この研究は、インドの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Plant Science Today
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
なぜこの研究が行われたのか
シャカトウ(バンレイシ、Annona squamosa L.)は、クリーミーな食感と独特の甘い風味をもつ熱帯果実で、インドやブラジル、タイ、フィリピンなどで栽培されています。栄養面でも炭水化物や食物繊維、ビタミン、フェノール類などの成分を含む果実として知られています。しかし著者らによれば、この果実は収穫後に急速に熟し、常温での日持ちが非常に短いため、流通の途中で傷みやすく、商業的な利用が限られてきました。収穫期が限られていることも、年間を通じた利用を難しくしている要因です。
研究チームは、こうした課題への対応策として、果肉を粉末に加工する方法に着目しました。粉末にすれば保存期間が延び、輸送も容易になり、季節に左右されずに使えるようになります。そこで本研究では、噴霧乾燥(スプレードライ)で作ったシャカトウ粉末とバナナ粉末を組み合わせ、水に溶かすだけで飲めるインスタント飲料ミックスを開発し、常温保存中の品質がどう変化するかを調べることを目的としました。論文では、シャカトウ粉末を用いた保存可能なインスタント飲料の研究例はこれまで乏しかったと説明されています。
どのように調べたか
噴霧乾燥とは、液体を熱風の中に霧状に噴き出して瞬間的に水分を飛ばし、さらさらの粉末にする加工技術です。研究チームは、熟したシャカトウの果肉を水で薄め、粉末化を助ける食品用のマルトデキストリンを加えたうえで、入口温度175℃・出口温度90℃の条件で噴霧乾燥し、粉末を得ました。バナナは緑色の未熟果を洗浄し、80℃で2〜3分間ブランチング(短時間の加熱処理)してすぐ水で冷やし、皮をむいて均一にスライスしています。そのスライスを0.2%のメタ重亜硫酸カリウム溶液に15分間浸けて酵素による褐変を抑えたうえで、65℃の乾燥機で乾かし、粉砕して粉末にしました。
この2種類の粉末を配合比を変えて6種類の飲料ミックスに仕立てました。シャカトウ粉末5.0%+バナナ粉末15.0%(T1)から、シャカトウ粉末17.5%+バナナ粉末2.5%(T6)まで、シャカトウを2.5ポイントずつ増やしバナナを同じだけ減らす組み合わせです。各ミックスはアルミ箔のラミネート袋に詰め、常温で90日間保存しました。
保存中は開始時と30日ごとに、水分含量、水分活性(食品中で微生物が利用できる水の量を示す指標)、炭水化物・タンパク質・脂質・灰分(ミネラル量の目安)、糖の内訳などを測定しました。あわせて、水に溶かして糖度と酸度を一定に整えた飲料を、教員と大学院生からなる10名の半訓練パネルが9点法で評価し、色・外観、香り、口当たり、味、総合的な好ましさを採点しました。細菌、大腸菌群、酵母・カビの数も月ごとに調べ、原材料費や販売価格をもとにした経済性の試算も行っています。
報告された主な結果
保存期間が進むにつれて、いずれの配合でも水分含量と水分活性はゆるやかに上がりました。水分含量は保存期間を通じて10.34〜12.45%の範囲、水分活性は0.42〜0.55の範囲でした。シャカトウ粉末の割合が高い配合ほど水分を取り込みやすく、最も水分が多かったのはT6(12.32%から90日後に12.45%)、最も少なかったのはT1(10.34%から10.46%)でした。著者らは、シャカトウ粉末に低分子の糖が多く吸湿しやすいのに対し、バナナ粉末はデンプンなどが多く吸湿しにくいためと説明しています。ただし変化の幅は小さく、水分活性は微生物が増えやすい水準を下回ったままだったと報告されています。
成分では、バナナ粉末が多い配合ほど炭水化物と灰分が多く、シャカトウ粉末が多い配合ほどタンパク質がわずかに多いという傾向がみられました。保存中は炭水化物、タンパク質、脂質、灰分がいずれもわずかに減少しましたが、減少量は小さいものでした。糖の内訳では、還元糖と総糖が保存とともに増え、非還元糖が減るという逆向きの変化が一貫して確認されました。還元糖は当初の3.87〜3.99%から90日後には4.95〜5.16%へ、総糖は15.42〜15.64%から16.21〜16.38%へと増えています。著者らはこれを、ショ糖などの複雑な糖が保存中に単純な糖へ分解される加水分解反応によるものと解釈しています。
官能評価では、シャカトウ粉末10%+バナナ粉末10%のT3が一貫して最も高い評価を得ました。開始時の得点は色・外観8.50、口当たり8.44、味8.25、総合的な好ましさ8.20で、90日後もそれぞれ8.00、7.75、7.80、7.56を保っていました。著者らは、両方の粉末が均等に入ることで風味、甘み、色、飲み口のバランスがとれ、クリーム色がかった黄色の外観と好ましい口当たりが生まれたためと述べています。一方、シャカトウ粉末が最も多いT6は色・外観の評価が7.31から6.19へ、口当たりが6.31から5.75へと下がり、保存中の褐変には還元糖とアミノ化合物が関わる非酵素的な反応も関係している可能性が指摘されています。
微生物については、90日間の保存期間を通じて、どの配合からも細菌やカビの生育は検出されませんでした。経済性の試算では、シャカトウ粉末5%+バナナ粉末15%の配合が最も高い収益を示しましたが、著者らは栄養、官能的な受容性、保存安定性のバランスという点では10:10の配合が最も優れていたと結論づけています。
この研究が示すこと
研究チームは、噴霧乾燥したシャカトウ粉末をバナナ粉末と組み合わせることで、常温で90日間保存できるインスタント飲料ミックスを作れることを示しました。とりわけ両者を等量ずつ配合した組み合わせが、成分面・味の面・保存性の面でバランスがよかったと報告しています。
日持ちの短さゆえに活用しづらかった果実を、保存のきく粉末飲料という形に変えるという道筋を、実際の測定にもとづいて示した点にこの研究の意味があります。収穫後の損失を減らし、旬を過ぎても果実由来の素材を使えるようにするための、ひとつの具体的な選択肢を提示した研究といえます。
著者:Sangamesh(Department of Post Harvest Management, ASPEE College of Horticulture, Navsari Agricultural University, Navsari 396 450, Gujarat, India)、K Manjula(Department of Post Harvest Management, College of Horticulture, Sirsi, University of Horticultural Sciences, Bagalkot 581 401, Karnataka, India)、G Kirankumar(Department of Post Harvest Management, College of Horticulture, University of Horticultural Sciences, Bagalkot 587 104, Karnataka, India)、R T Patil(Department of Floriculture and Landscaping, College of Horticulture, Sirsi, University of Horticultural Sciences, Bagalkot 581 401, Karnataka, India)、M Ganga(Department of Plantation, Spice, Medicinal and Aromatic Crops, College of Horticulture, University of Horticultural Sciences, Bagalkot 587 104, Karnataka, India)、Prathiksha(Department of Post Harvest Management, Kittur Rani Channamma College of Horticulture, University of Horticultural Sciences, Arabhavi 591 218, Karnataka, India)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Sangamesh, K Manjula, G Kirankumar, et al. Development and storage stability of custard apple (Annona squamosa L.) and banana instant beverage mix: Physicochemical, sensory and microbial quality evaluation. Plant Science Today 2026-09-01. DOI: 10.14719/pst.15804. 原著ライセンス:CC BY.