ビールを造る過程では、麦芽を仕込んだあとに大量の「ビール粕(かす)」が副産物として出ます。世界的にビール醸造業から発生する主要な副産物とされ、食物繊維やポリフェノール(フェノール化合物)を比較的安価に得られる原料として注目されています。今回紹介する研究は、このビール粕を超音波で処理してからパスタの材料に混ぜ込み、栄養面や食感にどのような変化が起きるかを調べたものです。研究はチェコ生命科学大学(プラハ)とメキシコのモンテレイ工科大学の研究者らによって行われました。

ビール粕を超音波処理してパスタに混ぜる実験

研究チームは、超音波の出力(50Wと150W)と処理時間(2分と10分)、そしてパスタ生地に加えるビール粕の割合(5%と15%)という3つの条件を組み合わせた実験計画(2水準の要因計画に中心点と繰り返しを加えたもの)で、ビール粕の性質とパスタの品質を系統的に比較しました。

まず超音波処理そのものの効果として、処理後のビール粕は水を抱え込む力(保水力)と油を抱え込む力(保油力)がともに高まることが確認されました。また、粒子径を分析したところ、ビール粕を加えることで粒の大きさのばらつき(分布の不均一さを示す指標であるSPAN値)が増し、このばらつきの大きさが保水力・保油力の変化と関連していることも示されました。

色・茹で特性・ポリフェノール量への影響

色調を測定すると、ビール粕の配合量が多いパスタほど色が濃く(暗く)なる傾向が見られました。茹でたときの特性については、ビール粕を加えると茹で水の吸収量と最適な茹で時間がやや減少する一方、茹で汁への損失(クッキングロス)はわずかに増加しました。これは、パスタの生地の構造がビール粕の混入によって変化したためと考えられます。

栄養面で注目されたのは、ビール粕を含む粉におけるポリフェノール総量(TPC)の顕著な増加です。ただし、実際にパスタを茹でて調理したあとは、ABTSおよびDPPHという2種類の方法で測定した抗酸化活性やフェノール化合物の量がいずれも減少していました。研究チームは、これは加熱による分解と、茹で水への成分の溶け出し(リーチング)が関係している可能性が高いとしています。さらに高速液体クロマトグラフィー(HPLC-DAD)による分析で、健康との関連が知られるフェノール化合物であるフェルラ酸とアピゲニンが、パスタ中に含まれていることが確認されました。

この研究の位置づけと読むうえでの注意

この研究は、超音波処理したビール粕をパスタに加えることで、フェノール化合物の含有量を高めるなど栄養プロファイルを改善しうる一方、水分吸収や茹で時間、クッキングロスといった技術的な品質面には課題も生じることを示したものです。著者らは、栄養面の利点と製品としての品質のバランスを取るには、加工条件のさらなる最適化が必要だと述べています。今回の結果は特定の実験条件下で得られたものであり、この一つの研究をもって、ビール粕入りパスタの健康効果や実用性が確立されたと言えるわけではありません。

まとめ

ビール醸造の副産物であるビール粕は、超音波処理を組み合わせることで保水力・保油力が高まり、パスタに混ぜ込むとフェノール化合物量を増やせる可能性が示されました。一方で、茹で特性や色などパスタとしての品質には変化も見られ、今後は栄養価と食べやすさ・調理特性を両立させる条件の検討が課題として残されています。食品ロス削減や副産物の有効活用という観点からも、今後の研究の展開が注目されます。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Alexa Pérez-Alva, Sandra T. Martín del Campo, Mikuláš Středa, et al. Pasta prepared with ultrasound-treated brewer’s spent grain: effect on bioactive compounds and physicochemical properties of pasta. アプライド・フード・リサーチ (2026). DOI: 10.1016/j.afres.2026.102517. 原著ライセンス: cc-by-nc-nd.