ニゲラサティバ、和名では黒クミンと呼ばれる植物の種子は、香辛料や伝統的な食品用途で使われてきました。この種子から低温圧搾でオイルを搾ると、あとに『プレスケーキ』と呼ばれる搾りかすが残ります。オイルを搾ったあとの副産物というと廃棄物のイメージがありますが、実はタンパク質やポリフェノールなどの成分が残っており、食品や飼料としての活用が検討されています。今回紹介する研究は、搾油前の種子にどのような前処理を施すかによって、このプレスケーキの成分や機能性がどう変わるかを調べたものです。
どんな前処理を比べたのか
研究チームは、ニゲラサティバの種子に対して四つの前処理法(対流加熱、マイクロ波加熱、超音波処理、パルス電界処理)を施したうえで低温圧搾を行い、得られたプレスケーキの化学組成、色調、機能特性、フェノール化合物のプロファイル、抗酸化活性、脂肪酸組成、タンパク質含量を比較しました。前処理を行わない対照区も設けたうえで、各処理がプレスケーキの価値にどう影響するかを検証する構成です。
研究でわかったこと
まず搾油かすの収量については、マイクロ波、超音波、パルス電界の三つの前処理で最も低い値(63.61〜65.54%)となり、これら三者の間には統計的な差は見られなかったと報告されています。
タンパク質含量については、マイクロ波処理と無処理(対照)のサンプルが乾物あたり最も高い値(それぞれ30.81g、30.79g/100g)を保持していたとされています。つまり、加熱を伴わない、あるいは特定の加熱方法によっては、タンパク質が比較的よく残る可能性が示されたことになります。
一方、超音波処理を施したプレスケーキは、総フェノール含量と総フラボノイド含量が最も高くなったと報告されています。さらに、プレスケーキの分析からはサリチル酸とカテキンが主要な生理活性成分として検出されており、著者らはこれらの成分が抗菌性や抗酸化性の用途に応用できる可能性を示唆しています。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
この研究は、リトアニアのヴィータウタス・マグヌス大学やポーランドのヴロツワフ環境生命科学大学、ルブリン生命科学大学などに所属する研究者らによって行われたものです。今回提供された情報の範囲では、日本の研究機関や日本の食品・生産事情への言及は見当たりませんでした。
本研究は、搾油前の種子処理という一つの切り口からプレスケーキの成分変化を比較検討したものであり、特定の前処理法が万能に優れているという結論を示すものではありません。収量が高いことと、タンパク質やフェノール成分が豊富であることは必ずしも一致した傾向を示さなかった点からも、用途(例えば食品用か飼料用か、タンパク質重視か抗酸化成分重視か)に応じて適した前処理法が異なる可能性があることがうかがえます。あくまで一つの研究段階の知見であり、ヒトの健康への効果や実用化の効果を直接証明するものではない点に留意が必要です。
まとめ
この研究では、黒クミンの種子に加える前処理の種類によって、低温圧搾後に残るプレスケーキの収量やタンパク質含量、フェノール・フラボノイド含量が異なることが示されました。搾油の副産物であるプレスケーキを、食品や飼料として持続的に活用していくための基礎的な知見を提供するものと位置づけられています。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Valdas Laukagalis, Živilė Tarasevičienė, Mindaugas Visockis, et al. Nigella sativa L. Press Cake: Effect of Pre-Treatment Methods on Chemical Composition and Functional Properties After Cold Pressing. アプライド・サイエンシズ (2026). DOI: 10.3390/app16157542. 原著ライセンス: cc-by.