掲載誌:JURNAL SOSIAL HUMANIORA
ライセンス: CC BY-SA 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
この研究は、マーク・マイロッド監督の映画『ザ・メニュー』(2022年)で交わされる料理に関する台詞に注目し、食べ物が「象徴資本」として、また階級支配のイデオロギーの道具として、どのように表されているかを調べたものです。抄録によると、著者らは料理をめぐる言葉が社会の上下関係をどのように再生産しているのかを明らかにしようとしました。
映画の分析では、映像表現や画面の美しさが重視されることが多くあります。この研究はそうした従来の分析とは異なり、登場人物が話す言葉だけをテキスト資料として扱った点に特徴があります。
理論の枠組みと調べ方
研究の土台には、カール・マルクスの階級関係の理論があります。分析の中心となったのは、ルイ・アルチュセールのイデオロギー論です。アルチュセールは、学校や家族、メディアなどの制度が社会の秩序を支える考え方を人々に浸透させると考え、それらを「国家のイデオロギー装置」と呼びました。また、人が社会から特定の立場の者として呼びかけられ、その役割を自ら引き受けていく働きを「呼びかけ(インターペレーション)」と名づけました。研究チームはこれらの概念を主な枠組みとしました。
さらに、ピエール・ブルデューの「象徴資本」と「卓越化(ディスタンクシオン)」の概念も補助的に用いています。象徴資本とは、お金そのものではなく、威信や評価、名声として働く資源のことです。卓越化とは、趣味や好みの違いを通じて自分を他者から区別し、上の立場にあることを示す働きを指します。
方法は、記述的な質的研究とテキスト分析です。映画の中で実際に話された台詞を文字に起こした、確認済みの書き起こし資料(トランスクリプト)から、料理に関わる重要な台詞の抜粋20か所を、研究の目的に沿って意図的に選び出して分析しました。
主な結果
抄録によると、分析からは言葉による主な仕組みが二つ見いだされました。
一つ目は、料理をめぐる台詞が「料理の排他性」を強調する語り口によって、食べ物を象徴資本として位置づけていることです。この語り口の特徴として、著者らは専門用語の使用、希少性を語る物語、美的な正統性の主張、そして制度化された「門番」のような選別の働きを挙げています。これらはエリートとしての卓越性を示す合図になっていると報告されています。
二つ目は、こうした台詞がイデオロギーの仕組みとして働き、客たちを、演じるように振る舞う階級的な立場へと「呼びかけ」ていることです。それによって経済的な不平等や、接客などのサービス労働が商品として扱われることが当たり前のものとして受け入れられていく、と論文は述べています。
研究が示すこと
著者らは、『ザ・メニュー』における料理の台詞は物語を進める役割を超えていると結論づけています。台詞は何が正統な「よい趣味」なのかが争われる場であり、後期資本主義が抱えるイデオロギー上の矛盾が浮き彫りになる重要な場でもある、というのが研究の見方です。この研究は、映画のなかで料理について語る言葉そのものが、社会の階級や価値観を映し出す手がかりになりうることを示しています。
原著論文の著者・所属:Dennisa Mutiara、Nurbaity
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Dennisa Mutiara, Nurbaity Consuming Class: Food, Ideology, and Symbolic Capital in the Film Dialogues of The Menu. JURNAL SOSIAL HUMANIORA 2026-10-10. DOI: 10.30997/jsh.v17i2.26485. 原著ライセンス:CC BY-SA 4.0.
本紹介記事の文章(題名・見出しを含む)は、CC BY-SA 4.0で提供します。原著論文をもとにNutriMap Japanが日本語で要約・説明を加えています。対象は本紹介記事の文章に限り、ヒーロー画像・サイトのロゴ・画面デザイン・他の記事・データベース全体は含みません。