バターやラードのような固形脂肪は食品のなめらかな食感を作りますが、飽和脂肪酸を多く含みます。一方、植物油は不飽和脂肪酸が豊富で体に良いとされる一方、常温では液体のため、そのまま置き換えると食感が損なわれてしまいます。この課題に対して近年注目されているのが「オレオゲル(油ゲル)」という技術で、油を分子レベルの網目構造の中に閉じ込めることで、液体の植物油を半固形状にする方法です。化学的な修飾を伴う従来の硬化油と違い、トランス脂肪酸を作らずに済む点が利点とされています。中国・西華大学と西南民族大学の研究グループが、卵白とナタネのタンパク質を使ったオレオゲルの構造を調べた研究を、超音波化学(ウルトラソニックス・ソノケミストリー)誌に発表しました。

研究チームがまず作ったのは、卵白タンパク質だけを使ったゲル(EW)と、卵白にナタネタンパク質を加えた二種混合ゲル(ER、卵白とナタネの質量比はおよそ15対1)です。これらのタンパク質溶液に0〜600ワットの超音波(20〜25kHz、10分間、氷水で30℃に保ちながら処理)をかけたのち、100℃で加熱してヒドロゲルを作り、冷凍・解凍、エタノールによる水分置換、乾燥、ボールミルでの粉砕を経て「微小ゲル粒子(マイクロゲル)」という粉状の素材に加工しました。このマイクロゲルを大豆油に混ぜて余分な油を遠心分離で取り除くことで、最終的なオレオゲルが得られます。

ナタネタンパク質を混ぜると油をより多く抱え込めた

超音波をかけていない状態で比較すると、ナタネタンパク質を加えたERマイクロゲルは、卵白だけのEWマイクロゲルより油との馴染みやすさを示す接触角が小さく(ER 0が40.45度、EW 0が46.54度)、油を吸収する能力(オイル吸収能、OAC)もERの方がEWより20.75%高くなりました。ゲルの表面にどれだけ疎水性(油になじみやすい)の部分が露出しているかを調べる蛍光測定でも、ERはEWより疎水性が高いことが確認されており、ナタネタンパク質が疎水性の高いアミノ酸を多く持つことが背景にあると考察されています。また、ER由来のオレオゲルは、卵白だけのオレオゲルよりも粘弾性の指標である貯蔵弾性率(G′、ゲルの硬さ・弾性の強さを表す)が高いことも示されました。

超音波は500ワットで最も効果的、600ワットではかえって悪化

超音波処理の強さを変えて調べたところ、ER(卵白+ナタネ)のタンパク質系では、出力を上げるほどタンパク質の折りたたみ構造がほどけて内部の疎水性部分が表面に露出し、500ワットで表面疎水性が最大になりました。これに伴い、ER 500マイクロゲルの接触角は31.97度まで低下し、油吸収能も196.00%と最も高い値を記録しました。顕微鏡観察でも、ER 500のマイクロゲル粒子は他の条件より小さく均一な粒径(平均約20〜25マイクロメートル)になっており、粒が細かくなるほど表面積が増えて油と接する面が広がったと説明されています。レオロジー測定(粘弾性を調べる測定)では、ER 500のオレオゲルはG′(弾性成分)がG″(粘性成分)を上回る「固体的」な性質を示し、顕微鏡下でも油とタンパク質が均一かつ緻密な網目状に分布していました。

ところが出力を600ワットまで上げると、逆に油吸収能は144.10%まで低下しました。研究チームは、過剰な超音波処理によってタンパク質同士が再び凝集し、いったん露出した疎水性の部分がその凝集体の内部に埋もれてしまうためと説明しています。実際、ER 600マイクロゲルでは粒径が広がり(約50マイクロメートル)、接触角も再び上昇し、オレオゲルのG′も低下する傾向が確認されました。強すぎる超音波処理はタンパク質の構造を壊しすぎてしまい、必ずしも良い結果にはつながらないことがうかがえます。

この研究を読むうえでの留意点

この研究は、実験室内で調製したモデル的なオレオゲルを対象に、構造や物理的な性質(接触角、油吸収能、弾性率、顕微鏡観察など)を評価したものであり、実際の食品への応用や、味・食感、保存性、ヒトの健康への影響を検証したものではありません。論文の著者らも、今後はこうしたオレオゲルを実際に焼き菓子などの固形脂肪の代替として使えるかどうかを検証する研究が必要だとしています。一つの基礎研究の成果であり、今後さらに応用面での検証が積み重ねられていく段階にあるといえます。

まとめ

卵白にナタネタンパク質を加え、適切な強さ(今回の実験では500ワット)で超音波処理を行うことで、タンパク質の疎水性が高まり、マイクロゲルの粒子が細かく均一になり、油をより効率よく抱え込む緻密なオレオゲルが得られることが示されました。一方で超音波の出力を上げすぎるとタンパク質が凝集し、かえって性能が落ちることも確認されており、条件の最適化が重要であることがうかがえます。植物由来・タンパク質由来の新しい固形脂肪代替素材の設計に向けた基礎的な知見といえそうです。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Zhenlian Liao, Haojun Han, Junkun Ma, et al. Protein-based oleogels: effect of ultrasound on the structural characteristics of egg white-rapeseed dual-protein system. 超音波化学(ウルトラソニックス・ソノケミストリー) (2026). DOI: 10.1016/j.ultsonch.2026.107992. 原著ライセンス: cc-by.