著者の所属・活動拠点の国は、ドイツ、タイです。

掲載誌:Discover Education

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

子どもの頃の食事は、体の発達や学習、将来の健康の土台になります。一方、世界的に、子どもが加工食品や砂糖入り飲料を多くとり、果物や野菜が不足しがちな傾向が指摘されています。論文によると、東南アジアでは急速な都市化で食環境が変わり、栄養不足と過体重・肥満が同時に存在する「栄養不良の二重負荷」が課題になっています。タイについては、2020年の全国健康調査で6〜14歳の子どもの13.3%が過体重、15.2%が肥満だったという報告が紹介されています。

タイでは、小学生に無償で食事や牛乳を提供する学校給食プログラムや学校牛乳プログラムなど、学校を通じた栄養対策が長く続けられてきました。それでも健康的でない食習慣は残っています。子どもの食習慣を形づくるうえで、学校と家庭はどちらも重要な場です。しかし、保護者と学校職員がそれぞれの役割や困りごと、互いの連携の可能性をどう捉えているかについて、タイでの知見は限られていました。そこで研究チームは、両者の役割の認識、子どもの食生活を支えるうえでの課題と機会、そして家庭と学校の意思疎通や連携についての見方を比べることを目的としました。

調べた方法

研究は、数値で効果を測るのではなく、当事者の語りから考え方や経験を読み解く質的研究です。対象は、タイ北部チェンマイ市の中心部にある公立小学校3校です。チェンマイは、地域の食文化と変化する食生活の両方が学校の食環境に影響している、都市化の進む地域として選ばれました。

10〜12歳の子どもを持つ保護者には、各校で4〜6人に呼びかけ、グループで話し合う形式(フォーカスグループ)で意見を聞きました。給食の運営や子どもの健康管理に関わる学校職員には、個別にインタビューを行いました。データ収集は2022年12月と2023年6月に行われています。分析では、個人、人間関係、学校などの組織、地域の環境という複数の層から人の行動をとらえる「社会生態学モデル」を、話題設定と解釈の枠組みとして用いました。ただし、各層の間の因果関係を検証するものではないと著者らは述べています。

主な結果

保護者と学校職員の双方が、子どもが不健康なお菓子や砂糖入り飲料を強く好むことを懸念していました。こうした好みは、教育的な働きかけがあっても変えにくいものとして語られました。

家庭と学校の関係では、保護者は自分の役割を、主に子どもに「よくない食べ物」を避けるよう教えることや、家庭での食事の管理と捉えていました。これに対し学校職員は、献立づくり、食材の調達、調理場での問題対応まで、ずっと幅広い責任を担っていると語りました。保護者は健康的な食事についての一般的な案内や、一部の食べ物の持ち込み制限については知らされていましたが、給食の計画や調達に日常的に関わっている様子はうかがえませんでした。著者らは、これを保護者が意思決定から排除されている証拠ではなく、学校の食に関する話し合いに意見を伝える機会が限られている状況として解釈しています。

給食の運営方法は学校ごとに異なり、教員が中心となって運営する形、調理員や事務職員、外部業者を組み合わせる形、外部に委託する形などがありました。予算の規模、学校の大きさ、職員の人手がこうした違いに影響しているとされ、予算の配分が遅れがちなことも運営を難しくしていると語られました。学校職員は、献立の設計や調達の制約、授業に組み込まれた栄養教育が少ないことなども課題に挙げています。

さらに、学校の近くで甘いお菓子や塩辛いスナックを売る露店などの存在が、学校での健康づくりの取り組みを弱めているという見方が、保護者と学校職員の双方から示されました。

研究が示すこと

著者らは、チェンマイの都市部の小学校3校では、保護者と学校職員が異なりつつも互いに補い合う役割を担っていると結論づけています。学校職員は給食運営の大きな負担を抱え、一部の保護者は学校の食について意見を述べる機会が少ないと感じていました。そして両者とも、子どもの食の好みと周囲の食環境を課題と捉えていました。

この結果から、著者らは同様の環境では家庭と学校の意思疎通や給食運営の改善を検討する価値があると述べています。ただし、これは参加者の語りに基づく解釈であり、特定の取り組みの効果を検証したものではありません。また、農村部や他地域にそのまま当てはまるとは限らず、子ども自身や政策担当者の声は含まれていない点も、著者らは限界として挙げています。子どもの健康的な食事は、学校だけ、家庭だけでは支えきれないこと、そして両者をつなぐ対話の場が鍵になりうることを、この研究は当事者の声から浮かび上がらせています。

原著論文の著者・所属:Piyanit Churak(Institute of Geography, Friedrich-Alexander-Universität Erlangen-Nürnberg, Erlangen, Germany; Institute of Nutrition, Mahidol University, Bangkok, Thailand)、Kansuda Wunjuntuk(Department of Home Economics, Faculty of Agriculture, Kasetsart University, Bangkok, Thailand)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Piyanit Churak, Kansuda Wunjuntuk. Parents' and school personnel's perspectives on healthy eating in Thai primary schools. Discover Education 2026-10-28. DOI: 10.1007/s44217-026-02345-5. 原著ライセンス:CC BY.