掲載誌:JMIR Formative Research

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

なぜ調べたのか

妊娠中から産後1年ほどの時期の食事は、母親と子どもの健康に深く関わると考えられています。研究チームは導入部で、この時期の望ましい食事が妊娠糖尿病や妊娠高血圧、低出生体重、産後うつなどのリスク低下と結びつけて論じられてきた一方、高所得国では栄養が十分でない食生活が広くみられると整理しています。

同時に、医療者からの食事に関する助言や支援は限られているとも指摘されます。オランダの医療専門職は、知識と時間の不足のために手厚い栄養支援を行いにくいと報告しているとされ、その結果として女性たちはウェブサイトやスマートフォンのアプリで情報を探す傾向があると述べられています。

そこで著者らは、オランダに住む妊娠中の女性と産後の女性を対象に、食事に関する経験、食行動を左右する要因、そして情報の探し方(とくにアプリの利用)が、妊娠期と産後でどう違うのか、また同じ時期の中でも段階によってどう変わるのかを明らかにすることを目的としました。得られた知見は、個々の状況に合わせた食事支援を行うデジタルツールの開発に役立つと位置づけられています。

どのように調べたか

調査はウェブ上の質問票で行われ、2022年11月1日から2023年1月6日まで実施されました。対象は、オランダ在住でオランダ語の読み書きができ、妊娠中または過去1年以内に出産した女性です。年齢、学歴、BMIによる制限は設けず、FacebookやInstagram、LinkedInといったソーシャルメディアを通じて参加者を募る「便宜的標本」の方法が取られました。

質問票は19ページ・65問で構成され、回答内容に応じて表示される質問が変わる仕組みでした。回答にかかった時間は中央値で約8分です。設計にあたっては、行動を「能力(capability)」「機会(opportunity)」「動機(motivation)」の3要素から捉えるCOM-Bモデルという枠組みが用いられ、そこから具体的な質問項目が導かれました。妊娠・産後の体験、主観的な食事の質、健康的な食習慣を左右する要因(健康的な食事をどれだけ重要と考えるか、栄養の知識、時間、予算、調理や食事をする体力、周囲の支援、食べる楽しみなど)、情報の探し方が尋ねられています。

1709人が回答し、回答が2割未満だった人などを除いた1619人(94.7%)のデータが分析対象となりました。うち妊娠中が842人、産後が777人です。平均年齢は32歳、妊娠前のBMIの平均は25で、75%が高学歴、97.0%がパートナーと同居していました。妊娠期と産後の比較にはカイ二乗検定やt検定・分散分析が用いられ、自由記述は2名の研究者が独立に分類しています。なお、ここで報告される差は集団間の関連であり、因果関係を示すものとしては述べられていません。

報告された主な結果

まず、全体的な体験の評価には大きな差がありました。10点満点で、産後の時期は平均8.4点、妊娠期は平均6.6点と、産後のほうが快適だと評価されています。妊娠中の訴えとして多かったのは、疲れやすさ(80.4%)、トイレが近くなること(65.4%)、胸やけ(50.7%)、腰痛や骨盤の不安定さ(49.0%)でした。

食事そのものの自己評価では、産後の女性が10点満点で平均7.0点、妊娠中が平均6.8点とわずかに産後が高く、健康的な食事をどれだけ重要と考えるかは両群で同程度(平均8.5点)でした。一方で知識と学習意欲は対照的です。健康的な食事について「よく知っている」と答えたのは妊娠中で65.0%、産後では47.5%にとどまりましたが、その時期に応じた栄養についてもっと学びたいと答えたのは産後が42.0%で、妊娠中の28.5%を上回りました。著者らは考察で、これは関心の欠如ではなく利用できる情報源の不足によるものだろうと述べています。

食事を用意する条件も異なりました。調理の時間が十分あると答えたのは妊娠中が77.0%、産後は50.3%で、産後の主な制約として新生児の世話が挙げられています。食べる時間が十分あると答えたのは妊娠中で96.7%に対し、産後は72.7%でした。ただし、調理をする体力の自己評価は産後のほうがやや高く(平均7.3点対6.9点)、妊娠中は疲れやすさや吐き気が障壁として挙げられています。

食べる理由の順位も入れ替わりました。妊娠中は「子どもの健康」が89.7%で最上位でしたが、産後は「空腹」が79.4%で最も多く、「子どもの健康」は64.9%となっています。時期を細かく分けて見ると、妊娠初期(第1三半期)は最も快適さの評価が低く(平均5.8点)、食事の自己評価も最も低い(平均6.3点)一方で、食事の重要性の評価は最も高い(平均9.0点)という結果でした。

情報源としては、ウェブサイト(85.4%)、医療専門職(51.4%)、アプリ(42.5%)が主でした。アプリの利用には顕著な差があり、妊娠中の女性の90.8%が妊娠向けアプリを使っていたのに対し、産後向けのアプリを使っていたのは58.9%でした。使わない理由として、産後では有用と思えない、質の高いアプリが見当たらない、時間がないといった回答が挙がっています。アプリで重視されたのは、信頼できる情報、使いやすさ、無料であることでした。

著者らは限界も挙げています。オンライン配布のため、ソーシャルメディア利用者に偏った可能性、高学歴者に偏り低学歴の女性が十分含まれていない可能性、選択式が中心で回答の幅が限られた可能性です。また食事の質は自己申告であるため実際の食事内容との結びつけはできず、オランダの成人では野菜摂取量の自己認識が実態より高いという報告を踏まえ、食事の質は過大評価されていると予想すると述べています。

この報告が示すもの

この調査が描き出したのは、「妊娠・産後」とひとまとめにされがちな時期が、実際には食事をめぐって異なる顔を持つという姿です。妊娠中は体の不調が、産後は時間の不足が、健康的な食事の主な妨げとして浮かび上がりました。産後の女性は知識が十分と感じにくい一方で学びたい意欲は高く、しかし利用しているアプリは妊娠中より明らかに少ない――著者らはここに支援の空白があると読み取り、産後の栄養に向けた情報源の乏しさを指摘しています。

著者らは結論として、周産期の各段階に合わせて食事支援を仕立てることの重要性を強調し、使いやすく無料で、信頼でき個別に寄り添う情報を提供するデジタルツールが既存のケアを補いうると述べています。産後の母親の関心が自身の健康より乳児の世話に向きやすいという指摘も含め、この調査は「誰の健康に、いつ、どんな形で目を向けるか」という問いを投げかけています。

著者:Janine P. M. Faessen、Desiree A. Lucassen、Edith J. M. Feskens、Elske Maria Brouwer-Brolsma

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Janine P. M. Faessen, Desiree A. Lucassen, Edith J. M. Feskens, et al. Differences in Dietary-Related Experiences, Determinants, and Information-Seeking Behaviors Among Pregnant and Postpartum Women: Cross-Sectional Survey Study. JMIR Formative Research 2026-09-28. DOI: 10.2196/73808. 原著ライセンス:CC BY.