冷凍した肉を解凍すると、生の肉に比べて食感が落ちたり、うまみを含んだ水分(ドリップ)が流れ出たりすることがあります。これは、肉の主成分である「筋原線維タンパク質」が凍結と解凍を繰り返すうちに変性・凝集し、本来の構造を保てなくなることが一因とされています。緑茶などに含まれるポリフェノールの一種「カテキン」には、こうしたタンパク質の変化を抑える働きが報告されており、四川大学食品工程学部の研究チームが、構造の異なる複数のカテキンを使って、その効果の違いと理由を調べた研究を発表しました。
4種類のカテキンで比較実験
研究チームは、牛肉から取り出した筋原線維タンパク質に、エピカテキン(EC)、エピガロカテキン(EGC)、エピカテキンガレート(ECG)、エピガロカテキンガレート(EGCG)という構造がわずかに異なる4種類のカテキンをそれぞれ加え、凍結と解凍を繰り返す保存条件のもとでタンパク質にどのような変化が起きるかを比較しました。あわせて、多波長を用いた分光分析や、分子同士の結合のしやすさをコンピューター上で予測する分子ドッキングという手法を使い、カテキンの分子構造とタンパク質への影響との関係(構造活性相関)も検討しています。
カテキンがタンパク質の劣化を抑える様子
実験の結果、4種類のカテキンはいずれも、筋原線維タンパク質の粒子サイズや溶けやすさ(溶解性)を小さくする一方、タンパク質表面の電荷や疎水性(水になじみにくい性質)を高め、タンパク質がほどけたり互いにくっついて塊になったりする現象(変性・凝集)を抑える傾向が見られました。また、酸化によって生じるカルボニル基の増加や、遊離アミノ基・遊離スルフヒドリル基の減少といった、タンパク質の酸化的な損傷を示す指標についても、カテキンを加えることで抑制される傾向が確認されました。さらに、凍結・解凍を経たタンパク質からつくるゲル(肉の弾力や保水性に関わる構造)の物理化学的な性質も、カテキンの添加によって改善する方向に変化したとされています。
効果の強さを分けたのは「水酸基」と「没食子酸基」の位置
分光分析と分子ドッキングによる解析からは、カテキンが水素結合や疎水性相互作用といった形でタンパク質と強く結びつき、タンパク質の二次構造・三次構造を変化させていることが示唆されました。そのうえで4種類の効果の強さを比べると、EGCG>ECG>EGC>ECの順になったと報告されています。この違いを生んだ要因として、研究チームはカテキン分子中の水酸基の数や位置、そして「没食子酸基(ガロイル基)」と呼ばれる構造の有無を挙げています。特に、カテキンのB環という部分の5′位にある水酸基と、C環の3位に付いた没食子酸基が、タンパク質との結合力の強さ(分子の極性の高さや結合親和性)に重要な役割を果たしていたとされました。実際、没食子酸基を持つECGとEGCGは、それを持たないECやEGCに比べて、冷凍保存中のタンパク質の性質を保つ働きが強かったと結論づけられています。
この研究の位置づけ
今回の研究は、牛肉由来の筋原線維タンパク質を対象とした実験室レベルの検討であり、実際の食肉加工や保存の現場でどこまで同様の効果が得られるかは、この要旨の情報だけでは分かりません。カテキンの種類による効果の違いを化学的なメカニズムから読み解いた基礎研究として位置づけられるものであり、一つの研究の結果として今後さらなる検証が重ねられていく性質のものといえます。
まとめ
この研究では、緑茶などに含まれるカテキンが、冷凍保存中の牛肉タンパク質の変性や酸化的な劣化を抑える方向に働く可能性が示され、その効果の強さがカテキン分子の水酸基や没食子酸基といった構造的な特徴と関係していることが示唆されました。今後、食品の保存技術への応用に向けた研究が積み重ねられていくかどうかが注目されます。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Yu-Xin Xie, Hui-Wen Wang, Qiu-Yue Ma, et al. Effects and structure-activity relationship of different catechins on properties of myofibrillar protein from beef during frozen storage. ジャーナル・オブ・フューチャー・フーズ (2026). DOI: 10.1016/j.jfutfo.2026.08.008. 原著ライセンス: cc-by-nc-nd.