この研究は、ドイツ、ポーランド、インドネシア、トルコの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Applied Food Research
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
テンペは大豆を発酵させて作るインドネシア発祥の伝統食品で、植物性エストロゲンとも呼ばれるイソフラボンを豊富に含むことで知られています。近年では、更年期以降の女性の食生活における選択肢の一つとして関心を集めているそうですが、従来の加工方法ではその機能性が十分に引き出せていない可能性があるといいます。今回紹介する研究では、テンペの製造工程に「超音波処理」という技術を組み合わせることで、タンパク質の構造やイソフラボンの抽出されやすさ、抗酸化性がどのように変化するのかが調べられました。
この研究では、大豆を浸漬したり加熱したりする工程に超音波処理を組み合わせ、さらにRhizopus oligosporus(テンペ菌)による発酵温度を30℃と36℃の2条件に分けて、テンペの色や成分、タンパク質の構造変化が比較されました。
研究でわかったこと
まず色の変化について、36℃で発酵させたテンペは、対照(従来条件)と比べて明るさを示すL*値が3%、色相を示すh°値が3.6%それぞれ低下した一方、赤み(a*値)は92%も増加したと報告されています。見た目の色調が発酵条件によって大きく変わることがうかがえます。
タンパク質の構造については、赤外分光法(FTIR)という手法を用いた分析により、タンパク質の骨格に関わる「アミドII」が21.9%、「アミドIII」が14.1%、アミノ酸側鎖の構造が28.3%、それぞれ減少するという変化が確認されました。これはタンパク質の分子構造そのものが発酵や処理によって変化したことを示しているとされています。
特に注目される結果として、イソフラボンの一種であるゲニステインの含有量が、1グラムあたり32.21±2.01マイクログラムから206.66±8.61マイクログラムへと、6倍以上に増加したことが報告されています。また、対照のテンペと比較して、超音波による前処理(特に浸漬と加熱の両方に適用した場合)は色調の変化を強め、抗酸化能の指標であるABTS抗酸化能を最大化し、ダイゼインやゲニステインの濃度を高める傾向が見られたとされています。
超音波前処理は、抽出・けん化処理後に回収されるイソフラボンアグリコン(イソフラボンが分解されてできる型)の量や抗酸化能を高める方向に働くとみられ、特に36℃での発酵条件において、対照との差がより大きく現れたと述べられています。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
この研究は、超音波処理と発酵温度という加工条件を組み合わせることで、テンペのタンパク質構造やイソフラボンの抽出されやすさ、抗酸化性がどのように変わりうるかを、成分分析や構造解析といった手法で調べたものです。論文の要旨によれば、こうした知見は、超音波処理のような新しい技術を伝統的な発酵プロセスに応用し、テンペの栄養面・機能面の特性を高める方向性を検討するための、メカニズムの理解に役立つとされています。
一方で、この記事で紹介した内容はあくまで一つの研究で得られた結果であり、ヒトの健康への効果を直接示すものではありません。今回の研究は、あくまで食品としてのテンペの成分や構造の変化を分析したものであり、特定の健康効果を確定的に示したり保証したりするものではない点に留意が必要です。
まとめ
超音波処理と発酵温度という2つの加工条件を組み合わせることで、テンペの色調やタンパク質構造、イソフラボン含有量、抗酸化能に変化が生じることが、この研究では示されました。特にゲニステインの大幅な増加や、36℃発酵と超音波処理の組み合わせによる効果の違いは興味深い知見といえそうです。今後、こうした加工技術の工夫が、伝統的な発酵食品の可能性を広げる一つの手がかりになるのか、さらなる研究の展開が注目されます。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。出典(原著論文):超音波処理と発酵温度がテンペのタンパク質構造、イソフラボン抽出性、抗酸化特性に及ぼす影響(アプライド・フードリサーチ・2026年12月掲載予定)
著者:Iskandar Azmy Harahap(Department of Molecular Food Chemistry and Food Development, Institute of Food and One Health, Gottfried Wilhelm Leibniz University Hannover, Am Kleinen Felde 30, 30167, Hannover, Germany; Research Center for Food Technology and Processing, National Research and Innovation Agency (BRIN), Gading, Playen, Yogyakarta, Gunungkidul, 55861, Indonesia; Corresponding authors.)、Joanna Suliburska(Department of Human Nutrition and Dietetics, Faculty of Food Science and Nutrition, Poznan University of Life Sciences, 60-624 Poznan, Poland)、Christofora Hanny Wijaya(Division of Food Science and Technology, Faculty of Engineering and Technology, IPB University, Bogor, 16680, Indonesia)、Fatih Oz(Department of Food Engineering, Faculty of Agriculture, Atatürk University, Erzurum, 25240, Türkiye; Kyrgyz-Turkish Manas University, Engineering Faculty, Department of Food Engineering, Bishkek, 720038, Kyrgyzstan)、Tuba Esatbeyoglu(Department of Molecular Food Chemistry and Food Development, Institute of Food and One Health, Gottfried Wilhelm Leibniz University Hannover, Am Kleinen Felde 30, 30167, Hannover, Germany; Corresponding authors.)