この研究は、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Journal of Food Composition and Analysis

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

なぜ「取り出し方」が課題なのか

マイクロプラスチック(大きさ5ミリメートル未満のプラスチック粒子)は、魚介類や飲料水、食塩、乳製品、茶飲料など幅広い食品から見つかっています。研究チームによれば、食品は栽培から加工、包装、保管に至る工程でプラスチック材料と接する機会があり、加熱殺菌や凍結解凍、機械的な摩擦といった処理が包装材や装置からの粒子の放出を促す可能性も指摘されています。

ところが、食品に含まれる粒子を数えたり種類を見分けたりするには、まずタンパク質や脂質、炭水化物といった有機成分を取り除く「消化」という前処理が必要です。論文は、この前処理に迅速で標準化された手順がないことが、マイクロプラスチックの監視やリスク評価を進めるうえでの大きな障壁になっていると述べています。従来の伝導加熱による方式では、複雑な食品の場合に数時間を要することもあり、作業が長引くほど外部からの汚染が混入する危険も高まります。さらに、酸や過酸化水素は有機物をよく分解する一方で、プラスチック粒子そのものを傷めてしまうことがあります。

そこで著者らは、マイクロ波で試料を内部から直接温める「マイクロ波支援消化」に着目しました。これは短時間で均一に分解が進み、密閉容器で行うため外部汚染を抑えやすい手法です。本研究の目的は、有機物をしっかり除去しつつ、プラスチック粒子の性質をできるだけ壊さない条件を見つけることでした。

何を、どのように調べたか

研究チームはまず、食品や環境からよく検出される5種類のプラスチック、すなわちポリスチレン(PS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)の粒子を対象にしました。2種類の消化液を用意し、S1は8モル毎リットルの硝酸、S2は4モル毎リットルの硝酸と30パーセント過酸化水素を体積比4対1で混ぜたものです。温度は80、100、120、140℃の4段階、時間はいずれも30分としました。処理の前後で、粒子の重さ(回収率)、電子顕微鏡で見た表面の様子、赤外分光法で調べた化学構造の3点を比べています。

次に、有機成分の異なる4つの食品を選びました。炭水化物が多い小麦粉、タンパク質と脂質が多いハムソーセージ、食物繊維が多いブナシメジ、ゲル状のゼリーです。論文はこれらを、栽培用の袋や包装材、加工工程を通じてプラスチックに接する機会がある代表例として位置づけています。粒子への影響がもっとも小さい80℃で30分の消化を行い、乾燥重量の減少から消化効率を計算しました。ブナシメジについては、同じ試薬と同じ温度で従来型の伝導加熱消化装置も使い、両者を比較しています。

最後に、確立した条件が実際に使えるかを確かめるため、PP粒子を食品に加えて回収する試験を行いました。10〜200マイクロメートルの粒子は重さで、500〜800マイクロメートルの粒子は50個を顕微鏡下で数えて回収率を求めています。

報告された主な結果

プラスチックの種類によって耐性は大きく異なりました。著者らは全体的な安定性の順序を、PVC、PE、PPがほぼ同程度で最も高く、次いでPET、そしてPSが最も低いと報告しています。PP、PE、PVCは140℃でもどちらの消化液でも安定していました。論文はこの違いを化学構造に結びつけ、PP・PE・PVCは分解されにくい飽和した炭素骨格を持つのに対し、PETは分子鎖にあるエステル結合が酸によって加水分解されやすく、PSは芳香環が強酸下で酸化や置換を受けやすいためだと説明しています。

PSとPETは、とくにS1(硝酸のみ)で高温にすると変化が目立ちました。PSでは140℃のS1処理で表面に溝やくぼみが生じ、120〜140℃では赤外スペクトルにも明確な変化が現れています。PETでは120〜140℃のS1処理で表面が粗くなり、回収率は84パーセントを下回りました。一方、過酸化水素を加えたS2ではこれらの変化が抑えられ、PETは140℃でも形が保たれています。

