屋台や個人商店で作られる揚げたてのポテトチップスは、多くの国で親しまれている軽食のひとつです。しかし同じ油を繰り返し使って揚げ続けると、油の中では酸化や熱分解といった化学変化が進んでいくことが知られています。今回紹介する研究は、イラク・モスル市で販売されている、包装されていない伝統的な製法のポテトチップスに着目し、そこで使われている植物油の品質を科学的に調べたものです。
研究チームは、厚さ2〜3ミリメートルに切ったジャガイモを30分間水に浸したあと、パーム油を用いて170〜180度で3〜5分間揚げるという、実際の伝統的な製法を再現して試料を作成しました。2025年にランダムに採取した試料をもとに、油の品質を10週間にわたって毎週評価するという継続的な調査が行われています。
油の劣化はどのように測定されたのか
油の品質評価には、過酸化物価(PV)、遊離脂肪酸(FFA)、油の吸収量、p-アニシジン価(p-AV)という、食用油の劣化を示す代表的な化学指標が用いられました。これに加えて、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)という分析手法によって、油の中に生じたごく微量の揮発性化合物まで特定するという、より詳細な分析が行われている点がこの研究の特徴です。
結果として、過酸化物価は32.6〜41.1meq O₂/kg油、遊離脂肪酸は1.28〜3.33%、油の吸収量は31〜41%という幅のある数値が得られ、試料ごとにかなりのばらつきが見られたと報告されています。研究チームはこのばらつきについて、揚げる際の温度や時間、油の管理方法が現場ごとに一定していないことを示していると考察しています。
一方で、揚げたあとにニンニクパウダー、塩、唐辛子を加える調味処理は、油の吸収量、過酸化物価、遊離脂肪酸、p-アニシジン価のいずれにも統計的に有意な影響を与えなかった(P>0.05)としています。つまり、これらの調味料を加えること自体が油の劣化を進めたり抑えたりする要因ではなかったという結果です。
GC-MSが明らかにした揮発性化合物
GC-MS分析では、2-ヘキシルフラン、(E,E)-2,4-デカジエナール、(E,E)-2,4-ノナジエナール、ギ酸ヘキシル、3-メチルテトラヒドロフラン、メチルシクロペンタン、3-メチル-1-ペンテン-4-イン-3-オールといった揮発性化合物が検出され、それぞれの相対存在量は0.56〜0.80%の範囲だったと報告されています。これらは脂質の酸化や熱による分解に伴って生じることが知られる化合物群であり、研究チームはこの検出結果が、過酸化物価や遊離脂肪酸といった従来の化学指標が示す「油の劣化」という評価を裏付けるものだとしています。
この研究をどう読むか
この研究は、モスル市で実際に流通している伝統的なポテトチップスの製造現場から採取した試料を対象にした調査であり、油の劣化を化学的な指標と揮発性化合物の両面から捉えようとした点に意義があります。ただし、これは特定の地域・特定の期間における一つの調査結果であり、他の地域や油の種類、揚げ方の条件にそのまま当てはまるとは限りません。また、劣化した油を摂取した場合の健康影響そのものを直接評価した研究ではなく、あくまで油の化学的な品質変化を分析したものである点にも注意が必要です。
まとめ
今回の研究では、伝統的な製法で作られるポテトチップスに使われるパーム油について、繰り返しの揚げ調理によって過酸化物価や遊離脂肪酸などの劣化指標にばらつきが生じており、GC-MS分析によっても脂質酸化に関連する揮発性化合物が確認されたことが示されました。研究チームは、GC-MSが従来の化学的指標を補完し、揚げ油の品質管理をより詳しく評価するための有用な分析手法であると位置づけています。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Quality Assessment of Vegetable Oils Used in Traditional Potato Chips Production in Mosul City Using Gas Chromatography–Mass Spectrometry (GC–MS). ザ・フューチャー・オブ・バイオロジー (2026). DOI: 10.37229/fsa.fjb.2026.09.07. 原著ライセンス: cc-by.