著者の所属・活動拠点の国は、ポーランドです。

掲載誌:Nutrients

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:色素の「量」だけでなく「中身」を問う

炎症は体を守り、傷ついた組織を修復するために欠かせない反応です。一方で、長引いたり制御が乱れたりすると、組織を傷つける原因にもなります。腸では、表面を覆う上皮細胞と免疫細胞が、食べ物の成分や微生物由来の物質と絶えず接しています。そのため、炎症を引き起こす物質の過剰な放出、活性酸素などによる酸化ストレス、腸のバリア機能の低下が互いに絡み合って起こります。著者らは、こうした事情から、炎症を抑える可能性のある物質を評価するには、ひとつの指標だけでなく複数の細胞反応を見る必要があると述べています。

研究チームが注目したのは、ベタレインと呼ばれる水に溶ける赤紫色や黄色の天然色素です。その中でも赤紫色のベタシアニン類、特にゴンフレニンと呼ばれる色素群を扱いました。ベタレインには抗酸化作用や抗炎症作用などが報告されてきました。ただし、植物から得た色素の混合物の働きが、個々の色素の性質から予測できるのか、それとも混合物全体の組成に左右されるのかは、はっきりしていませんでした。そこで研究チームは、赤い実をつけるツルムラサキ(Basella alba f. rubra)の果実と、センニチコウ(Gomphrena globosa)の紫色の花から、組成の異なる色素調製物を作りました。そして、それらが炎症や酸化ストレスに関わる細胞反応に及ぼす作用を比べました。

何を調べたか:組成の異なる5種類の調製物と2種類の細胞

ツルムラサキの果実からは、まず水で抽出して凍結乾燥した粗抽出物を作りました。これをクロマトグラフィー(成分を性質の違いで分ける手法)で精製し、さらに3種類の調製物を得ました。1つ目は多様な色素を幅広く含む精製物です。2つ目は、糖が結合した基本形のゴンフレニンとその異性体(同じ原子からなり構造が少し異なる分子)が99%以上を占める「ゴンフレニン濃縮画分」です。3つ目は、ゴンフレニンに桂皮酸系の分子が結合した「アシル化」色素が多い画分で、主成分はグロボシンでした。センニチコウの花からも精製抽出物を作り、こちらはバセリンなどのアシル化色素が大半を占めていました。

1グラムあたりの総ベタシアニン量は、ツルムラサキの粗抽出物で約52ミリグラムでした。精製後は、幅広い精製物で約235ミリグラム、ゴンフレニン濃縮画分で約312ミリグラム、アシル化色素の多い画分で約188ミリグラムに高まりました。センニチコウの精製抽出物は約12ミリグラムと最も少ない量でした。つまり研究チームは、色素の量と種類の両方が異なる調製物をそろえたことになります。

作用の評価には2種類のヒト細胞を使いました。1つは、腸の上皮細胞に似た性質へ分化させたヒト大腸がん由来のCaco-2細胞です。炎症を促す刺激を加え、白血球を呼び寄せる物質IL-8の分泌を測りました。もう1つは、健康な献血者の血液から分離した好中球(白血球の一種)です。刺激を受けた好中球が放出する活性酸素の量と、炎症に関わる情報伝達物質(サイトカイン)であるTNF-α、IL-8、IL-1βの分泌量を調べました。

主な結果:組成によって効き方が異なった

調べた濃度の範囲では、どの調製物も細胞の生存に影響しませんでした。生存率はCaco-2細胞で85%以上、好中球で90%以上に保たれていました。このため著者らは、観察された作用は細胞が傷ついたことによるものではないと判断しています。

