この研究は、ハンガリーの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Applied Sciences

ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: Crossref

研究の目的

牛乳のたんぱく質は代表的な食物アレルゲンのひとつで、乳糖が体質に合わない人もいます。そこで、酵素でたんぱく質を分解したり乳糖を分解したりして、こうした人にも食べやすい乳製品をつくる研究が進められています。ただし著者らは以前の研究で、たんぱく質を酵素で分解してから乳酸菌で発酵させると、発酵乳製品の抗酸化能がかえって下がることを報告していました。分解でできた小さなペプチドが乳酸菌に取り込まれてアミノ酸などに変わり、抗酸化性をもつペプチドが残りにくくなるためだと説明しています。

一方、ビート(ビーツ)の皮は加工の際に捨てられたり飼料に回されたりすることが多い部位ですが、赤紫色のベタシアニンや黄橙色のベタキサンチンといった天然色素(まとめてベタレインと呼ばれます)や抗酸化成分を含みます。研究チームは、この皮の抽出液を、かき混ぜて仕上げるタイプ(攪拌型)の低アレルゲン・乳糖分解ヨーグルトに加え、色と抗酸化能を補えるかを調べました。著者らは、ビートの皮の抽出液でこの種のヨーグルトを強化する試みは、知る限り初めてだとしています。

何を調べたか

まず、円筒形の品種(シリンドラ型)のビートの皮を粉砕し、家庭用電子レンジ(450W)で加熱しながら水で成分を抽出しました。水1Lあたりの皮の量を10g、30g、50gの3通り、加熱時間を1分、3分、5分の3通りに変え、30秒加熱して15秒止める運転を繰り返しました。比較のため、皮50g/Lを室温で同じ時間水に浸けただけの抽出も行いました。抽出液については、色素の量と、鉄を還元する力から抗酸化能を測る化学的な試験(FRAP法、アスコルビン酸に換算して表示)を調べています。

ヨーグルトは、市販の殺菌牛乳のたんぱく質をパパイン(パパイヤ由来のたんぱく質分解酵素)で50℃・10分間分解し、70℃で酵素の働きを止めてから、ヨーグルト用の乳酸菌で45℃・6時間発酵させてつくりました。パパインの濃度は2通りで、発酵時に乳糖分解酵素(ラクターゼ)を加えたものと加えないものを用意しました。発酵後、抗酸化能が最も高かった抽出液を体積で10〜40%加えて混ぜ、乳たんぱく質アレルゲンの量を測る検査(ELISA法)、抗酸化能、色を調べました。色はイチゴ味やチェリー味の市販ヨーグルトと比べています。

主な結果

電子レンジ加熱を使うと、室温で浸けただけの場合より多くの色素と抗酸化成分が取り出されました。皮50g/Lの条件では、ベタシアニンの濃度が室温抽出の約56〜72mg/Lに対し、加熱1分で約308mg/L、5分で約348mg/Lに達しました。ベタキサンチンも同様に増え、最大で約208mg/Lでした。抽出液の抗酸化能は、室温抽出の約89〜185mg(アスコルビン酸換算)/Lに対し、皮50g/L・加熱5分で約587mg/Lと最も高くなりました。ただし、皮1gあたりで取り出せる抗酸化能は、皮の量が少ない10g/Lの条件のほうが高く、皮を増やすほど効率は下がったと報告されています。

ヨーグルトについては、パパインでたんぱく質を分解してから発酵させる工程により、ELISA法で測ったアレルゲン性が対照より大きく下がりました。パパインを高い方の濃度(0.012g/L)で使いラクターゼも加えた場合、低下は90%を超えました。発酵後に抽出液を30%加えると、ヨーグルトの赤みがはっきり強まりました。さらに、同じ条件(パパイン0.012g/L、ラクターゼあり)のヨーグルトに抽出液を40%加えると、抗酸化能は対照の約3.5倍になったと報告されています。

この研究が示すこと

この研究は、アレルゲン性を抑え乳糖を分解する工程で失われがちなヨーグルトの抗酸化能を、本来捨てられることの多いビートの皮から取り出した成分で補える可能性を示しています。あわせて、抽出液が天然の赤い色づけの役割も果たすことが示されました。なお、ここでの抗酸化能は試験管内の化学的な測定による値で、食べたときの健康への効果を調べたものではありません。

著者:Kenbon Beyene Abdisa(Department of Food Process Engineering, Institute of Food Science and Technology, Hungarian University of Agriculture and Life Sciences, Ménesi út 44, HU-1118 Budapest, Hungary)、Moh Moh Zin(Department of Food Process Engineering, Institute of Food Science and Technology, Hungarian University of Agriculture and Life Sciences, Ménesi út 44, HU-1118 Budapest, Hungary)、Adrienn Varga-Tóth(Department of Livestock Product and Food Preservation Technology, Institute of Food Science and Technology, Hungarian University of Agriculture and Life Sciences, Ménesi út 43–45, HU-1118 Budapest, Hungary)、Krisztina Takács(Department of Nutrition, Institute of Food Science and Technology, Hungarian University of Agriculture and Life Sciences, Somlói út 14–16, HU-1118 Budapest, Hungary)、Márta Ladányi(Department of Applied Statistics, Institute of Mathematics and Basic Science, Hungarian University of Agriculture and Life Sciences, Villányi út 29–43, HU-1118 Budapest, Hungary)、Júlia Mazár(Department of Food Process Engineering, Institute of Food Science and Technology, Hungarian University of Agriculture and Life Sciences, Ménesi út 44, HU-1118 Budapest, Hungary)、András Koris(Department of Food Process Engineering, Institute of Food Science and Technology, Hungarian University of Agriculture and Life Sciences, Ménesi út 44, HU-1118 Budapest, Hungary)、Attila Csighy(Department of Food Process Engineering, Institute of Food Science and Technology, Hungarian University of Agriculture and Life Sciences, Ménesi út 44, HU-1118 Budapest, Hungary)、Arijit Nath(Department of Food Process Engineering, Institute of Food Science and Technology, Hungarian University of Agriculture and Life Sciences, Ménesi út 44, HU-1118 Budapest, Hungary)、Szilvia Bánvölgyi(Department of Food Process Engineering, Institute of Food Science and Technology, Hungarian University of Agriculture and Life Sciences, Ménesi út 44, HU-1118 Budapest, Hungary)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Kenbon Beyene Abdisa, Moh Moh Zin, Adrienn Varga-Tóth, et al. Enrichment of the Antioxidant Capacity of Stirred-Type of Hypoallergenic and Lactose-Free Yogurt with Cylindra-Type Beetroot (<i>Beta vulgaris</i> L.) Peel Extract. Applied Sciences 2026-09-01. DOI: 10.3390/app16199407. 原著ライセンス:CC BY.