この研究は、中国、イタリアの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Foods (Basel, Switzerland)

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC

研究の目的

パンは世界で広く食べられている主食ですが、主原料である精製小麦粉はたんぱく質、食物繊維、ミネラル、生理活性成分に乏しく、必須アミノ酸のリジンが不足していると著者らは指摘しています。そこで栄養価を補う素材として注目されるのが豆類です。論文によれば、金時豆(レッドキドニービーン、Phaseolus vulgaris L.)はたんぱく質、でんぷん、食物繊維を多く含み、必須アミノ酸の組成も穀物たんぱく質を補う素材として優れているとされています。

ただし豆の粉には、パンの骨格をつくるグルテンのもとになるたんぱく質(グリアジン、グルテニン)が含まれません。そのため大量に加えると生地の構造やレオロジー特性(変形や流動のしやすさに関わる性質)が損なわれ、これまでのパンでは配合量はおおむね10%未満にとどまってきたと著者らは述べています。この研究では、豆粉の配合を思い切って50%まで高めたうえで、製粉前の前処理によって加工適性を改善できるかを検討しました。

調べた方法

研究チームは金時豆に6種類の前処理を施しました。皮むき(一晩浸漬してから剥皮)、焙煎(160℃で20分)、常圧蒸し(30分)、高圧蒸し(121℃で15分)、発芽(37℃・湿度80%で3日間)、電子レンジ加熱(800W・2分)です。前処理をしていない豆と合わせて乾燥・粉砕し、80メッシュ(180μm)の篩を通して粉にしました。

この豆粉を50%、高グルテン小麦粉37.5%、グルテン粉12.5%の割合で配合した生地とパンを作り、小麦粉だけのパンと比較しています。評価したのは、でんぷんの糊化特性(加熱で水を吸って膨らむ性質)、ミキシング特性、生地の動的レオロジー、たんぱく質の二次構造、グルテン高分子(GMP)量、遊離チオール基の量、共焦点レーザー顕微鏡による微細構造などです。パンについては比容積、色、テクスチャー、気泡構造、アミノ酸組成、試験管内でのでんぷん消化性、香気成分が調べられました。

報告された主な結果

まず、金時豆粉を加えると生地の吸水率は67.8%から80.3%へ有意に上昇しました。著者らはこれを、豆の皮に含まれる食物繊維の水素結合による保水と、豆の主要たんぱく質であるグロブリンの高い保水力によるものと説明しています。加熱を伴う前処理では、未処理の豆粉生地に比べて吸水率がさらに5.7〜9.7%高まりました。

生地の安定性(ミキシングへの耐性)については、加熱処理で安定時間が17.6〜34.3%向上したと報告されています。一方、皮むきでは18.6%低下し、発芽では有意な変化はありませんでした。生地の形成時間は、皮むきで21.4%、発芽で22.1%短くなりました。

たんぱく質の構造では、小麦粉生地のβシート含量31.12%に対し、未処理の豆粉生地は36.35%と有意に高くなりました。著者らはこの構造変化がパンの品質低下と関連することが多いと述べています。常圧蒸しと高圧蒸しではそれぞれ33.39%、32.94%まで低下し、秩序だった構造を示すαヘリックスは未処理の17.42%に対して18.79%、18.86%へと増加しました。

生地の強さに関わるGMPは、未処理の豆粉生地では4.59%と小麦粉生地の4.83%を下回りましたが、加熱処理後は5.11%(電子レンジ)〜5.73%(常圧蒸し)へ有意に増加しました。これと対応して、遊離チオール基は未処理の1.49μmol/gに対し加熱処理群では1.03〜1.41μmol/gと低く、常圧蒸し(1.03μmol/g)と高圧蒸し(1.12μmol/g)で特に低い値でした。著者らは、この減少がたんぱく質同士の共有結合による架橋がより進んだことを反映し、グルテンの網目構造の強度を高めると説明しています。ただし、金時豆と小麦のたんぱく質のあいだに分子間ジスルフィド結合が形成されたことを今回の結果が直接示すものではない、とも明記しています。

顕微鏡観察でも、常圧蒸しと高圧蒸しを施した生地ではでんぷんの分布が比較的均一でした。糊化特性の測定では、加熱処理によって糊化エンタルピーが4.6%(焙煎)から13.2%(高圧蒸し)有意に低下しており、前処理の段階で豆でんぷんが部分的に糊化したことによると考察されています。

この研究が示すこと

豆粉を50%まで高配合すると、グルテンが薄まり食物繊維が水を奪い合うことで生地の構造は損なわれます。しかし製粉前の前処理を選ぶことで、その不利をある程度埋め合わせられることを著者らは一連の測定から示しました。とりわけ常圧蒸しと高圧蒸しという水と熱を使う処理は、たんぱく質の構造やグルテン網目の指標、でんぷんの分布のいずれにおいても、未処理より良好な方向への変化を示しています。

豆の栄養を大きく取り込んだパンをつくるうえで、材料の配合だけでなく「粉にする前にどう処理するか」が製パン性を左右する要素であることを、この研究は具体的な測定値とともに示したといえます。

著者:Zhao J(Culinary Science and Technology Department, Jiangsu College of Tourism, 88 Yuxiu Road, Yangzhou 225000, China.)、Hou X(State Key Laboratory of Food Science and Resources, School of Food Science and Technology, National Engineering Research Center for Functional Food, Jiangnan University, 1800 Lihu Avenue, Wuxi 214122, China.)、Li T(Department of Food Science and Engineering, College of Light Industry and Food Engineering, Nanjing Forestry University, Nanjing 210037, China.)、Al-Ansi W(Faculty of Agricultural, Environmental and Food Sciences, Free University of Bozen-Bolzano, 39012 Bolzano, Italy.)、Fan M(State Key Laboratory of Food Science and Resources, School of Food Science and Technology, National Engineering Research Center for Functional Food, Jiangnan University, 1800 Lihu Avenue, Wuxi 214122, China.)、Li Y(State Key Laboratory of Food Science and Resources, School of Food Science and Technology, National Engineering Research Center for Functional Food, Jiangnan University, 1800 Lihu Avenue, Wuxi 214122, China.)、Qian H(State Key Laboratory of Food Science and Resources, School of Food Science and Technology, National Engineering Research Center for Functional Food, Jiangnan University, 1800 Lihu Avenue, Wuxi 214122, China.)、Wang L(State Key Laboratory of Food Science and Resources, School of Food Science and Technology, National Engineering Research Center for Functional Food, Jiangnan University, 1800 Lihu Avenue, Wuxi 214122, China.)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Zhao J, Hou X, Li T, et al. Comparative Analysis of Pretreatment Methods for High-Content Red Kidney Bean Bread: Effects on Processing Characteristics and Bread Quality. Foods (Basel, Switzerland) 2026-08-28. DOI: 10.3390/foods15173051. 原著ライセンス:CC BY.