著者の所属・活動拠点の国は、バングラデシュです。

掲載誌:PLoS ONE

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

新しい作物チアに現れた病気を調べる

チア(Salvia hispanica)は、オメガ3脂肪酸やたんぱく質、食物繊維などを含む種子が注目されている作物で、バングラデシュでは近年導入されました。研究チームによると、新しく導入された作物では、気候の変化や病原体の移動に伴って新たな病気が現れるおそれがあります。特に、多くの種類の植物に感染できる病原菌は新しい作物にも定着しやすく、警戒が必要とされています。

2024年3月、バングラデシュ農業大学(マイメンシン)の試験圃場で、チアに「ターゲットスポット(輪紋状の斑点病)」に似た症状が見つかりました。葉・茎・花序に、同心円状の模様を持つ斑点が広がっていました。この病気を起こす菌として知られるコリネスポラ・カシイコラ(Corynespora cassiicola)は、70か国以上で400種を超える植物に感染すると報告されています。ただし、バングラデシュのチアでの発生はこれまで記録がありませんでした。そこで著者らは、病原菌の正体を確かめるとともに、他の作物への感染力や、どの殺菌剤が菌の生育を抑えるかを調べました。

菌を取り出し、形と遺伝子で正体を確かめる

圃場では約0.25ヘクタールで症状が見られ、発病した株の割合は23〜47%でした。研究チームは、感染した8株から計24の菌株を分離しました。症状は、播種から約3週間後の生育初期に赤レンガ色の斑点として現れ、開花期にかけて悪化していったと報告されています。

培養した菌は、初めはオリーブ色で、次第に褐色に変わるコロニーをつくりました。研究チームはまず、顕微鏡で観察した胞子の形や大きさ、胞子の内部に見られる仕切りの特徴から、コリネスポラ属の菌と判断しました。さらに、菌の種類を見分ける目印としてよく使われる2つのDNA領域(ITS領域とTEF-1α遺伝子)を2株について解読しました。その結果、配列はデータベースに登録されたC. cassiicolaの配列とほぼ一致しました。系統解析でも、2株は同種の基準株と同じグループに入りました。

次に、この菌が本当に病気の原因かを確かめるため、健康なチアの苗に胞子の液を吹きかけました。その結果、葉には6〜8日、茎や花序には10〜15日で典型的な斑点が現れました。一方、比較用の株には、胞子を含まない同じ液(界面活性剤を0.1%加えた滅菌蒸留水)を吹きかけましたが、症状は出ませんでした。また、発病した組織からは同じ菌が再び分離されました。この手順は、ある微生物が病気の原因であることを示すための古典的な手順(コッホの原則)に沿ったものです。これらの結果から、著者らはC. cassiicolaがバングラデシュにおけるチアのターゲットスポット病の原因であると結論づけています。

他の野菜にも感染し、殺菌剤ごとに効き方に差

研究チームは、バングラデシュで一般に栽培される6種類の作物にも菌を接種しました。対象は、トマト、トウガラシ、ナス、ダイズ、フジマメの一種(カントリービーン)、ユウガオです。その結果、菌はどの作物にも感染しましたが、病気の重さは作物によって異なりました。トマトでは、接種後10日以内に株全体がしおれて倒れました。ナスやダイズでも重い症状が出ました。ユウガオでは葉に目立つ壊死斑ができたものの、株全体が倒れることはありませんでした。トウガラシとフジマメでは症状が局所的な斑点にとどまり、比較的かかりにくい傾向が見られました。

殺菌剤の効果は、実験室内で調べられました。薬剤を混ぜた培地の上で、菌糸の伸びがどれだけ抑えられるかを測る方法です。試験した7種類の製剤のうち、最も強く菌の生育を抑えたのはカルベンダジムを含む製剤でした。この製剤は、1リットルあたり10ミリグラムに相当する濃度で約98%の抑制を示し、それより高い濃度では生育を完全に止めました。ヘキサコナゾールを含む製剤も、同じ濃度で約86%の抑制を示しました。

研究チームは、菌の生育を半分に抑える濃度(EC50)も推定しました。この値が小さいほど、低い濃度で効くことを意味します。EC50はカルベンダジム製剤が最も低く、次いでアゾキシストロビンとジフェノコナゾールの混合剤、ヘキサコナゾール製剤、プロピコナゾール製剤の順でした。マンコゼブ製剤は、試験した中で最も効果が弱い結果でした。他の2つの混合剤とマンコゼブ製剤については、信頼できるEC50を推定できなかったと報告されています。また著者らは、アゾキシストロビンとジフェノコナゾールの混合剤について、低い濃度でよく効く一方、到達する抑制の程度はヘキサコナゾールより低かったと指摘しています。そのため、EC50だけでは殺菌剤の性能を十分に表せない可能性があると述べています。

新しい作物での早期発見と継続的な監視の大切さ

この研究は、バングラデシュのチアでC. cassiicolaによる病気が発生したことを初めて報告したものです。チアでのこの病気は、これまでインドでしか報告されていませんでした。このため著者らは、この菌が南アジアでチアへの分布を広げている可能性があると見ています。また、この菌は国内の主要な野菜にも感染しうることが示されました。著者らは、この病気をチアだけの問題ではなく、より広い作物への脅威として監視する必要があると論じています。

殺菌剤の結果は、あくまで実験室内で菌糸の生育を抑える効果を比べたものです。著者らは、圃場での効果は別途確かめる必要があると述べています。さらに、この菌は殺菌剤への耐性を獲得しやすいとされ、他の地域ではカルベンダジムに耐性を持つ菌の集団も報告されています。そのため研究チームは、薬剤だけに頼らないことが重要だとしています。具体的には、菌の薬剤への反応を定期的に確認することや、衛生管理などを組み合わせた病害管理を挙げています。この研究は、新しく導入された作物にどのような病気が入り込むかを早い段階でとらえることの意義を示したものといえます。

原著論文の著者・所属:Avi Kumar Badhon(Institute of Biotechnology and Genetic Engineering, Gazipur Agricultural University)、Dipali Rani Gupta(Institute of Biotechnology and Genetic Engineering, Gazipur Agricultural University)、Swapan Kumar Paul(Bangladesh Agricultural University)、Julfikar Ali(Institute of Biotechnology and Genetic Engineering, Gazipur Agricultural University)、Md. Moshiur Rahman(Bangladesh Agricultural University)、Tofazzal Islam(Institute of Biotechnology and Genetic Engineering, Gazipur Agricultural University)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Avi Kumar Badhon, Dipali Rani Gupta, Swapan Kumar Paul, et al. First occurrence of Corynespora cassiicola infecting chia plant in Bangladesh and sensitivity of the pathogen to selected fungicides. PLoS ONE 2026-09-17. DOI: 10.1371/journal.pone.0349471. 原著ライセンス:CC BY.