この研究は、インドの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Frontiers in Food Science and Technology

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

何を明らかにしようとしたのか

豆乳は、良質なたんぱく質を含みコレステロールや乳糖を含まない植物性飲料として関心を集めています。乳酸菌などで発酵させると、栄養面や機能面の性質がさらに高まることが知られていますが、原料となる大豆の品種の違いが発酵豆乳の品質にどう影響するのかについては、十分に整理されてきませんでした。著者らは、これまでの研究の多くが単一の品種、あるいは特定の品質項目だけに注目してきた点を課題として挙げています。

そこで研究チームは、種子の性質が異なる3つの大豆品種を取り上げ、同じ条件で発酵させたときに、栄養・機能性・加工特性・官能(味や見た目の好ましさ)・イソフラボンの各特性がどう変わるかを比較しました。用いたのは、食品用に育成されたKarune(食品用)、クニッツ型トリプシンインヒビター(消化酵素のはたらきを妨げる成分)が遺伝的に少ないV23(低KTI)、そして種皮にアントシアニンを多く含む黒大豆VL-Bhat-65の3品種です。品種による成分の違いが発酵のふるまいと最終製品の品質を左右する、という仮説を立てて検証しています。

どのように調べたか

著者らは各品種の大豆を一晩浸漬して脱皮し、80度の湯とともに磨砕して濾す熱水抽出法で豆乳をつくりました。加熱殺菌した豆乳に、プロバイオティクス乳酸菌であるLactobacillus acidophilus 1132を1%接種し、37度で48時間静置して発酵させています。菌を加えずに同じ条件で置いた豆乳を対照としました。この菌株が選ばれたのは、イソフラボンの配糖体(糖が結合した形)を、吸収されやすいアグリコン(糖が外れた形)へ変える酵素のはたらきをもち、同時に乳酸を産生して酸性化と微生物学的な安定に寄与するためだと説明されています。

測定項目は多岐にわたります。たんぱく質・脂質・炭水化物などの一般成分、pHと滴定酸度、鉄・亜鉛・カルシウム・カリウムといったミネラル、生きた菌数、抗酸化活性と総ポリフェノール量、抗栄養因子であるフィチン酸とトリプシンインヒビター活性、おなかの張りの原因となるラフィノース族オリゴ糖(ラフィノースやスタキオース)、そしてイソフラボンの形態別の量です。加えて、色、可溶性固形分、沈殿率、粘度などの加工特性と、20名のパネルによる9段階の官能評価も行っています。

主な報告結果

3品種のいずれでも乳酸菌はよく増殖し、乳酸を産生しました。発酵によってpHは下がり、滴定酸度は上がっています。菌の生存数は黒大豆豆乳で最も高く、著者らはこれを、黒大豆に豊富なアントシアニンなどの色素がプレバイオティクス的にはたらいた可能性と結びつけて論じています。

発酵は3品種すべてで、栄養面・機能面の指標を有意に改善したと報告されています。ラフィノース族オリゴ糖は減少し、抗栄養因子であるフィチン酸とトリプシンインヒビター活性も低下しました。一方で総ポリフェノール量とDPPHラジカル消去能で測った抗酸化活性は上昇し、イソフラボンのアグリコンへの変換も進みました。ミネラルについては見かけ上の濃度が高まりましたが、著者らは、密閉系の発酵でミネラルそのものが増えるわけではなく、フィチン酸のようなミネラルと結合する成分が分解されて取り出されやすくなったことや、発酵中の組成変化による見かけの濃縮が理由だろうと注意を促しています。

品種ごとの特徴も分かれました。黒大豆の発酵豆乳はたんぱく質とミネラルの含量、そして粘度が最も高くなりました。食品用品種の発酵豆乳は抗酸化活性が最も高く、フィチン酸とトリプシンインヒビター活性が最も低く、官能評価での受容性も最も高いという結果でした。低KTI品種の発酵豆乳は、イソフラボンの配糖体からアグリコンへの変換が最も進んでいました。なお著者らは、試験管内での抗酸化能の向上が、そのまま人体での生理的・臨床的な効果を示すものではなく、生体利用性や代謝についてはさらなる検討が必要だと明言しています。

この研究が示すこと

同じ乳酸菌を同じ条件で使っても、原料とする大豆の品種によって、できあがる発酵豆乳の栄養価、機能性成分、質感、そして好まれやすさは大きく変わります。ある一つの品種がすべての面で優れているわけではなく、たんぱく質やミネラルを重視するのか、抗酸化性や飲みやすさを重視するのか、イソフラボンの形態変換を重視するのかによって、適した品種は異なるということです。

著者らは、この結果が、栄養面を高めた発酵植物性飲料をつくる際に、目的に応じて大豆品種を選ぶための科学的な手がかりになると位置づけています。原料の選択そのものが、発酵という工程と並ぶ設計上の要素であることを示した研究といえます。

著者:Muzaffar Hasan(Centre of Excellence on Soybean Processing and Utilization, ICAR-Central Institute of Agricultural Engineering)、Dilshad Ahmad(Division of Seed Science and Technology, ICAR-Indian Agricultural Research Institute)、Veda Krishnan(Division of Biochemistry, ICAR-Indian Agricultural Research Institute)、Archana Sachdev(Division of Biochemistry, ICAR-Indian Agricultural Research Institute)、Anil Dahuja(Division of Biochemistry, ICAR-Indian Agricultural Research Institute)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Muzaffar Hasan, Dilshad Ahmad, Veda Krishnan, et al. Soybean variety influences the quality and functionality of soymilk fermented by Lactobacillus acidophilus 1132. Frontiers in Food Science and Technology 2026-09-01. DOI: 10.3389/frfst.2026.1927350. 原著ライセンス:CC BY.