを通じてブランドへの愛着を育てる戦略だとみています。

これに対しインドネシアのポカリスエットでは、55件の投稿のうち9割近くが体の水分補給に関する健康教育の内容でした。デング熱による体の弱り、暑さ、帰省(ムディック)の旅の疲れ、ラマダン中の水分補給といった現地の生活や宗教行事に結びつけた発信が見られました。一方で「Jepang」「sakura」のような日本を連想させる語は一度も使われておらず、「Tokyo」が2回出てくるのも、アンバサダーが参加した東京マラソンの開催地を示すためだったと報告されています。

この研究が示すこと

著者らは、インドネシアでの「日本らしさ」の使い方はきわめて選択的で、製品の種類や現地での慣れ親しみの度合いによって左右されると結論づけています。日本茶のように味や品質の受け止め方に日本の印象が関わる製品では「日本らしさ」が前面に出され、機能が重視される飲料では現地の暮らしに寄り添った発信が選ばれていました。また日本国内では、両ブランドとも製品の基本説明を省き、感情的なつながりやライフスタイル、国際的な威信を重んじた発信をしていました。

同じ日本の飲料であっても、SNSの言葉づかいを比べると、「日本製であること」は常に打ち出される看板ではなく、製品と市場に応じて使い分けられる手札の一つとして扱われている。研究はそうした姿を描き出しています。

原著論文の著者・所属:Muthi Afifah(Universitan Pendidikan Indonesia)、Sugihartono Sugihartono(Universitas Pendidikan Indonesia)、Susi Widianti(Universitas Pendidikan Indonesia)、Jeni Putra(Universitas Pendidikan Indonesia)、Adinda Nursyaharani(Universitas Pendidikan Indonesia)、⁠Michelle Safana(Universitas Pendidikan Indonesia)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Muthi Afifah, Sugihartono Sugihartono, Susi Widianti, et al. Virtual Linguistic Landscape on Social Media: Brand Image Construction of Japanese Beverages in Japan and Indonesia. Chi e Journal of Japanese Learning and Teaching 2026-10-30. DOI: 10.15294/chie.v14i2.64298. 原著ライセンス:CC BY.