この研究は、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Ultrasonics Sonochemistry

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

ナンキョクオキアミは年間の漁獲量が30万トンを超える海洋資源ですが、その多くは飼料など付加価値の低い用途に回っています。オキアミから取り出したタンパク質(AKP)はアミノ酸組成のバランスがよく消化されやすい一方、等電点付近(pH4〜5)で溶けにくく、加工中に固まりやすいため、乳化する力や加熱でゲルになる性質が不十分だと論文は説明しています。

こうしたタンパク質の性質を改善する方法として、著者らは植物由来のポリフェノールと結合させる手法に注目しました。本研究で用いた没食子酸(GA)は果実や茶、ワインに含まれる代表的なフェノール酸で、タンパク質と結びつくと立体構造が変わり、隠れていた疎水性の部分が表面に現れて溶解性や界面での働きが向上すると報告されています。

結合を促す手段としてよく使われるのが超音波処理です。液中で微小な泡が生じて崩壊する「キャビテーション」によって強いせん断力が働き、固まったタンパク質がほぐれて結合部位が露出します。ただし同じ現象は水分子を分解して活性酸素種(ROS)、とくにヒドロキシルラジカルを発生させ、タンパク質のアミノ酸残基と没食子酸の双方を酸化してしまうという副作用も伴います。研究チームは、この「良い効果」と「悪い効果」を切り分ける媒体として弱アルカリ性電解水(WBEW)に着目しました。WBEWは薄い食塩水を電気分解して得られる、pH9〜10程度で酸化還元電位が大きく負に振れた水で、強い還元力とラジカル消去能を持つとされます。

著者らは、WBEW中で超音波処理を行えば発生したラジカルが消去され、タンパク質側の反応性の高い基(チオール基やアミノ基)と没食子酸のフェノール性水酸基が守られ、結合効率と機能性が高まるという仮説を立て、これを検証しました。

調べ方

研究チームはナンキョクオキアミの肉からアルカリ抽出と等電点沈殿によりタンパク質を調製し、脱脂したうえで、脱イオン水(DW)またはWBEWに10 mg/mLで溶かしました。そこに没食子酸をタンパク質に対して1:20の質量比で加え、周波数20 kHz・出力300 Wのプローブ型超音波装置で0、10、20、30、40分の処理を行っています。試料は氷水浴で20 °C以下に保たれました。

評価は多面的に行われています。処理中に生じたヒドロキシルラジカルの量と酸化還元電位、酸化の指標であるタンパク質カルボニル量と遊離チオール量、没食子酸の残存率、そしてタンパク質に実際に結合した没食子酸の割合(結合率)を測定しました。さらに粒子径と溶解性、電子顕微鏡と原子間力顕微鏡による形態観察、赤外分光による二次構造の解析、内在蛍光による立体構造の変化、表面疎水性と接触角、乳化活性・乳化安定性、そして得られた複合体で作った高内相エマルションの微細構造を調べています。

主な報告結果

まず酸化の抑制が確認されました。ヒドロキシルラジカルの生成量は40分処理後にDW系で4.36 μmol/Lだったのに対し、WBEW系では3.02 μmol/Lにとどまりました。タンパク質のカルボニル量も同じ処理時間で比べるとWBEW群のほうが有意に低く、遊離チオール量はDW群が40分で4.6から1.3 μmol/gタンパク質へ急減したのに対し、WBEW群は4.7から2.5 μmol/gへの減少にとどまったと報告されています。没食子酸の残存率も、すべての条件でWBEW系のほうが高い値を示しました。

結合率については、超音波処理によって両系とも向上したものの、WBEW群では20分処理で最大34.8%に達し、同じ時間で比べるとDW群を一貫して上回りました。20分を超えるとROSの蓄積によってタンパク質と没食子酸の双方が酸化され、結合率はかえって低下しています。

粒子径と溶解性も同様に「20分まで改善、その後悪化」という推移を示しました。DW群の粒子径は未処理の216.4 nmから20分で207.1 nmまで小さくなり、WBEW群では202.3 nmとさらに小さい値に達しています。溶解性は20分処理時に両媒体の差が最も大きく、その差は26.5%と報告されました。顕微鏡観察でも、長時間処理したDW試料では大きな塊状の凝集が目立つのに対し、WBEW試料では凝集の程度が明らかに軽減されていました。

