この研究は、トルコ、イタリアの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Plants

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の背景と目的

ギンバイカ(学名Myrtus communis L.)は地中海地域に自生する常緑低木で、古くから香り高い植物として利用されてきました。その濃い青黒色の果実には、ポリフェノールやアントシアニンといった健康に関わる成分が多く含まれることが知られています。しかし生の果実は常温での日持ちが限られるため、乾燥による保存が行われてきました。

一方で、熱風による乾燥は長時間の加熱を伴い、熱に弱い成分の分解や色・食感の変化を招く可能性があると研究チームは指摘しています。そこで注目されるのが「浸透前処理」です。これは、糖などが濃く溶けた液に果実を浸して水分を抜く方法で、超音波を併用すると組織の構造が変化して水や成分の移動が促されると報告されています。

著者らは、この前処理をギンバイカ果実に適用した例、とくにブドウ糖蜜(濃縮したブドウ果汁)のような天然の浸透媒体を使った例がこれまで検討されていない点に着目しました。本研究の目的は、前処理の条件と乾燥温度の組み合わせが、乾燥果実の成分や乾燥の進み方にどう関わるかを調べることです。

何をどのように調べたか

研究チームは、トルコ・アンタルヤの試験園で2023年11月に収穫した『Yakup』品種のギンバイカ果実を用いました。前処理としては、浸す液(ブドウ糖蜜または水)、処理の方法(超音波を当てる/静かに浸すだけ)、処理時間(30分、45分、60分)を組み合わせた12通りを設定し、これに前処理をしない対照区を加えた13区分を用意しました。その後、それぞれを60℃、75℃、90℃の熱風乾燥機で乾燥させ、合計39通りの組み合わせを調べています。

乾燥した果実については、総ポリフェノール量、総アントシアニン量、DPPH法による抗酸化活性、糖の組成などを測定しました。また、生の果実については糖・有機酸・香り成分の分析を行い、基礎的な特性の記録として位置づけています。

なお著者らは、各組み合わせが1つの乾燥トレイ1回分に相当し、3回の測定は同じ試料を分析した結果であることを明示しています。そのため統計的な比較は行わず、結果は記述的に示されていると述べています。また、前処理中の水分の減少量や固形分の増加量は測定していないことも記されています。

報告された主な結果

生の果実は、平均重量0.47g、糖度17.82度で、糖としてはブドウ糖(5.15g/100mL)と果糖(5.70g/100mL)が主体でした。有機酸ではコハク酸が全体の約65%を占め、これを著者らは『Yakup』品種の特徴として挙げています。香り成分ではユーカリの香りで知られるユーカリプトール(41.14%)が最も多く検出されました。ただしこれらはあくまで出発点の記録であり、前処理や乾燥による香りの変化は本研究では評価していないと明記されています。

乾燥果実の測定値は、条件によってばらつきが見られました。抗酸化活性は78.22〜83.93%の阻害率の範囲に収まり、総ポリフェノールは808.10〜1415.27mg GAE/100g(乾燥重量あたり)の範囲でした。アントシアニンについては、前処理をしない対照区がどの乾燥温度でも最も高い測定値を示し、多くの前処理区では60℃での値が75℃・90℃より高い傾向が見られたと報告されています。ただしこの傾向はすべての処理で一様ではありませんでした。

乾燥の進み方についても興味深い結果が得られています。60℃ではブドウ糖蜜+超音波30分(T1)が最も速く、75℃では同じくブドウ糖蜜+超音波45分(T2)が最速でした。しかし90℃では、超音波を使わないブドウ糖蜜への静置浸漬60分(T9)と前処理なしの対照区が最も速いという結果でした。逆に、水に静置して60分浸した処理(T12)は、3つの温度すべてで最も乾燥が遅く、規定の水分量に達しませんでした。

研究チームは、これらの結果を通して、どの乾燥温度でも一貫して最良となる前処理は見つからなかったと総括しています。糖の総量が最も高かった処理も温度ごとに異なり(60℃ではT4、75℃ではT10、90℃ではT2)、すべての成分項目で最高値を示す単一の処理は存在しませんでした。

この研究が示すこと

この研究が伝えているのは、乾燥の前処理には万能の正解がない、という観察です。超音波を使えば必ず速く乾く、糖蜜に浸せば必ず成分が残る、といった単純な関係ではなく、浸す液・方法・時間・乾燥温度の組み合わせ全体によって結果が変わっていました。

著者ら自身も、測定した値が成分の「保持率」や「濃縮」を示すものではないこと、前処理中の物質移動を測っていないため仕組みの説明はできないことを、繰り返し限界として述べています。そのうえで、乾燥時間の短さだけでなく、目指す製品の特性に応じて前処理と乾燥温度を選ぶべきだ、という考え方を示しました。地域に根ざした素材であるブドウ糖蜜を浸透媒体として用いた最初の検討として、今後の研究の出発点となる記録を残した研究といえます。

著者:Sevinç Şener(Department of Horticulture, Faculty of Agriculture, Akdeniz University, Antalya 07058, Türkiye)、İsmail BOYAR(Department of Agricultural Machinery and Technologies Engineering, Faculty of Agriculture, Akdeniz University, Antalya 07070, Türkiye)、Esra Gölcü(Department of Horticulture, Faculty of Agriculture, Recep Tayyip Erdoğan University, Rize 53300, Türkiye)、Doğan Ergün(Department of Horticulture, Faculty of Agriculture, Çukurova University, Adana 01330, Türkiye)、Luca Mazzoni(Department of Agricultural, Food, and Environmental Sciences, Università Politecnica Delle Marche, 60121 Ancona, Italy)、Ebru Kafkas(Department of Horticulture, Faculty of Agriculture, Çukurova University, Adana 01330, Türkiye)、Can Ertekin(Department of Agricultural Machinery and Technologies Engineering, Faculty of Agriculture, Akdeniz University, Antalya 07070, Türkiye)、Deniz Hazar(Department of Horticulture, Faculty of Agriculture, Akdeniz University, Antalya 07058, Türkiye)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Sevinç Şener, İsmail BOYAR, Esra Gölcü, et al. Ultrasound-Assisted Osmotic Pretreatment of Myrtle (Myrtus communis L.) Berries with Grape Molasses: Impacts on Convective Drying Quality. Plants 2026-08-27. DOI: 10.3390/plants15172616. 原著ライセンス:CC BY.