著者の所属・活動拠点の国は、イギリスです。
掲載誌:FSA research and evidence.
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
なぜ尿から甘味料を調べるのか
加工食品や、それに含まれる食品添加物をどれだけ摂取しているかへの関心が高まっています。しかし、実際の摂取量を把握するのは簡単ではありません。英国では、砂糖の代わりに甘みをつける「非糖質甘味料(いわゆる人工甘味料など)」は製品表示に名前を記載する必要がありますが、含有量の開示までは義務づけられていません。そのため、食事内容の記録から摂取量を正確に推計することは困難です。
英国の全国食事栄養調査(NDNS)は、国民の食事内容を代表的に把握する主要な調査です。ただし、もともと栄養素の摂取量を推計するために設計されており、甘味料などの添加物の量は記録されていません。たとえば、同じ種類の清涼飲料でも、甘味料を含む製品と含まない製品は個別の商品レベルでなければ区別できません。
そこで研究チームは、体に取り込まれた物質の痕跡を尿などから測る「バイオモニタリング」に着目しました。NDNSで保管されている尿試料を分析し、国民の甘味料へのばく露(体が物質にさらされること)を把握できるかを確かめる、概念実証(手法が成り立つかを確かめる初期段階の研究)として実施されました。
何をどのように調べたか
分析に用いたのは、2022〜2023年にNDNSで集められ、将来の研究への利用に同意を得て保管されていた、4歳以上の参加者740人分の尿試料です。いずれも一日分をためた尿ではなく、ある時点で一回採取した「スポット尿」です。
研究チームは、液体クロマトグラフィーと質量分析計を組み合わせた高感度の分析法を用いて、尿中の甘味料を測定しました。対象は、アセスルファムK、サッカリン、シクラミン酸ナトリウム、スクラロースといった代表的な甘味料と、エリスリトールやキシリトールなどの天然の糖アルコール類です。ステビア由来の成分は、尿中のほかの成分による干渉のため信頼できる定量ができず、結果から除かれました。
広く使われているアスパルテームは、腸内で速やかに分解され、もともと体内にあるアミノ酸などに変わってしまうため、尿から直接測ることができません。著者らは、アスパルテームがアセスルファムKと一定の比率で組み合わせて使われることが多い点に注目し、アセスルファムKを手がかりにアスパルテームの摂取を推定できる可能性を示しています。
尿の濃さは人や時間によって変わるため、筋肉から一定の量が排出されるクレアチニンという物質も同時に測り、その値で補正しました。さらに既存の推計式を用いて、一日あたりの排出量を推計し、年齢、性別、世帯収入、体格指数(BMI)などとの関連も調べました。あわせて、各甘味料が体内でどのように吸収・代謝・排出されるかについて、文献調査も行っています。
主な結果
報告によると、甘味料へのばく露は英国の人々のあいだでほぼ普遍的に見られました。試料の90%に少なくとも1種類の人工甘味料が含まれ、85%では4種類以上の甘味料が検出されました。著者らは、甘味料へのばく露は集団にとって「標準的な状態」になっていると述べています。
年齢による違いも見られました。4〜18歳の子どもや若者では、大人に比べて尿中の相対的な濃度が有意に高く、検出される甘味料の種類も多い傾向がありました。
また、推計した一日排出量では、シクラミン酸ナトリウムとサッカリンが世帯収入と負の関連を示しました。つまり、収入が低い世帯ほど排出量が多い傾向です。スクラロースとアセスルファムKは、男性やBMIの高い人で濃度が高い傾向でした。ただし、これらは関連を示したもので、原因と結果の関係を示したものではありません。
検出された濃度の幅は大きく、著者らは、最も高い値は直前の摂取によるもので、日常的に続く摂取量を示すものではないと考えています。多くの甘味料は体内での半減期が2〜8時間程度と短く、一回採取の尿では、直前にいつ食べたり飲んだりしたかに結果が大きく左右されるためです。
この研究が示すこと
著者らは、今回の結果はあくまで目安であり、加工食品や食品添加物、甘味料のばく露について現時点で結論を導くために使うべきではないと強調しています。個人ごとの摂取量の信頼できる推計でもありません。そのうえで、最悪の場合を想定した仮定を用いても、ばく露が安全でないことを示す兆候は見られなかったと報告しています。
この研究は、全国調査の尿試料を使って、集団レベルの甘味料ばく露を捉えられることを示しました。一回採取の尿は「どれくらいの人がさらされているか」をつかむ質的な概観には役立つ一方、量を正確に把握するには一日分の尿の分析が次の段階になると、研究チームは位置づけています。食事記録だけでは見えにくかった食品添加物の実態に、尿という客観的な手がかりから迫る第一歩といえます。
原著論文の著者・所属:Albert Koulman(University of Cambridge)、Barbora Horch(University of Cambridge)、Solomon Sowah(University of Cambridge)、Sarah Meadows(University of Cambridge)、Kerry Jones(University of Cambridge)、David Collins(University of Cambridge)、Polly Page(University of Cambridge)、Andy Axon(Food Standards Agency)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Albert Koulman, Barbora Horch, Solomon Sowah, et al. NDNS Biomonitoring for Exposure to Food Additives. FSA research and evidence. 2026-10-08. DOI: 10.46756/001c.172246. 原著ライセンス:CC BY.