著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Plants

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:1日のうちの「摘む時刻」に注目

お茶の味や香りは、新芽に含まれる成分で大きく決まります。渋みの主な源となるカテキン類、うま味やまろやかさをもたらすアミノ酸のテアニン、苦みの主な源であるカフェインなどです。これらの量は品種や栽培環境、季節によって変わることが知られています。一方で、光の強さや気温、湿度は1日のうちにも大きく変化します。

研究チームは、中国十大銘茶の一つとされる緑茶「信陽毛尖」の産地、河南省信陽市を対象にしました。著者らによると、この茶ではこれまで加工方法の改善や官能評価、季節への適応が主に研究されてきました。1日のうちの時刻による成分や遺伝子の働きの変化は、体系的には調べられていませんでした。とくに、日中に光合成で作られる貯蔵物質のデンプンと、味に関わる成分との関係は、時刻ごとに見るとはっきりしていませんでした。そこで、摘む時刻が新芽の成分にどう影響するかを明らかにし、摘採や加工の判断に役立つ知見を得ることを目指しました。

何を調べたか

材料は、信陽毛尖の生産に広く使われる耐寒性品種「信陽10号」の3年生の茶樹です。2025年4月20日ごろの晴れた1日に、7時、13時、18時の3回、芽と若い葉からなる新芽を摘み取りました。そのうえで、デンプンや糖、水分、葉緑素、ポリフェノールの量を測り、顕微鏡で葉の断面のデンプン粒も観察しました。

さらに二つの網羅的な解析を組み合わせました。一つはメタボローム解析で、細胞内の多数の化合物を一度に測ります。もう一つはトランスクリプトーム解析で、どの遺伝子がどれだけ働いているかをまとめて調べます。成分の変化と遺伝子の働きの変化を突き合わせ、時刻による違いの背景を探りました。

主な結果:朝・昼・夕方で異なる成分の顔ぶれ

デンプンは7時には少なく、13時までに大きく増え、18時に最も多くなりました。可溶性の糖も18時に最多でした。2枚目の葉は、芽や1枚目の葉よりデンプンを多くためていました。葉の相対的な水分量は、7時の約90%から13時の約85%へ下がり、18時には約88%まで一部回復しました。

成分分析では1483種類の代謝物が検出され、そのうち525種類で時刻間の量に大きな差が見られました。研究チームはこの中から、品質に関わる54種類の化合物に注目しました。テアニンをはじめとするアミノ酸の多くや、甘み・まろやかさ・香りの元に関わる成分は、18時に最も多く蓄積していました。一方、一部のフラボノイド類やフェノール酸、渋みに関わる成分は7時に最も多くなりました。ルチンやケルセチンなどは朝から減り続けました。紅茶の色や味に関わるテアフラビン類などは13時に多く蓄積していました。ただし同じ種類に分類される成分でも、時刻による変化の仕方はさまざまでした。

成分どうしの関係を見ると、アミノ酸や糖などの基本的な生命活動を支える「一次代謝物」と、ポリフェノールやフラボノイド、色素などの「二次代謝物」との間に、強い負の相関がありました。一方が多い時刻には他方が少ない傾向です。著者らはこれを、光合成で得た炭素を両者で取り合う、いわば配分のトレードオフを示すものと解釈しています。

遺伝子の解析では、時刻間で働きが変化した遺伝子が1万9767個見つかりました。デンプンの合成、糖の分解によるエネルギー生産、フラボノイド合成に関わる遺伝子の多くは13時に最も活発でした。デンプン分解に関わる遺伝子の一部は、7時と18時に高く働いていました。成分の合成を調節する転写因子と呼ばれるタンパク質の遺伝子群も、時刻によって異なる傾向を示しました。代表的な5つの遺伝子については、別の測定法でも同様の時刻変化が確認されています。ただし著者らは、遺伝子の働きと成分量が常に対応するわけではないとも述べています。

この研究が示すこと

この研究は、同じ茶樹の新芽でも、摘む時刻によって成分の構成が大きく変わることを、成分と遺伝子の両面から示しました。著者らは結果をもとに、早朝に摘んだ信陽10号の新芽は渋みの強い緑茶に向くと提案しています。また、アミノ酸や糖が多い夕方の新芽は、さわやかでまろやかな緑茶や軽発酵茶、紅茶づくりに向くとしています。

今回の結果は、晴れた1日の3時点で得られた観察です。成分どうしや遺伝子との関係は相関として示されたものです。それでも、摘採の「日」や「季節」だけでなく「時刻」も茶葉の性質を左右しうることを具体的なデータで描き出した点に、この研究の意味があります。

原著論文の著者・所属:Liangjie Niu(Dabie Mountain Laboratory, Henan Key Laboratory of Tea Plant Biology, Henan International Joint Laboratory of Tea-Oil Tree Biology and High-Value Utilization, College of Tea and Food Science, Xinyang Normal University, Xinyang 464000, China)、Chunhui Wang(College of Life Sciences, Henan Agricultural University, Zhengzhou 450046, China)、Jiayin Xie(Dabie Mountain Laboratory, Henan Key Laboratory of Tea Plant Biology, Henan International Joint Laboratory of Tea-Oil Tree Biology and High-Value Utilization, College of Tea and Food Science, Xinyang Normal University, Xinyang 464000, China)、Lin Cheng(Dabie Mountain Laboratory, Henan Key Laboratory of Tea Plant Biology, Henan International Joint Laboratory of Tea-Oil Tree Biology and High-Value Utilization, College of Tea and Food Science, Xinyang Normal University, Xinyang 464000, China)、Qiying Zhou(Dabie Mountain Laboratory, Henan Key Laboratory of Tea Plant Biology, Henan International Joint Laboratory of Tea-Oil Tree Biology and High-Value Utilization, College of Tea and Food Science, Xinyang Normal University, Xinyang 464000, China)、Wei Wang(College of Life Sciences, Henan Agricultural University, Zhengzhou 450046, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Liangjie Niu, Chunhui Wang, Jiayin Xie, et al. Integrative Transcriptomic and Metabolomic Analyses of Time-of-Day Variation of Quality-Related Metabolites in Fresh Tea Leaves. Plants 2026-08-22. DOI: 10.3390/plants15172558. 原著ライセンス:CC BY.