著者の所属・活動拠点の国は、ベルギーです。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:添加物由来の有害元素はどれくらいか
ヒ素、カドミウム、鉛、水銀といった有害元素を長期間取り込むことは、健康への悪影響が知られている公衆衛生上の課題です。これらの元素は主に土壌から植物、動物へと移る自然の経路で食物連鎖に入りますが、食品添加物に不純物として含まれることで食品に持ち込まれる経路もあります。
欧州連合では添加物ごとに有害元素の上限を定めた規格があります。しかし、市販の添加物に実際にどの程度含まれているかを示す公開データは乏しく、欧州食品安全機関(EFSA)の専門家パネルも、規格上限いっぱいまで含まれていた場合には無視できない摂取につながりうるとして、このデータ不足を問題視していました。
そこで研究チームは、ベルギー市場で入手できる食品添加物を対象に、これら4元素の含有量を測定しました。さらに、その測定値をもとに、添加物を通じた摂取量と健康リスクを年齢層ごとに見積もることを目的としました。
何を、どのように調べたか
著者らはまず、ベルギーの食品での使用頻度、過去の監視データ、規格上の上限値、推定摂取量などを考慮し、有害元素の摂取源として重要になりうる22種類の添加物を選びました。このうち試料を複数集められた17種類について分析を行いました。対象には、クエン酸やアスコルビン酸(ビタミンC)、海藻由来の増粘剤であるアルギン酸ナトリウムやカラギーナン、ペクチン、炭酸カルシウムや塩化カルシウムなどの鉱物系添加物が含まれます。
測定には、微量元素を高感度で調べる質量分析法や、水銀の専用分析装置を用いました。ヒ素は、毒性の強い無機ヒ素と比較的毒性の低い有機ヒ素で健康影響が異なるため、ヒ素が一定以上含まれる一部の試料では無機ヒ素を分けて測りました。分けて測らなかった試料では、安全側に立って、ヒ素はすべて無機ヒ素であると仮定しています。
摂取量の推定では、EFSAが示したベルギーの人々の添加物摂取量の推計と、今回の含有量の測定値を組み合わせました。どちらにも個人差やばらつきがあるため、値を確率的にランダムに選んで掛け合わせ、複数の添加物について合計する計算を繰り返しました。この「モンテカルロ・シミュレーション」により、子ども、10代、成人、高齢者のそれぞれについて1万人分の仮想的な摂取量を求めています。
評価結果は、健康影響の目安となる基準値と比べられました。鉛と無機ヒ素では「曝露マージン」という指標を使っています。これは、影響が現れ始める目安の量が推定摂取量の何倍にあたるかを示す値で、小さいほど余裕が少ないことを意味します。
主な結果:海藻由来の添加物で高く、子どもで余裕が小さい
有機系の添加物で有害元素の濃度が最も高かったのは、海藻由来のアルギン酸ナトリウムとカラギーナンでした。研究チームは、海藻がもともと有害元素をため込みやすいことがこの背景にあると述べています。ただし、アルギン酸ナトリウムのヒ素は主に有機ヒ素だったのに対し、カラギーナンでは最大で32%が無機ヒ素でした。また、この2種類の測定値はいずれも現行の規格上限に適合していたと報告されています。
鉱物系の添加物やペクチンも有害元素の検出に関わっていました。一方、精製工程を経てつくられる添加物では、含有量はごくわずかでした。同じ添加物でも、入手先によって濃度に大きな差が見られました。
複数の添加物を合わせた鉛の摂取量は、成人では食事全体からの鉛摂取量の最大約18%に達しうると見積もられました。それでも成人の曝露マージンは10以上で、腎臓や心血管への目立った影響は予想されないとしています。一方、子どもでは鉛の曝露マージンが平均的な摂取で約4、摂取量の多い上位5%にあたる人で約2と小さく、リスクは低いと考えられるものの、懸念がないとは言い切れない水準でした。鉛の摂取への寄与が大きかったのは、アルギン酸ナトリウム、ペクチン、塩化カルシウムでした。
無機ヒ素についても、10代と成人の曝露マージンは平均的な摂取で6、上位5%で3であり、懸念がないとは言い切れないと評価されました。子どもの推定摂取量は成人の約3倍でした。寄与が大きかったのは炭酸カルシウム、カラギーナン、硫酸カルシウムです。これに対し、カドミウムと水銀の摂取量は、健康影響の目安となる許容量を大きく下回りました。
この研究が示すこと
この研究は、食品添加物が有害元素、とりわけ鉛と無機ヒ素の摂取源の一つになりうることを、市販品の実際の測定値に基づいて示しました。添加物の種類や入手先によって含有量に大きな違いがあること、そして子どもでは推定摂取量が成人より高く、評価上の余裕が小さくなることがデータから具体的に示された点に意義があります。
原著論文の著者・所属:Céleste Vansnick(Risk and Health Impact Assessment, Sciensano, 1050 Brussels, Belgium; Trace Elements and Nanomaterials, Sciensano, 3080 Tervuren, Belgium)、Karlien Cheyns(Flemish Institute for Technological Research (VITO), 2400 Mol, Belgium; Trace Elements and Nanomaterials, Sciensano, 3080 Tervuren, Belgium)、Daniela Montalvo(Trace Elements and Nanomaterials, Sciensano, 3080 Tervuren, Belgium)、Nadia Waegeneers(Risk and Health Impact Assessment, Sciensano, 1050 Brussels, Belgium)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Céleste Vansnick, Karlien Cheyns, Daniela Montalvo, et al. Occurrence of and Dietary Exposure to Toxic Element Impurities in Food Additives: A Probabilistic Exposure Assessment for the Belgian Population. Foods 2026-10-20. DOI: 10.3390/foods15203734. 原著ライセンス:CC BY.