著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
ヤクは中国の高原地帯で重要な家畜です。ヤク肉は一般的な牛肉よりタンパク質が多い一方で、熟成中に水分を保つ力(保水性)が牛肉より劣るという先行研究があります。そのため研究チームは、ヤク肉製品の品質を高める加工法を開発する必要があると考えました。
研究の中心は、筋肉の主要なタンパク質である筋原線維タンパク質です。このタンパク質は加熱されると網目状の構造をつくり、水や脂肪を抱え込んだゲルになります。ソーセージのように肉をすりつぶして成形する食品では、このゲルの性質が食感や保水性を大きく左右します。
著者らが注目したのは二つの要素です。一つは、液体中で微細な気泡の発生と崩壊を引き起こし、強い力を生む超音波処理です。もう一つは、多価不飽和脂肪酸を多く含み、抗酸化作用が期待される成分も含むチアシードオイルです。両者を組み合わせたときにヤク肉の筋原線維タンパク質がどう変わるかは、これまで報告されていませんでした。研究チームは、その構造とゲルの性質への影響を調べました。
何を調べたか
研究チームは、4頭の雄ヤクの背中の筋肉(ロース部分)を混ぜ合わせ、そこから筋原線維タンパク質を取り出しました。このタンパク質の溶液に、チアシードオイルを0%、1.5%、3.0%の3段階で加えました。さらに、超音波の出力を0、40、80、120ワットの4段階に分けて8分間処理し、合計12通りの条件を比較しました。
タンパク質の構造については、水への溶けやすさ(溶解性)、濁り具合(濁度)、タンパク質成分の分子量ごとの分布、らせん状などの立体的な構造の割合を測りました。濁度が高いほど、タンパク質同士が凝集していることを示します。さらに、溶液を80℃まで加熱してゲルをつくり、加熱中の弾性や粘り気の変化、白さなどを評価しました。
なお、測定の繰り返しは、混合した同じ肉から取った試料を複数回測る方式で行われています。著者らは、肉の死後の熟成時間と最終的な酸性度を記録していない点を、研究の限界として挙げています。
主な結果
溶解性は、チアシードオイルの添加量と超音波の出力を上げるにつれて全体として高まりました。最も高かったのは、40ワットの超音波とオイル3.0%を組み合わせた条件で95.11%でした。何も処理しない対照の35.56%を大きく上回っています。濁度は80ワットの条件で最も低くなりました。対照と比べた低下幅は、オイル0%で44.05%、1.5%で43.13%、3.0%で51.70%でした。研究チームは、適度な超音波とオイルの組み合わせが、タンパク質の過度な凝集を抑えた可能性があるとみています。
タンパク質の立体構造では、超音波の出力とオイル量が増えるにつれて、規則的ならせん構造(αヘリックス)の割合が増え、不規則な部分が減る傾向がありました。αヘリックスの割合が最も高かったのは、80ワットとオイル3.0%の組み合わせで、16.82%でした。
加熱してゲルをつくる過程では、適度な超音波とオイルの添加によって、弾性を示す値が全体として高まりました。粘り気を示す値のピークも、80ワットとオイル3.0%の組み合わせで最も高く、145.11パスカルでした。弾性と粘性の比率からみると、どの条件でもゲルは弾性が優位でした。加熱終了時に弾性の優位性が最も強かったのは、80ワットの条件です。ゲルの白さも80ワットとオイル3.0%の組み合わせで最も高く、81.01%に達しました。
一方、超音波を120ワットまで強めると、多くの指標で好ましい変化が頭打ちになるか、逆の方向に転じる傾向が見られました。ただし、その一部は統計的に有意な差ではありませんでした。著者らはこの理由として、強すぎる超音波がタンパク質の構造を壊したことや、チアシードオイルに多い不飽和脂肪酸が酸化したことを推測しています。ただし、酸化の程度そのものはこの研究では直接測定されていません。
研究が示すこと
この研究は、超音波の強さとチアシードオイルの量を適度に組み合わせることで、ヤク肉の筋原線維タンパク質の構造とゲルの性質が改善されうることを、実験室での測定として示しました。同時に、超音波は強ければよいわけではなく、出力が高すぎると逆効果になりうることも示されています。著者らはこの成果を、ヤク肉をすりつぶして作る製品の品質向上と、チアシードオイルの食肉加工への活用を考えるための理論的な手がかりと位置づけています。
原著論文の著者・所属:Huaifen Wang(College of Pharmacy and Food, Southwest Minzu University, Chengdu 610041, China)、Chenyuan Lu(College of Pharmacy and Food, Southwest Minzu University, Chengdu 610041, China)、Ying Yang(College of Pharmacy and Food, Southwest Minzu University, Chengdu 610041, China)、Yuqi Wang(College of Pharmacy and Food, Southwest Minzu University, Chengdu 610041, China)、Lina Wang(College of Pharmacy and Food, Southwest Minzu University, Chengdu 610041, China; Lu’an Soyea Electrical Manufacturing Co., Ltd., Lu’an 237000, China; School of Food and Biological Engineering, Hefei University of Technology, Hefei 230601, China)、Lina Wang(College of Pharmacy and Food, Southwest Minzu University, Chengdu 610041, China; Lu’an Soyea Electrical Manufacturing Co., Ltd., Lu’an 237000, China; School of Food and Biological Engineering, Hefei University of Technology, Hefei 230601, China)、Juan Chen(College of Pharmacy and Food, Southwest Minzu University, Chengdu 610041, China)、Yuan Liu(College of Pharmacy and Food, Southwest Minzu University, Chengdu 610041, China)、Linlin Wang(College of Pharmacy and Food, Southwest Minzu University, Chengdu 610041, China; Lu’an Soyea Electrical Manufacturing Co., Ltd., Lu’an 237000, China; School of Food and Biological Engineering, Hefei University of Technology, Hefei 230601, China)、Linlin Wang(College of Pharmacy and Food, Southwest Minzu University, Chengdu 610041, China; Lu’an Soyea Electrical Manufacturing Co., Ltd., Lu’an 237000, China; School of Food and Biological Engineering, Hefei University of Technology, Hefei 230601, China)、Rongsheng Du(Sichuan Institute for Drug Control, Chengdu 610016, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Huaifen Wang, Chenyuan Lu, Ying Yang, et al. Synergistic Effects of Ultrasound and Chia Seed Oil on Yak Myofibrillar Protein Gelation: Structure and Gel Property. Foods 2026-09-11. DOI: 10.3390/foods15183214. 原著ライセンス:CC BY.