この研究は、スロベニアの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Journal of Cereal Science

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

ボザは、キビ、トウモロコシ、小麦、米などの穀物からつくられる、とろみのある甘酸っぱい低アルコールの発酵飲料です。バルカン半島やアナトリア地方を中心に飲まれており、伝統的には単一の微生物ではなく、乳酸菌と酵母を含む複数の微生物が混ざった集団によって発酵が進みます。そのため製品ごとの差が大きく、研究チームは、原料となる穀物とスターター(発酵の種となる菌の供給源)を明確に定めたうえで比較する必要があると述べています。

この研究の目的は、穀物の材料そのものと、発酵の種として何を加えるかが、発酵の進み方にどのように影響するかを、条件をそろえた実験室モデルで調べることでした。著者らは、材料の成分が複雑な穀粉のほうが、精製したデンプンよりも酸の生成や香り成分の変化が大きくなるだろうと予想を立てています。

何をどのように調べたか

研究チームは、トウモロコシ粉、キビ粉、精製したトウモロコシデンプンという3種類の穀物ベースと、市販のサワークリーム、工業用の中温性乳製品スターター(乳酸菌などの菌種が特定された既製の種菌)、トルコのボザ製造業者から得たボザ由来の種菌という3種類の接種源を組み合わせ、計9通りの試料を用意しました。いずれにも砂糖を7%加え、22℃で48時間発酵させています。実験は独立して3回繰り返されました。

3種類のベースは、落下する鋼球が沈む時間を測る方法で、見かけの粘度がそろうように水分量を調整しています。ただしこの調整は粘度をそろえるものであって、固形分の量をそろえるものではないため、デンプンのベースは穀粉のベースより単位体積あたりの固形分が少なくなったと著者らは断っています。また3種類の接種源は、加える量や活性単位を基準にそろえたもので、生きた菌の数を等しくそろえたわけではない点も明記されています。

測定したのは、酸性度を表すpH、加えた塩基の量で酸の蓄積量を表す滴定酸度、培養で数えられる好気性細菌の数、そしてガスクロマトグラフ質量分析による14種類の揮発性(香り)成分です。一方で、酵母の量、微生物群集の構成、エタノールや二酸化炭素の生成は、この研究では測定していません。

報告された主な結果

最も明瞭だったのは、穀粉ベースと精製デンプンベースの違いでした。穀粉を使った試料は大きく酸性化し、pHは最大で3.5単位ほど下がり、48時間後の滴定酸度は最大で1kgあたり24.6ミリモルのNaOHに達しました。これに対してデンプンを使った試料はpHの低下が1単位に満たず、滴定酸度も1kgあたり2ミリモル未満にとどまり、統計的に意味のある増加は認められませんでした。

pHと滴定酸度は関連しつつも、同じことを示す指標ではありませんでした。pHの下がり方が最も大きかったのはトウモロコシ粉の試料でしたが、酸の蓄積量が最も多かったのはキビ粉、とくにサワークリームを加えたものでした。著者らはこの差について、キビ粉の緩衝能(酸が増えてもpHが下がりにくくする働き)が高いためだろうと考察し、穀物の種類が異なる場合、pHだけでは発酵の進み具合を過小に見積もる可能性があると述べています。

香り成分については、14種類のうちアセトイン、2,3-ブタンジオールの2つの異性体、1-ヘキサノール、1-オクテン-3-オールの5つで、発酵に伴う有意な変化が検出されました。変化が最も広く現れたのはキビ粉の試料で、デンプンの試料はほとんど変化しませんでした。とくにアセトインや2,3-ブタンジオールでは、48時間で数十倍から数百倍という大きな増加が報告されています。

一方で、48時間後に培養して数えた好気性細菌の数は、9通りの組み合わせのあいだで統計的に意味のある差が認められませんでした。酸性化がごくわずかだったデンプン試料でも、菌数は他と同程度に高い値を示しています。キビ粉とサワークリームの組み合わせで経時的に菌数を追った実験では、発酵の早い段階で菌が急増し、その後48時間まで高い水準が保たれました。

この研究が示すこと

著者らは、今回試した範囲では、穀物の材料が発酵の性質と強く結びついていた一方、培養で数えた最終的な細菌数だけでは、酸性化や香り成分の変化を捉えられなかったと結論づけています。接種源の違いは反応の大きさを変えましたが、穀物による大きな違いを覆すものではありませんでした。

つまり、菌がどれだけ増えたかと、発酵によって何がつくられたかは、必ずしも同じ方向を向いていません。発酵の中身を知るには、菌数に加えて、酸の量やpH、香り成分といった化学的な指標をあわせて見る必要があるということを、この研究は具体的な数値とともに示しています。

著者:Katja Fink(Laboratory of Neuroendocrinology-Molecular Cell Physiology, Institute of Pathophysiology, Faculty of Medicine, University of Ljubljana, Zaloška 4, Ljubljana, Slovenia)、Ines Uršnik(Department of Biology, Biotechnical Faculty, University of Ljubljana, Večna pot 111, Ljubljana, Slovenia)、Damjan Janeš(Faculty of Pharmacy, University of Ljubljana, Aškerčeva cesta 7, Ljubljana, Slovenia)、Marko Kreft(Celica Biomedical, Tehnološki park 24, Ljubljana, Slovenia)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Katja Fink, Ines Uršnik, Damjan Janeš, et al. Cereal matrix shapes acidification and volatile compound formation, but not culturable bacterial counts, in boza, a fermented cereal beverage. Journal of Cereal Science 2026-08-24. DOI: 10.1016/j.jcs.2026.104544. 原著ライセンス:CC BY.