構造面では、超音波処理によりα-ヘリックスとβ-シートといった規則的な構造が減り、ランダムコイルが増える変化が両群で共通して見られましたが、その変化の幅はWBEW群のほうが小さく、より安定した骨格が保たれていました。内在蛍光の最大発光波長は20分までは長波長側へずれ(タンパク質がほどけて芳香族アミノ酸が露出したことを示す)、それ以降は短波長側へ戻る(酸化による再凝集を示す)挙動を示し、WBEW群の値は常にDW群より高い位置にありました。表面疎水性と水の接触角も同じ傾向で、接触角は未処理のDW群68°・WBEW群71°から20分処理でそれぞれ78.3°・82.6°へ上昇しています。

機能性では、乳化活性指数(EAI)がWBEW群の20分処理で最大40.3 m²/gとなり、同条件のDW群の32.1 m²/gを上回りました。乳化安定性指数(ESI)はDW群が20分で39.2分のピークを示し、WBEW群は全期間を通じてDW群より高い値を維持しています。高内相エマルションの観察では、未処理のタンパク質では安定なエマルションが形成されず液滴の凝集が広がったのに対し、DW-20では形成はできたものの合一や液滴の不均一さが見られ、WBEW-20では液滴の大きさがそろい、油滴を厚いタンパク質層が包む密な構造が得られたと報告されています。

この研究が示すこと

超音波はタンパク質をほぐして結合部位を露出させる有効な手段ですが、同時に酸化によってその部位と相手のポリフェノールを壊してしまうという相反する性質を持っています。本研究は、処理する媒体を弱アルカリ性電解水に置き換えるだけで、超音波の構造変化の利点を保ちながら酸化の副作用を抑えられることを、ラジカル量から結合率、構造、乳化性能まで一貫した形で示しました。

また、どの指標でも20分を境に効果が反転したことは、処理時間が長ければよいわけではないことを具体的な数値で裏づけています。低利用にとどまるオキアミ資源を食品用途のタンパク質素材として扱ううえで、処理媒体の選択という比較的単純な条件が結果を左右しうる、という点が本研究の伝えるところです。

著者:Jinsong Wang(Team for Food Nutritional Regulation and Innovation, Hubei Academy of New Rural Development, Jingchu University of Technology, Jingmen 448000, China; Hubei Key Laboratory of Drug Synthesis and Optimization, Jingchu University of Technology, Jingmen 448000, China; College of Food and Biology, Jingchu University of Technology, Jingmen 448000, China. Electronic address: [email protected])、Deyan Zhu(Team for Food Nutritional Regulation and Innovation, Hubei Academy of New Rural Development, Jingchu University of Technology, Jingmen 448000, China; Hubei Key Laboratory of Drug Synthesis and Optimization, Jingchu University of Technology, Jingmen 448000, China; College of Food and Biology, Jingchu University of Technology, Jingmen 448000, China)、Rong Li(Team for Food Nutritional Regulation and Innovation, Hubei Academy of New Rural Development, Jingchu University of Technology, Jingmen 448000, China; Hubei Key Laboratory of Drug Synthesis and Optimization, Jingchu University of Technology, Jingmen 448000, China; College of Food and Biology, Jingchu University of Technology, Jingmen 448000, China)、Yijiao Sun(Team for Food Nutritional Regulation and Innovation, Hubei Academy of New Rural Development, Jingchu University of Technology, Jingmen 448000, China; Hubei Key Laboratory of Drug Synthesis and Optimization, Jingchu University of Technology, Jingmen 448000, China; College of Food and Biology, Jingchu University of Technology, Jingmen 448000, China)、Yufeng Li(College of Biological and Food Engineering, Anhui Polytechnic University, Wuhu 241000, China. Electronic address: [email protected]

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Jinsong Wang, Deyan Zhu, Rong Li, et al. Weakly basic electrolysed water combined with ultrasound for enhancing the binding and functional properties of Antarctic krill protein–gallic acid complexes. Ultrasonics Sonochemistry 2026-09-04. DOI: 10.1016/j.ultsonch.2026.108036. 原著ライセンス:CC BY.