著者の所属・活動拠点の国は、トルコです。
掲載誌:Zygote
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF
研究の目的
不妊は世界のカップルの約15%にみられ、その原因の多くに男性側の要因が関わるとされています。精子の働きを損なう要因の一つとして注目されているのが「酸化ストレス」です。これは、細胞内で生じる反応性の高い酸素の分子(活性酸素種、ROS)が、体の防御能力を上回って増えすぎた状態を指します。
コエンザイムQ10(CoQ10)は、細胞のエネルギーを生み出すミトコンドリアで働き、活性酸素による傷害から細胞を守る抗酸化物質として知られています。体内で作られるほか、肉や卵、野菜などの食品にも含まれます。
トルコの研究チームは、CoQ10が精子の運動性や形、細胞内の活性酸素量にどのような影響を与えるかを調べるとともに、いくつかの食品に含まれるCoQ10が消化の過程でどれだけ吸収されうる形で残るか(バイオアクセシビリティ)を評価することを目的としました。
何を調べたか
研究チームは、原因が特定できない男性不妊(特発性不妊)と診断された75人の患者から提供を受けた精子試料を用いました。これは患者がCoQ10を服用した試験ではなく、採取した精子を、CoQ10を10・50・100マイクロモーラー(μM)の濃度で加えた培養液の中で処理し、CoQ10を加えない対照群と比べる実験室での試験です。
評価したのは、精子全体のうち動いている割合(総運動率)、まっすぐ前に進む精子の割合(前進運動率)、顕微鏡で観察した精子の形の異常、そして蛍光色素とフローサイトメトリーという装置を使って測った細胞内の活性酸素量です。さらに、マウス由来の線維芽細胞(L929細胞)を用いて、各濃度のCoQ10が細胞の生存に悪影響を与えないかも確かめました。
食品については、加熱調理した赤身肉、卵、ほうれん草、ブロッコリー、カリフラワーに加え、いちごとCoQ10サプリメントを対象にしました。口、胃、十二指腸の消化液を模した溶液で順に処理する「試験管内消化」を行い、消化の前後でCoQ10の量を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)という分析法で測定しました。
主な結果
50μMのCoQ10で処理した精子では、対照群と比べて運動性が統計的に有意に高くなったと報告されています。総運動率は対照群の平均83.57%に対して88.62%、前進運動率は71.57%に対して81.38%でした。一方、10μMと100μMでは、対照群との間に統計的に有意な差はみられませんでした。
細胞内の活性酸素の割合は、対照群の平均14.16%に対し、10μMで10.61%、50μMで5.61%、100μMで8.48%でした。対照群との差が統計的に有意だったのは50μMで、この濃度は運動性が最も高かった群でもありました。
精子の形については、50μMで先体(卵に入る際に働く頭部の構造)や核の異常が減り、100μMでは尾部の異常が増えたと著者らは述べています。ただし、形態の群間比較では統計的に有意な差はなかったことも論文に記載されています。
L929細胞を使った試験では、どの濃度でも細胞の生存率はおおむね90%以上に保たれました。50μMでは対照群との差がみられなかった一方、10μMと100μMでは対照群より生存率が統計的に有意に低い結果となりました。著者らはこうした結果から、50μMを最適な濃度とし、高い濃度では細胞に悪影響が出る可能性があると述べています。
食品の試験管内消化では、消化後に残ったCoQ10の割合が食品によって大きく異なりました。卵は96%、赤身肉は67%、ほうれん草は57%、カリフラワーは48%、いちごは29%、ブロッコリーは18%で、サプリメントは55%でした。調べた食品の中でCoQ10の含有量が最も多かったのは赤身肉でした。著者らは、赤身肉や卵などの動物性食品が植物性食品に比べてCoQ10の量や取り込みやすさの点で優れていたとまとめています。
研究が示すこと
この研究は、実験室で精子をCoQ10とともに処理した場合、特定の濃度(50μM)で運動性の向上と活性酸素の減少がみられ、濃度を高くすればよいわけではないことを報告しています。あわせて、食品によってCoQ10が消化後に残る割合が大きく異なることも示されました。
著者らは、CoQ10を多く含む食品やサプリメントの摂取が、精子の運動性が低い男性に役立つ可能性があると考察しています。今回の結果は、CoQ10の効果を考えるうえで、どれだけの量が働くのか、そして食品からどれだけ取り込まれうるのかという二つの視点が大切であることを伝えています。
原著論文の著者・所属:Yasemin Yilmazer(Istanbul Sabahattin Zaim University)、Sermin Durak(Istanbul University-Cerrahpasa)、Mustafa Yaman(Istanbul Sabahattin Zaim University)、Sinem Dogan(Department of IVF Clinic, Acibadem Mehmet Ali Aydinlar University Atakent Hospital, Istanbul, Türkiye;)、Aleyna Cavdar(Istanbul Kent University)、Busra Sagir(Department of Nutrition and Dietetics, Catalca Ilyas Cokay State Hospital, Istanbul, Türkiye and 6Department of Obstetrics and Gynecology, School of Medicine, Acibadem Mehmet Ali Aydinlar University, Istanbul, Türkiye)、Turgut Aydin(School of Medicine, Acibadem Mehmet Ali Aydinlar University)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Yasemin Yilmazer, Sermin Durak, Mustafa Yaman, et al. Assessment of coenzyme Q10 bioaccessibility and its dose-dependent protective effects on sperm motility, morphology and intracellular ROS levels. Zygote 2026-10-01. DOI: 10.1017/s096719942610063x. 原著ライセンス:CC BY.