日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。

掲載誌:Social Science Journal for Advanced Research

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的と背景

海洋ごみは世界的な環境課題であり、なかでもプラスチックは分解されにくく、時間をかけて細かい破片になって海の生態系に蓄積していきます。研究チームは、この問題の長期的な解決は廃棄物処理の仕組みや政策だけでは足りず、人々の認識や日常の行動が変わるかどうかにも左右されると述べています。日本は廃棄物管理の体制が整い、環境意識も比較的高いとされる一方で、海洋プラスチック汚染は依然として深刻な課題だと論文は指摘しています。

こうした文脈で、子どもは将来の意思決定者であると同時に、いま家庭に影響を与える存在でもあり、環境に関する学びを受け取りやすい年代だと位置づけられています。ただし著者らによれば、学校での海洋ごみ教育に関する実証研究はヨーロッパや中南米からの報告が多く、東アジア、とくに日本の小学生を対象に、短時間の授業が知識や行動の意図をどう変えるかを前後比較で示した証拠は限られていました。そこで本研究は、神戸市の小学校5年生を対象に、海洋ごみに関する知識・意識・行動の意図が授業の前後でどう変わるかを調べています。

どのように調べたか

調査は神戸市立東町小学校で行われました。授業の前に94人の5年生がアンケート(事前調査)に回答し、その後、写真やイラストを使ったスライドとクイズを取り入れた対話型の授業を受けました。授業では、海洋ごみとは何か、どのように発生して海へ運ばれるのか、なぜ生態系と人にとって問題なのかという三つの柱が扱われ、プラスチックごみとマイクロプラスチックに重点が置かれています。1週間後に54人が事後調査に回答しました。回答者が減ったのは、学年末という時期や運営上の制約が主な理由だと説明されています。

分析には二つの方法が組み合わされました。選択式の回答については割合を集計し、授業前後の違いが偶然では説明しにくいかどうかをカイ二乗検定という統計手法で確かめ、さらに変化の大きさ(効果量)も算出しています。自由記述については、記述内容を読み込んで共通するテーマごとに分類する手法がとられ、子どもたちの言葉づかいや説明の仕方がどう変化したかを捉えています。なお研究は、知識や態度、そして「自分にはできる」という感覚が行動の意図につながると考える計画的行動理論を参考に設計されたと述べられています。

報告された主な結果

事前調査では、海洋ごみについて「聞いたことがある」と答えた児童が91%に達し、全般的な認知度は高いものでした。情報源としてもっとも多く挙げられたのは学校で、次にメディアやソーシャルメディアが続き、保護者や友人は比較的少なかったと報告されています。しかし著者らは、認知度の高さが正確な理解を意味するわけではなかったと指摘します。海洋ごみの中身を尋ねると「プラスチック」「ペットボトル」といった大まかな答えが多く、原因についても8割が「ポイ捨て」など単一の原因で説明していました。プラスチックが海中で300年以上残りうることを正しく選べた児童は27.7%にとどまりました。

授業後、この知識の項目は98.1%まで上昇し、統計的に有意な大きな変化として報告されています(χ²(1, N = 148) = 65.67、p < 0.001、Cramér's V = 0.67)。海洋ごみの説明も、漁網、ガラス、ライター、流木、マイクロプラスチックといった具体的で多様な例へと広がりました。事前には約13%が無回答だったこの自由記述の項目で、事後には無回答がなくなったことも、知識だけでなく答える意欲や自信の変化を示すものとして挙げられています。原因を複数挙げる回答は20%から30%へ増えましたが、こちらは統計的に有意な差ではなかったと明記されています。

行動に関する結果は項目によって分かれました。ボランティア活動への参加は17%から25%へと増えたものの、統計的に有意ではありませんでした。一方、食べ物を無駄にしないよう努めていると答えた割合は11%から75%へ大きく上がり、有意かつ効果量も大きいと報告されています(χ²(1, N = 148) = 64.70、p < 0.001、Cramér's V = 0.66)。著者らはこの違いを、自分の日常のなかですぐ実行できる行動と、時間や周囲の協力、地域の機会を必要とする行動の差として解釈しています。また事後の自由記述では、約30%の児童が今後ボランティア活動に参加したいと述べ、環境問題をもっと学びたい、リサイクルショップを使いたいといった意欲も示されました。

この研究が示すこと

研究チームは、短く対話的な授業であっても、海洋ごみに関する正確な理解と説明の深さを大きく高めうること、そして子どもが今すぐ実行できる種類の環境行動を後押ししうることを、この結果が示していると結論づけています。同時に、より手間や外部の機会を必要とする行動については、一度の授業では大きな変化が確認されなかったことも併せて報告されています。海洋ごみという身近な入口から、環境への関心そのものが広がる可能性を示した日本からの実証例として位置づけられる研究です。

著者:Miki Nakai(Department of English Studies, Kobe City University of Foreign Studies, Kobe, Hyogo, Japan)、Noriko Nozaki(Independent Researcher, Akashi, Hyogo, Japan)、Rajeev Kumar Singh(Department of International Relations, Kobe City University of Foreign Studies, Kobe, Hyogo, Japan)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Miki Nakai, Noriko Nozaki, Rajeev Kumar Singh. Empowering Young Minds through Environmental Education on Marine Litter: Evidence from a School-Based Intervention in Japan. Social Science Journal for Advanced Research 2026-09-30. DOI: 10.54741/ssjar/6.5.2026.412. 原著ライセンス:CC BY.