食品の消化では、マイクロ波を使うほうが従来の伝導加熱より効率が高いという結果が得られました。繊維の多いブナシメジでは、S2によるマイクロ波消化が97.82パーセントだったのに対し、同じ試薬・同じ温度の伝導加熱消化は83.62パーセントでした。他の食品でも、S1とS2でそれぞれ小麦粉が98.89パーセントと99.10パーセント、ゼリーが99.61パーセントと99.74パーセント、ハムソーセージが87.06パーセントと98.11パーセントと報告されています。

これらを踏まえ、著者らは食品ごとに条件を変える方針を示しました。ブナシメジは80℃のS1、小麦粉・ゼリー・ハムソーセージは80℃のS2で、いずれも消化効率は98パーセントを超えたとしています。PP粒子を加えた回収試験では、回収率は90.94〜103.47パーセントで、2つの大きさの範囲の間に有意な差はありませんでした。粒径分布も全体としては消化の前後で大きく変わらず、ただし30マイクロメートル未満の粒子の割合がわずかに減り、これは小さな粒子どうしが集まって大きくなったためではないかと考察されています。

この研究が示すこと

この研究は、消化時間を30分としながら、有機物の除去率と粒子の保存状態を両立できることを、複数の食品と複数の樹脂で具体的に示しました。ブナシメジでの直接比較では、同じ試薬・同じ温度・同じ30分という条件のもとで、マイクロ波を使うほうが従来の伝導加熱より多くの有機物を取り除けています。同時に、どの条件でどの樹脂が傷むのかを整理したことで、「効率よく溶かす」ことと「粒子を壊さない」ことのあいだで何を選ぶべきかの判断材料が提供されています。

著者らは、この手法が多様な食品に応用できる迅速で信頼性の高い手順を与え、食品中のマイクロプラスチック分析をより環境負荷の小さい流れへ移していくことに寄与すると位置づけています。なお論文は、複雑な食品に含まれうるナノサイズの粒子の扱いは依然として課題であり、消化後に残る粒子にはプラスチック以外のものも含まれるため、分光法による識別が引き続き必要だとも述べています。

著者:Rongrong Song(College of Food Science and Engineering, and Jiangsu Province Engineering Research Center of Edible Fungus Preservation and Intensive Processing, Nanjing University of Finance and Economics, Nanjing 210023, China)、Anxiang Su(College of Food Science and Engineering, and Jiangsu Province Engineering Research Center of Edible Fungus Preservation and Intensive Processing, Nanjing University of Finance and Economics, Nanjing 210023, China)、Hui Xu(College of Food Science and Engineering, and Jiangsu Province Engineering Research Center of Edible Fungus Preservation and Intensive Processing, Nanjing University of Finance and Economics, Nanjing 210023, China)、Jianhui Liu(College of Food Science and Engineering, and Jiangsu Province Engineering Research Center of Edible Fungus Preservation and Intensive Processing, Nanjing University of Finance and Economics, Nanjing 210023, China)、Xinhui Wang(College of Food Science and Engineering, and Jiangsu Province Engineering Research Center of Edible Fungus Preservation and Intensive Processing, Nanjing University of Finance and Economics, Nanjing 210023, China)、Wenjian Yang(College of Food Science and Engineering, and Jiangsu Province Engineering Research Center of Edible Fungus Preservation and Intensive Processing, Nanjing University of Finance and Economics, Nanjing 210023, China)、Minhao Xie(College of Food Science and Engineering, and Jiangsu Province Engineering Research Center of Edible Fungus Preservation and Intensive Processing, Nanjing University of Finance and Economics, Nanjing 210023, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Rongrong Song, Anxiang Su, Hui Xu, et al. Microwave-assisted digestion for rapid extraction of microplastics from food matrices. Journal of Food Composition and Analysis 2026-08-28. DOI: 10.1016/j.jfca.2026.109485. 原著ライセンス:CC BY.