パンの製造は、材料を混ぜてすぐ焼く「直捏法」と、まず小麦粉と水と酵母の一部を先に発酵させてから残りの材料を加える「スポンジ法(中種法)」に大きく分かれます。スポンジ法は工程が一段階増える分、生地の熟成が進みやすく、風味や食感に違いが出やすいとされています。ロシアの食品バイオテクノロジー分野の研究機関であるВНИИ пищевой биотехнологии(全ロシア食品バイオテクノロジー研究所)と、パン産業に関する研究機関であるНИИ хлебопекарной промышленности(パン焼き産業研究所)の研究者らは、このスポンジ法において、通常より酵母の量を増やして仕込んだ場合にパンの品質にどのような違いが出るのかを調べました。

健康志向や治療・予防を目的とした食生活への関心が高まる中、栄養価を高めたパン製品の種類を増やす必要性が指摘されており、その実現には配合や製法の工夫が重要な要素になるとされています。今回の研究は、こうした背景のもとで、酵母の使用量という製法上の一因子に着目したものです。

どのように調べたのか

研究チームは、スポンジ法で作った対照サンプルと、酵母の配合量を増やした実験サンプルのパンを用意し、それぞれ焼成から24時間後と72時間後の時点で比較しました。評価には複数の切り口が使われています。まず、見た目や香り、味といった官能的な品質は、ロシアの国家規格であるГОСТ 5667に定められた方法で判定されました。

物理化学的な指標としては、パン生地の中間製品(半製品)の水分含有量を乾燥法で測定し、酸度は「Biohit Biotrate」という半自動デジタルビュレットを用いて、生地中の有機酸を水酸化ナトリウムで滴定する方法で数値化しています。温度は−30℃から300℃まで0.1℃刻みで測定できるデジタル温度計「WT-1」で記録されました。

焼き上がったパン本体についても、質量・体積・比容積・形状保持性(ГОСТ 27669)、パンくず(クラム)の酸度(ГОСТ 5670)、パンくずの水分量(ГОСТ 21094)、パンくずの気孔構造(ГОСТ 5669)といった規格に基づく項目が測定されました。さらに、香り成分については、アルデヒドやケトンが亜硫酸水素ナトリウムと結合する性質を利用した「重亜硫酸塩結合性化合物」の量を指標として評価し、パンくずの硬さの指数、弾力性、そして時間経過に伴う硬化(いわゆる「日持ちによるパサつき」)の進み方についても、既存の規格に沿って調べられています。

この研究をどう受け止めるか

この記事の元になった要旨の範囲では、酵母の配合量を増やした結果として各指標が具体的にどの数値に変化したかまでは示されていません。研究の主眼は、酵母の使用量を増やすという条件が、水分・酸度・温度といった半製品の性質から、体積や気孔構造、硬さ、香り成分、日持ちのしやすさに至るまで、パンの品質を多角的に決める要因になり得るという点を、標準化された多数の測定方法を組み合わせて検証したことにあります。パンの品質は配合と製法という二つの要素に強く左右されるとされており、酵母量はそのうちの配合面に関わる一因子として位置づけられています。

今回の要旨に基づく限り、この研究は特定の酵母量が優れているかどうかを断定するものではなく、ロシアの規格に沿った測定手法を用いて品質指標を比較検証した一つの研究です。今回提供された情報の中には、日本の研究機関や日本の食品・食習慣への言及は含まれていません。結果の一般化や実用への応用については、今後さらなる検証が必要な段階にあると考えられます。

まとめ

この研究は、スポンジ法で作るパンにおいて酵母の配合量を増やすことが、生地の水分や酸度、焼き上がったパンの体積・気孔・硬さ・香り・日持ちのしやすさなど、多くの品質指標にどう関わるかを、確立された測定規格を用いて丹念に調べたものです。パン作りにおける「酵母の量」という一見単純な条件が、実は品質を左右する複合的な要因と結びついていることをうかがわせる内容といえますが、一つの研究であり結論が確定したわけではありません。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Е. Н. Соколова, Наталья Александровна Фурсова, Тюрина Ольга Евгеньевна, et al. Влияние количества обогащенных дрожжей на показатели качества хлебобулочных изделий, приготовленных опарным способом. 食品加工産業 (2026). DOI: 10.52653/ppi.2026.9.9.028.