著者の所属・活動拠点の国は、イタリアです。

掲載誌:Molecules

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

カチョカヴァッロは、加熱した生地を練って伸ばす「パスタ・フィラータ」製法で作られるイタリアの伝統的なセミハードチーズです。熟成と保管の間に表面へカビが生えると、風味や保存期間が損なわれます。カビの種類や株によっては、カビ毒(マイコトキシン)を作るおそれもあります。

一方で、添加物の少ない食品を求める声が高まり、植物から得られる精油が抗菌成分の供給源として関心を集めています。ただし、精油の効き目は成分の組成によって大きく変わります。さらにチーズでは、たんぱく質や脂質が精油成分を取り込み、実際に働ける量が減る可能性があります。著者らは、実際のカチョカヴァッロから分離した野生のカビと、チーズそのものに近い条件を用いて、成分を分析した精油の抗カビ作用を評価することを目的としました。

チーズに生えるカビと精油の成分

研究チームは、同じ製造元のカチョカヴァッロを夏・秋・冬に採取し、培養できるカビを合計171株分離しました。分離数は夏が70株、秋が61株、冬が40株でした。著者らは、暖かい季節から寒い季節にかけて減る傾向を、統計的な差ではなく記述的な傾向として示しています。属別では、全体を通してペニシリウム属が最も多く、冬にはフザリウム属が最も多くなりました。

見た目や顕微鏡での特徴が似た株をグループにまとめ、そこから32株を代表として選びました。これらは遺伝子配列(ITS領域やβ-チューブリン遺伝子)で種名を推定しています。その結果、ペニシリウム・コムーネが8株で最も多く、アスペルギルス・フラバスが3株で続きました。著者らは、分類が難しい属では、これらの種名を確定ではなく暫定的な推定として扱っています。

試験に用いた精油は5種類です。ローズマリー(学名サルビア・ロスマリヌス)は、成分の異なる3つの化学型(同じ植物種でも成分組成が異なる系統)から精油を得ました。ほかにオレガノの品種「カルヴァ」と、月桂樹(ローレル)の精油を用いています。ガスクロマトグラフィー質量分析で成分を調べたところ、ローズマリーの3種はいずれもカンファー、α-ピネン、1,8-シネオールを主成分としながら、その割合はそれぞれ異なっていました。オレガノ精油は83.95%がカルバクロールで、ローレル精油は1,8-シネオール、リナロール、酢酸ボルニルが主な成分でした。

培地とチーズ片での抗カビ作用

実験室の培地を使った試験では、どの精油も濃度が高いほど抑制効果が強まりました。また、カビが糸状に広がる成長(菌糸の成長)よりも、胞子の発芽のほうが抑えられやすい傾向がありました。試した最高濃度の0.35%(体積比)では、ローズマリーの化学型の一つ(SR-CV2-23)が最も幅広いカビに作用しました。一方、アルテルナリア・アルテルナタの菌糸の成長を最も強く抑えたのはオレガノ精油で、抑制率は58.5%でした。

ペニシリウム・コムーネの胞子を蛍光色素で染めて顕微鏡で観察すると、精油で処理した胞子は、代謝活性の低下と細胞膜の損傷を示す方向へ変化していました。この変化はローズマリーの別の化学型(SR-CV3-23)で最も目立ちました。著者らは、この観察を生存率の定量ではなく、定性的な裏付けとして位置づけています。

続いて、ペニシリウム・コムーネを接種したチーズ片に精油を処理し、14±2℃で14日間保管しました。肉眼で見えるコロニーの数を対照と比べると、最も大きく減ったのはオレガノ精油で、0.35%で97.2%、0.25%で93.4%の減少でした。SR-CV2-23は同じ濃度で92.3%と84.5%の減少でした。著者らは、この数値は目に見えるコロニーが減ったことを示すもので、カビを死滅させたことや生存力を失わせたことを意味するものではないと説明しています。また、培地試験とチーズ片試験は評価の指標が異なるため、直接は比較していません。

食べずに香りだけを評価する予備的な官能評価では、全体として精油の濃度が低いほうが好まれる傾向がありました。

研究が示すこと

この研究は、カチョカヴァッロから実際に分離したカビに対し、成分の分かった精油が、濃度や油の種類、カビの種類に応じて生育を抑えることをチーズ片でも示しました。同時に著者らは、カビ毒の量は測定しておらず、生育が抑えられてもカビ毒が減るとは言えないことを強調しています。精油は衛生管理や包装、温度管理、既存の保存料に代わるものではなく、カビ対策を組み合わせる際の要素の一つになりうる、というのが著者らの位置づけです。実際の利用には、製造現場の条件での検証が必要だとしています。

原著論文の著者・所属:Shazia Akram(Department of Bioscience and Technology for Food, Agriculture and Environment, University of Teramo, Via R. Balzarini 1, 64100 Teramo, Italy)、Beatrice Brandimarte(Department of Bioscience and Technology for Food, Agriculture and Environment, University of Teramo, Via R. Balzarini 1, 64100 Teramo, Italy)、Giuseppe Natale Basile(Department of Soil, Food and Plant Sciences, University of Bari Aldo Moro, 70126 Bari, Italy)、Giuseppe De Mastro(Department of Soil, Food and Plant Sciences, University of Bari Aldo Moro, 70126 Bari, Italy)、Clemencia Chaves Lopez(Department of Bioscience and Technology for Food, Agriculture and Environment, University of Teramo, Via R. Balzarini 1, 64100 Teramo, Italy)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Shazia Akram, Beatrice Brandimarte, Giuseppe Natale Basile, et al. Antifungal Efficacy and Chemical Profiles of Salvia, Oregano, and Laurus Essential Oils Against Mold Species Associated with Caciocavallo Cheese Spoilage. Molecules 2026-09-27. DOI: 10.3390/molecules31193439. 原著ライセンス:CC BY.