著者の所属・活動拠点の国は、ブラジルです。

掲載誌:Molecules

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:土壌にひそむ病原菌への新しい対策を探る

ニンニクやタマネギなどネギ類の「白腐病」と、インゲンマメの「菌核病」は、野菜やマメ類の生産に大きな被害を与える土壌伝染性の病気です。原因となるのは、それぞれStromatinia cepivoraとSclerotinia sclerotiorumというカビ(糸状菌)です。どちらも「菌核」と呼ばれる硬い耐久体をつくり、土の中で何年も生き残るため、防除が難しいとされています。

化学合成の殺菌剤は防除に欠かせない一方で、繰り返し使う必要があることや、土壌・水の汚染、標的外の生物への毒性、薬剤が効きにくい菌の出現といった課題が指摘されています。そこで天然由来の成分を使う方法が注目されてきました。

研究チームが着目したのは、スペアミント(Mentha spicata)の精油と、その主成分であるL-カルボンです。L-カルボンにはさまざまなカビへの抗菌作用が報告されていますが、精油は揮発しやすく、酸化や光で分解しやすく、水に溶けにくいという弱点があります。そこで著者らは、油を微小な粒にして水中に分散させる「ナノエマルション」という形にし、その安定性と、上記2種の病原菌に対する抗菌作用を調べました。

何を調べたか:製剤づくりから畑での試験まで

まず、スペアミント精油の成分を分析しました。ガスクロマトグラフィー質量分析で推定した結果、主な成分はL-カルボン(ピーク面積比で73.35%)、リモネン(11.21%)、ジヒドロカルベオール(3.34%)でした。

次に、スペアミント精油を使った製剤(論文ではNEOEMS)と、純粋なL-カルボンを使った製剤(NEOELC)の2種類を作りました。どちらも油の成分4.35%、乳化剤のTween 80を8.70%、残りを蒸留水とする「水中油型」のナノエマルションです。研究チームはこれらを36日間保存し、油滴の大きさ、電気的な性質、pHなどの物理的な変化と、L-カルボンの含有量の変化を追跡しました。L-カルボンの定量には、あらかじめ精度などを確認した液体クロマトグラフィーの分析法が用いられました。

抗菌作用の試験では、カビを育てる寒天培地に製剤を混ぜ込み、その上でカビの菌糸がどれだけ伸びるかを調べる方法がとられました。有効成分の濃度は100〜4000μg/mLの範囲で段階的に設定され、S. sclerotiorumではさらに50μg/mLも加えられました。比較対象として、市販の殺菌剤イプロジオンと、有効成分を含まない製剤なども用意されました。

さらに、作物への影響も確かめました。インゲンマメの種子の発芽試験、ニンニクの鱗片(りんぺん)を使った実験室での試験、そしてニンニクの鱗片を植え付け前に製剤へ30分間浸してから畑に植える試験が行われました。

主な結果:抗菌作用は確認、作物への影響には課題も

保存試験では、両製剤とも36日間を通じて油滴の平均直径がナノメートルの範囲にとどまりました。ただし油滴は大きくなる傾向があり、L-カルボン製剤では約81nmから約186nmへ、精油製剤では約120nmから約153nmへと増加しました。成分の面では、36日後もL-カルボンの約96.2%(L-カルボン製剤)と約93.9%(精油製剤)が保たれていたと報告されています。著者らは、油滴の大きさなどの「分散状態の安定性」と、成分そのものが残っているかという「化学的な安定性」は分けて考える必要があると述べています。

抗菌試験では、両製剤とも2種の病原菌の生育を抑え、濃度が高いほど効果が大きくなる傾向を示しました。効果の大きさは製剤の種類や菌の種類によって異なりました。有効成分を含まない製剤では生育の抑制は見られず、抗菌作用は乳化剤などの成分によるものではないことが示されました。白腐病の原因菌S. cepivoraに対しては、L-カルボン製剤のほうが強い作用を示し、生育を半分に抑える濃度(IC50)や、生育を完全に止める最小の濃度(MIC)がより低い値でした。著者らは、L-カルボン製剤のほうがL-カルボンを多く含むことが一因かもしれないとしつつ、精油に含まれる他の成分の関与も否定できないとしています。

作物への影響については、両製剤ともインゲンマメの発芽を統計的に明らかなほど低下させず、実験室でのニンニク鱗片の出芽率もすべての処理で100%でした。畑での試験でも出芽率に差はありませんでした。一方で、畑ではイプロジオンで処理したニンニクに比べ、製剤で処理したニンニクの芽の伸びが小さいという結果も得られました。

この研究が示すこと

この研究は、スペアミント精油やL-カルボンをナノエマルションにしても、土壌病原菌2種に対する抗菌作用が実験室で保たれていたことを示しました。水に溶けにくい成分を水中に分散させられる形は、扱いやすさの点でも意味があると著者らは述べています。

ただし著者らは、ナノエマルションにしていない精油やL-カルボンとの直接比較は行っていないため、ナノ化によって効果が高まったかどうかは今回の結果からは分からないと明記しています。抗菌の仕組みも実験で確かめたものではなく、長期間の野外評価も行われていません。また、発芽や出芽に影響がなくても、その後の生育に影響が出る場合があることが畑の試験から示されました。天然成分を利用した病害対策の候補として手がかりを示しつつ、作物への安全性や実際の畑での性能はまだ確かめる段階にある研究だといえます。

原著論文の著者・所属:Rodrigo Ribeiro Rocha(Instituto de Ciências Exatas e Tecnológicas, Universidade Federal de Viçosa (UFV), Campus Rio Paranaíba, Rio Paranaíba 38810-000, MG, Brazil)、Lorena Alves de Melo Bessa(Instituto de Ciências Exatas e Tecnológicas, Universidade Federal de Viçosa (UFV), Campus Rio Paranaíba, Rio Paranaíba 38810-000, MG, Brazil)、Geraldo Humberto Silva(Instituto de Ciências Exatas e Tecnológicas, Universidade Federal de Viçosa (UFV), Campus Rio Paranaíba, Rio Paranaíba 38810-000, MG, Brazil)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Rodrigo Ribeiro Rocha, Lorena Alves de Melo Bessa, Geraldo Humberto Silva. Physicochemical Stability and In Vitro Antifungal Activity of Mentha spicata Essential Oil and L-Carvone Nanoemulsions Against Stromatinia cepivora and Sclerotinia sclerotiorum. Molecules 2026-10-09. DOI: 10.3390/molecules31203589. 原著ライセンス:CC BY.