著者の所属・活動拠点の国は、インドネシアです。
掲載誌:Jurnal Teknologi dan Manajemen
ライセンス: CC BY-SA 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:勘頼みの価格設定を見直す
飲食店がメニューの価格を決めるには、まず一品を作るのに実際いくらかかっているか(売上原価)を正しく知る必要があります。原価を低く見積もれば知らないうちに利益を失い、高く見積もれば価格が割高になって客足が遠のくおそれがあります。
研究チームが事例として取り上げたのは、インドネシア・モジョケルト市マゲルサリ地区にある小規模な食堂「デポ・スカル・サリ」です。著者らによると、この店では月々の売上が伸び悩んでいました。原価計算は店主の勘に頼っており、電気・ガス・水道代や調理器具の減価償却費といった「間接費」が、各メニューにきちんと割り振られていませんでした。
そこで研究チームは、二つの原価計算法でメニューごとの原価を比べました。さらに、その結果をもとに、複数の商品を組み合わせて割安に売る「セット販売(バンドリング)」の価格案を設計しました。
何を調べたか:二つの原価計算法とマーケティングの枠組み
著者らは店主と従業員への聞き取りや現場観察を行い、店の記録も参照して、材料費、人件費、光熱費、包装費、減価償却費などのデータを集めました。対象メニューは、焼き鳥料理2種(ルジャック風とソイソース風)、フライドチキン、ご飯、アイスティー、オレンジジュースの6品です。
一つ目の計算法は「全部原価計算(フルコスティング)」です。材料費・人件費・間接費のすべてを製品の原価に含めますが、間接費は比較的一律に配分されます。二つ目は「活動基準原価計算(ABC)」です。こちらは厨房の稼働時間、ガスの使用量、包装の数、器具の使用時間など、実際の作業量の指標に応じて間接費を割り振ります。どの商品がどれだけ手間や資源を使っているかを、より細かく反映させる考え方です。
さらに研究チームは、ABCで求めた原価を、市場を分けて狙う客層と店のイメージを定める「STP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)」というマーケティングの枠組みと組み合わせ、セット価格の設計に用いました。
主な結果:原価のゆがみとセット価格の提案
論文によると、全部原価計算では、看板商品である鶏肉料理の原価がABCより高く算出されていました(過大な原価配分)。その差は1品あたりおよそ3,000〜4,000ルピアでした。反対に、ご飯や飲み物の原価は低く算出されていました(過小な原価配分)。差はおよそ141〜1,000ルピアで、特に飲み物で割合が大きく報告されています。著者らは、間接費を一律に配分すると主力商品が割高に見える一方で、脇役の商品が実際に使っている資源が見えにくくなり、利益が気づかないうちに削られると説明しています。また、店の従来の見積もり原価はどちらの計算法よりも低く、現在の販売価格は低すぎて「隠れた損失」があることを示していると述べています。
次に研究チームは、ABCの原価に、料理は25%、飲み物は40%の目標利益率を上乗せして通常価格を定めました。そのうえで、STP分析を通じて家族連れと会社員を主な客層に設定しました。提案されたのは、家族向けと個人向けを合わせた6種類のセットで、いずれも10%の割引を付けています。店の打ち出し方としては、「科学的に計算された公正な価格の、伝統的な家族向け食堂」が掲げられました。
研究チームは、売上の4割がセットに移るという控えめな想定で試算を行っています。その結果、月の売上は約4,250万ルピアから約4,820万ルピアへと13.4%増える見込みとなり、割引後も平均22.5%の利益率を確保できると報告しています。主要食材の価格が10%上がる想定でも、セット価格を急に上げずに最低14.2%の利益率を保てるとしています。なお、これらは実際に販売した結果ではなく、シミュレーションによる見通しです。
この研究が示すこと
この研究は、同じ食堂の同じメニューでも、間接費の割り振り方しだいで「どの商品が儲かっているか」の見え方が大きく変わることを、具体的な事例で示しています。著者らは、作業量に基づく原価計算を値付けやセット販売の土台にすることで、客にとって納得しやすく、店にとっても利益を確保しやすい価格設計ができると結論づけています。
ただし、著者ら自身が述べているとおり、対象は一軒の食堂に限られます。原価のゆがみの大きさといった具体的な数値は、この店に固有のものです。一方で、原価計算とマーケティング分析とセット販売を組み合わせる手順そのものは、ほかの飲食店にも応用できる枠組みだと位置づけられています。
原著論文の著者・所属:Pratama, Naufal Hanif(Adhi Tama Institute of Technology Surabaya)、Dwicahyani, Anindya Rachma(Adhi Tama Institute of Technology Surabaya)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Pratama, Naufal Hanif, Dwicahyani, Anindya Rachma Analysis of Full Cost Calculation and Activity-Based Cost Calculation Methods as A Basis for Designing Marketing Strategies for Product Package Pricing. Jurnal Teknologi dan Manajemen 2026-08-06. DOI: 10.31284/j.jtm.2027.v8i1.9220. 原著ライセンス:CC BY-SA 4.0.
本紹介記事の文章(題名・見出しを含む)は、CC BY-SA 4.0で提供します。原著論文をもとにNutriMap Japanが日本語で要約・説明を加えています。対象は本紹介記事の文章に限り、ヒーロー画像・サイトのロゴ・画面デザイン・他の記事・データベース全体は含みません。