この研究は、インド、ウガンダの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Food Science & Nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:捨てられてきた「バナナの花」に目を向ける

バナナ(Musa属)の栽培では、花の部分が最も大きな副産物でありながら、ほとんど利用されずに廃棄されてきました。しかし研究チームによれば、バナナの花には食物繊維、カリウム、マグネシウム、植物性タンパク質が豊富に含まれ、南アジアや東南アジアでは古くから食用・伝統医療に用いられてきた歴史があります。さらに、ポリフェノールを中心とした生理活性成分を多く含むことも報告されています。

問題は、収穫後の劣化が速いことです。ポリフェノールオキシダーゼ(PPO)とペルオキシダーゼ(POD)という酵素がポリフェノールを酸化させ、急速な褐変(茶色く変色すること)を引き起こします。これを防ぐ一般的な前処理が「ブランチング」で、短時間の加熱や薬剤処理によって酵素の働きを止める方法です。ただし処理の仕方によっては、守りたい栄養成分まで失われてしまいます。

著者らは、バナナの花に対して熱湯・クエン酸・電子レンジという3種類のブランチングを並べて比較した研究はこれまでなかったと述べ、成分の保持量と組織の微細構造の変化を同時に調べることを目的としました。

何をどう調べたか

研究チームは2025年6月にインド・ケララ州の農場でバナナ(Musa acuminata)の花を入手し、インド植物調査局による種の同定を受けた上で実験に用いました。外側の苞を取り除いて洗浄した試料に3種類の処理を施し、その後50℃で乾燥させて粉末にしています。

処理は次の3系統です。クエン酸処理は常温で1%・3%・5%の溶液に1分間浸すもの、熱湯処理は沸騰水に1分・3分・5分浸すもの、電子レンジ処理は720ワットで30秒・35秒・40秒加熱するものです。いずれも処理後すぐに氷水で冷却し、処理をしない試料を対照としました。

分析では、総ポリフェノール量(TPC)と総フラボノイド量(TFC)を測定し、抗酸化能をDPPH・ABTS・FRAPという3種類の異なる原理の試験で評価しました。あわせてPPOとPODの残存活性、色の変化(CIELAB表色系による測定)も調べています。さらに走査型電子顕微鏡(SEM)で組織表面の様子を、X線回折(XRD)で細胞壁の分子配列の規則性(結晶性)を観察し、成分の残り方と組織構造の変化を結びつけて考察しました。

報告された主な結果

まず、加工前のバナナの花そのものについて、粗繊維13.01 g/100 g、粗タンパク質5.58%、灰分3.71 g/100 gという組成が報告されました。著者らは、これが食物繊維に富み、植物性タンパク質源としても適した組成であるとしています。

ブランチング処理の比較では、電子レンジ処理が成分保持の点で最も良好でした。720ワット40秒の処理でポリフェノール量は7.60 mg GAE/g、フラボノイド量は4.90 mg QE/gと最も高く、抗酸化能もDPPHで57.97 μmol TE/g、ABTSで63.83 μmol TE/g、FRAPで75.72 μmol TE/gと最高値を示しています。一方、熱湯処理5分ではポリフェノール量が5.30 mg GAE/gと最も低く、抗酸化能も3つの試験すべてで最低となりました。著者らはこの差について、熱湯では水溶性成分が処理水に溶け出す上に熱による分解も起こるのに対し、電子レンジ処理は水を使わず短時間で内部から加熱するため流出が抑えられると説明しています。

興味深いのは、酵素を止める効果と成分を守る効果が一致しなかった点です。酵素の不活性化が最も効果的だったのは1%クエン酸処理で、PPOの残存活性は7.74%、PODは12.35%まで低下しました。電子レンジ処理ではPPO 21.57%、POD 30.78%と中程度で、熱湯処理はPPO 43.95%、POD 56.53%にとどまっています。それでも成分保持が最も良かったのは電子レンジ処理でした。著者らはこれを、酵素による酸化と水への流出という2つの損失要因が競合するためと説明しています。熱湯処理では酵素も残り流出も起きるため損失が最大になり、クエン酸処理は酵素を止められる一方で酸による溶出や加水分解が起こる、というわけです。

色については別の傾向が見られました。対照との色差(ΔE)は1%クエン酸処理が2.83と最も小さく、電子レンジ処理が6.12、熱湯処理が9.74と最も大きくなりました。著者らは、ΔEが3を超えると人の目で違いを感じ取れるとされる基準に照らし、熱湯処理では見た目の変色が目立つ可能性を指摘しています。

電子顕微鏡による観察は、これらの違いの背景を裏づけるものでした。未処理の試料は細胞壁が密に保たれ、孔や亀裂が見られませんでした。1%クエン酸処理では細胞間にわずかな隙間と微細な孔が生じ、熱湯処理では細胞壁が崩れて融合し、かえって多孔性が失われていました。電子レンジ処理では細胞壁の層が剥がれ、多数の空隙がつながった構造が観察されています。X線回折でも、電子レンジ処理試料の結晶化度が約29.7%と最も低く、細胞壁の規則的な構造が最も大きく乱れていることが示されました。著者らは、この構造変化が溶媒の浸透を助け、細胞壁に結合していたポリフェノールを取り出しやすくしたと考えています。

この研究が示すもの

同じ「下処理」でも、方法によって守られるものが異なることをこの研究は示しています。成分と抗酸化能を残したいなら電子レンジ処理、見た目の色を保ちたいなら低濃度のクエン酸処理、というように、目的に応じた選択が必要だという構図が浮かび上がります。

そして、成分の増減という結果が、電子顕微鏡やX線回折で見える組織の変化と対応していたことも、この研究の特徴です。廃棄されてきた農業副産物を扱う際に、何が起きているのかを構造のレベルから説明する足がかりを与えています。

著者:Saurabh Bhosle(Department of Food Technology and Nutrition, School of Agriculture Lovely Professional University Phagwara India)、Sonia Morya(Department of Food Technology and Nutrition, School of Agriculture Lovely Professional University Phagwara India)、Robert Mugabi(Department of Food Technology and Nutrition, SFTNB, CAES Makerere University Kampala Uganda)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Saurabh Bhosle, Sonia Morya, Robert Mugabi. Effects of Blanching on Phytochemical Retention, Antioxidant Capacity, and Microstructure of Banana Flower ( Musa spp., Musaceae). Food Science & Nutrition 2026-09-01. DOI: 10.1002/fsn3.72365. 原著ライセンス:CC BY.