いちごやトマトなど、子どもがよく食べる果物や野菜には、栽培の過程で使われた農薬がごく微量残っていることがあります。こうした残留農薬を一つひとつ見れば基準値以下でも、複数の農薬に同時に、しかも繰り返しさらされ続けたときの影響はまだよくわかっていません。特に、体が発達段階にある幼い子どもは、大人よりも食事からの影響を受けやすい可能性があるため、農業が盛んな地域でどの程度の農薬が食卓に上っているのかを実際に測定することには意味があります。今回紹介するのは、メキシコ・ハリスコ州の農工業地帯に暮らす就学前の子どもを対象に、日常的に食べている食品の農薬残留と、そこから見積もられる食事性のばく露量を調べた研究です。
どのように調べたのか
研究チームはまず、ハリスコ州の農工業地帯に住む23世帯の家庭に7日間の食事記録をつけてもらい、4〜5歳の子どもが実際に何を食べているかを把握しました。その記録をもとに、子どもたちがよく口にする18品目・31検体の食品サンプルを、実際に家庭が利用している小売店から収集しています。これらのサンプルは、LC/ESI-MS/MS(液体クロマトグラフィーと質量分析を組み合わせた分析装置)を用いて236種類の化学物質を対象にスクリーニングされました。さらに、食品を生のまま食べるか調理してから食べるかという実際の食べ方や、調理による農薬の増減(加工係数)も考慮したうえで、週あたりの食事性ばく露量が推定されています。
何がわかったのか
分析の結果、サンプルの87%から何らかの農薬残留が検出され、合計34種類の異なる化合物が見つかりました。このうち5種類はネオニコチノイド系農薬で、なかでもイミダクロプリドが最も高い頻度で検出されています。残留量が特に多かった品目はいちご、ラズベリー、りんご、ぶどう、トマトで、7検体はEU・米国・メキシコのいずれかが定める残留基準値(MRL)を上回っていました。また、ばく露量全体の96%は生のまま食べる食品によるものであり、その主な寄与物質としてピリメタニル、ボスカリド、プロパモカルブ、イミダクロプリドが挙げられています。これらの結果から、この地域の子どもたちは、複数の農薬に日常的かつ同時にさらされている実態があることが示されました。なお、本研究にメキシコ以外の研究機関や、日本の食品・生産・食習慣に関する言及は含まれていません。
この研究を読むうえで気をつけたいこと
この研究は、メキシコの特定の農工業地帯に暮らす23世帯・31検体という限られた範囲を対象にしたものであり、農薬の使用状況や流通経路が異なる他の地域にそのまま当てはめられるものではありません。また、検出された農薬の量が基準値を超えていたことと、それが子どもの健康に実際にどのような影響を及ぼすかは別の問題であり、この研究自体は健康影響そのものを測定したものではない点にも注意が必要です。研究チームは、複数の農薬に同時にさらされることを踏まえた累積的なリスク評価の枠組みや、国ごとに異なる基準値の調和、食品安全の監視体制強化の必要性を指摘していますが、これは一つの研究による知見であり、結論が確定したものではありません。
まとめ
この研究は、メキシコの農業地帯に暮らす子どもたちの食事から、ネオニコチノイド系を含む多様な農薬が高い頻度で検出され、特に生食される果物や野菜がばく露の大部分を占めていたことを示しました。単一の農薬の基準値を守るだけでなく、複数の農薬への同時ばく露をどう評価し規制していくかが、今後の食品安全を考えるうえでの課題として提起されています。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Irma Aidé García Villegas, Silvia Lizette Ramos de Robles, C. Alvarado. Dietary Risk of Neonicotinoids and Other Pesticides in Mexican Children Residing in Agroindustrial Zones. 国際環境研究・公衆衛生誌 (2026). DOI: 10.3390/ijerph23081009. 原著ライセンス: cc-by.