好中球のサイトカイン分泌では、ツルムラサキの粗抽出物を精製すると、TNF-αとIL-8の分泌を抑える作用が強まりました。IL-1βでも、程度は小さいものの同様の傾向が見られました。注目されるのは、ゴンフレニン濃縮画分とアシル化色素の多い画分の違いです。総色素量はゴンフレニン濃縮画分のほうが多かったにもかかわらず、サイトカインをより強く抑えたのはアシル化色素の多い画分でした。後者を1ミリリットルあたり100マイクログラム加えると、刺激だけを加えた対照と比べて、TNF-αは約39%、IL-8は約45%、IL-1βは約59%の水準まで下がりました。一方、ゴンフレニン濃縮画分の作用は限られていました。

ところが、刺激を受けた好中球の活性酸素の発生は、どちらの画分も効果的に抑えました。また、センニチコウの抽出物は総色素量が最も少なかったものの、サイトカインを抑える作用を示しました。ただし、活性酸素を抑える力はツルムラサキの2つの画分よりかなり弱いものでした。腸の細胞モデルでは、調べたすべての調製物がIL-8の分泌を有意に減らしました。最も高い濃度では、いずれも分泌を半分以下に抑えました。

この研究が示すこと

著者らは、これらの調製物の働きは総ベタシアニン量だけでは説明できず、どの色素がどんな構造で含まれているかが細胞での作用を左右する要因になりうると結論づけています。また、活性酸素の抑制とサイトカイン分泌の抑制で調製物ごとの差の出方が異なりました。このことから、2つの作用は同じ仕組みで決まっているわけではない可能性も示されました。

一方で著者らは、慎重な解釈も求めています。調製物は色素だけでなく、ほかの植物成分も含む複雑な混合物です。また、色素の組成も植物の由来も異なります。そのため、アシル化と抗炎症作用の結びつきは関連として示されたものにとどまり、因果関係は確かめられていません。作用の分子レベルの仕組みも直接は調べていません。さらに、結果は培養細胞での実験に基づくもので、生体内での意義はまだわかっていません。それでもこの研究は、植物由来の色素混合物の性質を評価するときには、色素の量だけでなく、その質的な組成にも目を向ける必要があることを示しています。

原著論文の著者・所属:Monika E. Czerwińska(Department of Biochemistry and Pharmacogenomics, Faculty of Pharmacy, Medical University of Warsaw, 02-097 Warsaw, Poland; Centre for Preclinical Research, Medical University of Warsaw, 02-097 Warsaw, Poland)、Katarzyna Sutor-Świeży(Cracow University of Technology, Faculty of Chemical Engineering and Technology, Department C-1, 31-155 Krakow, Poland)、Daria Berezovska(Department of Biochemistry and Pharmacogenomics, Faculty of Pharmacy, Medical University of Warsaw, 02-097 Warsaw, Poland; Centre for Preclinical Research, Medical University of Warsaw, 02-097 Warsaw, Poland)、Mateusz Knap(Cracow University of Technology, Faculty of Chemical Engineering and Technology, Department C-1, 31-155 Krakow, Poland; Cracow University of Technology, CUT Doctoral School, Faculty of Chemical Engineering and Technology, Department C-1, 31-155 Cracow, Poland)、Sławomir Wybraniec(Cracow University of Technology, Faculty of Chemical Engineering and Technology, Department C-1, 31-155 Krakow, Poland)、Adam Matkowski(Division of Pharmaceutical Biology and Botany, Department of Pharmaceutical Biology and Biotechnology, Faculty of Pharmacy, Wroclaw Medical University, 50-556 Wroclaw, Poland)、Sylwia Zielińska(Division of Pharmaceutical Biotechnology, Department of Pharmaceutical Biology and Biotechnology, Faculty of Pharmacy, Wroclaw Medical University, 50-556 Wroclaw, Poland)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Monika E. Czerwińska, Katarzyna Sutor-Świeży, Daria Berezovska, et al. Anti-Inflammatory Activity and ROS-Inhibitory Effect of Gomphrenin-Enriched Preparations. Nutrients 2026-10-17. DOI: 10.3390/nu18203410. 原著ライセンス:CC BY.