マヨネーズやゼリー飲料のようななめらかな食品の食感を支えているのが、油と水を安定して混ぜ合わせる『乳化ゲル』という技術です。近年は微粒子の力で油滴の表面を覆う『ピッカリングエマルション』という手法が注目されていますが、その微粒子として何を使うか、どう処理するかによって仕上がりの安定性は大きく変わります。中国・吉林農業大学食品科学工程学院のJiannan Yanらの研究グループは、トウモロコシ由来のタンパク質『ゼイン』と大豆由来の親油性タンパク質(LP)を組み合わせた複合体ナノ粒子に着目し、超音波処理の出力を変えることでその性質がどう変化するかを調べました。
超音波の出力を変えて複合体粒子を処理
研究チームは、ゼインと大豆親油性タンパク質を混合してできる複合体ナノ粒子に対し、120〜360ワットの範囲で超音波処理を施しました。適度な強さの超音波を加えると、ゼインとLPの分子同士の相互作用が促進され、より秩序立って柔軟性のある、安定した複合タンパク質の構造ができることが確認されました。粒子の大きさは105.23ナノメートルまで小さくなり、水と油のどちらにもなじみやすい性質を示す接触角は90度に近づきました。これは、粒子が油と水の境界面(界面)になじみやすくなったことを意味しています。
240ワット処理でゲルの密度と保水性が向上
この複合体ナノ粒子を使って作ったピッカリングエマルションゲルを詳しく調べたところ、240ワットで超音波処理した場合に、ゲルの内部構造がより密になり、乳化された油滴もより均一に分布することがわかりました。あわせて、ゲルの強さは28.2グラム、水を保持する力(保水力)は87.3%まで高まったと報告されています。さらに、ゲルの流動特性(レオロジー特性)や物理的な安定性、熱に対する安定性も改善したとされています。加えて、この超音波処理を施したゼイン-大豆親油性タンパク質複合体エマルションゲルは、3Dプリンティングにおいて自立した形状を高い解像度で再現できる食用インクとしても応用できる可能性が示されました。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
この研究は、超音波の出力を調整することが複合タンパク質ナノ粒子の構造変化や分子間相互作用を通じて乳化ゲルの安定性向上につながる仕組みを明らかにしたものであり、こうした高安定性の機能性エマルションゲルを設計・応用するための理論的な基盤と技術的な指針を示すことを目的としたものです。今回の結果は、特定の条件下で得られたものであり、この一つの研究をもって実際の食品への応用効果が確定したわけではない点には留意が必要です。今回提供された情報の範囲では、日本の研究機関や日本の食品との関わりについての言及はありませんでした。
まとめ
今回の研究では、トウモロコシ由来のゼインと大豆由来の親油性タンパク質を組み合わせた複合体ナノ粒子に対し、超音波の出力を調整して処理することで、粒子の構造や界面での性質が変化し、それを使った乳化ゲルの強度や保水性、安定性が向上したことが報告されました。将来的には食用インクなど新しい食品加工技術への応用も見据えられており、今後さらなる研究の展開が注目されます。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Jiannan Yan, Tongtong Zhang, Pan Liu, et al. Improvement of zein-soybean lipophilic protein complex Pickering emulsion gel by controlling ultrasonic power: focus on stability mechanism. エヌピージェイ・サイエンス・オブ・フード (2026). DOI: 10.1038/s41538-026-01131-9. 原著ライセンス: cc-by-nc-nd.