この研究は、トルコの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Food Technology and Biotechnology
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
何を目的とした研究か
乾燥は果物の保存期間を延ばす昔ながらの方法ですが、水分を抜く過程で縮みやひび割れ、硬化といった見た目や食感の変化が起き、香りや色、栄養成分が失われることも知られています。こうした欠点を抑えるため、近年はさまざまな新しい乾燥技術が試されてきました。なかでも赤外線乾燥は処理が速く、費用が抑えられ、エネルギー効率が高い点で注目されています。ただし赤外線乾燥にも弱点があり、表面が硬い皮のようになる「クラスト形成」や褐変、部分的な焦げが生じることが指摘されています。
この研究で著者らが用いたのは、庫内の上下に赤外線ランプを配置し、真空を組み合わせた「真空併用両面赤外線乾燥機」です。赤外線は伝わるのに媒体を必要とせず真空中でも進むため、酸素に弱い食品の処理に向くとされます。研究チームはこの装置を使い、乾燥前にメロンのスライスへ施す前処理——クエン酸への浸漬、エタノール、超音波、ブランチング(加熱処理)、凍結——とその組み合わせが、乾燥時間とチップスの品質にどう影響するかを調べました。著者らによれば、真空併用の両面赤外線乾燥で複数の前処理を組み合わせた例はこれまで見当たらないとのことです。
どのように調べたか
材料にはトルコ・ワン県の市場で入手したクルカアチ種のメロンが使われました。皮と種を取り除いた果肉を厚さ2〜3ミリの薄切りにし、8通りの前処理を施したうえで、赤外線出力200ワット(庫内約55℃)、450ミリメートル水銀柱の減圧下で、水分が9%未満になるまで乾燥させています。
前処理の内容は次のとおりです。0.5%のクエン酸水溶液に7分浸したものを対照群とし、これにエタノール(クエン酸をエタノールに溶かした液に浸す)、超音波(浸漬中に超音波を当てる)、ブランチング(80℃前後の液に浸す)、凍結(−24℃で16時間凍らせてから解凍を兼ねて浸す)を単独または重ねて組み合わせました。乾燥後は、水分量、色(明るさを表すL*、赤みを表すa*、黄色みを表すb*)、水に戻したときの復水比、体積の縮み具合を示す収縮率、糖の種類と量、加熱の指標となるHMF(5-ヒドロキシメチルフルフラール)、総フェノール量と抗酸化能を測定し、さらに13名のパネリストによる官能評価(見た目、色、香り、硬さ、粘り、味、酸味、総合的な好ましさを9段階で採点)を行っています。前処理と乾燥にかかった電力も測り、メロン1キログラムあたりの比エネルギー消費量を算出しました。
報告された主な結果
まず乾燥速度について。生のメロンの水分89.44%が、乾燥後には6.62〜8.95%まで下がりました。乾燥時間は70〜155分と前処理によって幅があり、対照のクエン酸のみと比べて12.90〜53.22%短縮されています。特に短かったのは、クエン酸・エタノール・超音波・凍結を組み合わせた試料で72.5分、クエン酸・エタノール・超音波・ブランチングの組み合わせで90分でした。著者らはこの理由を、ブランチングや超音波、凍結が細胞壁を壊して水分を抜けやすくする一方、エタノールは組織中の水を溶かし出すためで、両方の効果が重なったと説明しています。エネルギー面でも、比エネルギー消費量は2.59〜4.73キロワット時/キログラムの範囲で、凍結を含む4種組み合わせが最も低い2.59でした。凍結そのものには16時間かかるものの、乾燥時間が短い分で上回った形です。
品質面の結果は一様ではありませんでした。復水比が最も高かった(6.07)のも収縮率が最も低かった(85.7%)のも、同じクエン酸・エタノール・超音波・凍結の組み合わせです。色の数値としてはクエン酸とエタノールの組み合わせが最も良好で、明るさを示すL*が最大、赤みのa*が最小でした。一方、超音波を含む前処理を経た試料はL*が低くa*が高い、つまり暗めの色になり、加熱の指標であるHMFも74.92〜117.98ミリグラム/キログラム乾物と他より高い値を示しています。著者らは、超音波のキャビテーションによる組織損傷と局所的な温度上昇が関係している可能性を挙げています。
成分については、乾燥したチップスの糖、総フェノール量、抗酸化能はいずれも生のメロンより低く、前処理を重ねるほどフェノール量と抗酸化能は減る傾向が見られました。最も高い総フェノール量(2565.34ミリグラムGAE/キログラム乾物)とDPPH値(7.47ミリモルTE/グラム乾物)は、クエン酸のみに浸した試料で得られています。ところが官能評価で最も好まれたのは、クエン酸とブランチングを組み合わせた試料でした。特に総合的な好ましさで高得点を得ており、著者らはブランチングが生っぽい味やにおいを取り除き、硬さや粘りの面で食感に良い影響を与えたためではないかと考察しています。色と見た目については超音波を用いた試料の評点が高く、これはトルコでは色の濃い天日乾燥品を食べる習慣があるためではないかと述べられています。
この研究が示すこと
この研究が浮かび上がらせたのは、「速く乾く」ことと「おいしく仕上がる」ことが必ずしも一致しないという点です。乾燥時間・省エネ・復水性・収縮の少なさという物理的な指標では複数前処理の組み合わせが優れていましたが、成分の保持ではクエン酸のみが、食べたときの評価ではクエン酸とブランチングの組み合わせが最も良い結果でした。
著者らは、急速な乾燥をもたらす真空併用赤外線乾燥の製品への悪影響を抑え、より風味がよく見た目にも好ましいメロンチップスを作るうえで、クエン酸とブランチングの組み合わせが使えると結論づけています。どの指標を重視するかによって選ぶべき前処理が変わる——乾燥食品の設計における、その実際的な判断材料を示した研究といえます。
著者:Gülsüm Çur(Van Yüzüncü Yıl Üniversitesi)、Serdar Uğurlu(Hakkari University)、Tahir Yücel(Van Yüzüncü Yıl Üniversitesi)、Emre Bakkalbaşı(Department of Food Engineering , Faculty of Engineering , Van Yüzüncü Yıl University , Zeve Campus , 65080 Van , Türkiye)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Gülsüm Çur, Serdar Uğurlu, Tahir Yücel, et al. Influence of Pretreatment Combinations on Drying Time and Quality of Melon Chips Produced by Vacuum-Assisted Two-Way Infrared Drying. Food Technology and Biotechnology 2026-09-08. DOI: 10.17113/ftb.64.03.26.9444. 原著ライセンス:CC BY.