著者の所属・活動拠点の国は、チェコです。
掲載誌:Food Science & Nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
食べたフラボノイドは体内で姿を変える
フラボノイドは、植物がつくる多様な化合物のグループです。2つのベンゼン環が別の環でつながった共通の骨格を持ちます。その形の違いによって、フラボン、イソフラボン、フラバノンなどに分類されます。
研究チームが注目したのは、食品に含まれるフラボノイドが、食べた後にそのままの形で体内を巡るわけではないという点です。フラボノイドは腸内細菌や腸・肝臓などで代謝され、硫酸基やグルクロン酸などが結合した「抱合体」に変わります。そのため論文は、食品中の元の化合物だけを調べても、体内での働きを正しく理解できない可能性があると指摘しています。
中でも著者らは、硫酸基が付いた「硫酸化体」に焦点を当てました。硫酸化を担う酵素(硫酸転移酵素)は、腸の上皮などに多くあります。また、硫酸化はグルクロン酸の結合とは異なる位置で起こりうるため、できる物質の性質も異なる可能性があります。それにもかかわらず、個々の硫酸化体の生理活性についてはほとんど情報がありません。研究チームは、これを重要な知識の空白と位置づけました。
9種類のフラボノイドと硫酸化体を並べて比較
研究チームは、主要な分類にまたがる9種類のフラボノイドを調べました。対象は、アピゲニン、ナリンゲニン、ヘスペレチン、フィセチン、ケルセチン、ミリセチン、タキシフォリン、アンペロプシン、ゲニステインです。それぞれについて硫酸基が1つ付いた硫酸化体を用意し、元の化合物と比較しました。
硫酸化体の合成には、細菌由来の酵素(アリールスルホトランスフェラーゼ)を使いました。この酵素は大腸菌に作らせたものです。アピゲニン、フィセチン、ゲニステイン、ヘスペレチンの4種類の硫酸化体は、今回初めて合成されました。硫酸基はいずれも、骨格のうち「B環」と呼ばれる部分の決まった位置に付いていました。
比較は次の項目について行いました。まず、体内に近い条件(pH7.4、37℃)の緩衝液中に最大24時間置き、安定性を調べました。次に、試薬を用いて、ラジカル(反応性の高い分子)を消す力を測りました。さらに、免疫細胞の一種であるマクロファージの培養細胞株を使い、細胞への毒性を確かめました。
細胞実験では、転写因子NRF2の経路への作用も調べました。NRF2は、細胞を守る防御反応や抗酸化反応の重要な調節役とされています。あわせて、細菌成分のリポ多糖(LPS)で炎症反応を起こした細胞を使い、炎症に関わる酵素COX-2とiNOSについて、遺伝子の働きとタンパク質の量がどれだけ増えるかを測定しました。また、ヒトのどの硫酸転移酵素がこれらの硫酸化体を作りうるかも特定しました。
安定性は増し、ラジカルを消す力やNRF2の活性化は弱まる
論文によると、硫酸化によって、壊れやすいフラボノイドはすべて安定になりました。ただし、安定化の度合いは元の化合物の構造によって異なっていました。
一方、ラジカルを消す力は硫酸化によって弱まりました。ヘスペレチン、タキシフォリン、アンペロプシンでは、この力が完全に失われました。フィセチン、ケルセチン、ミリセチンでは、低下は部分的でした。著者らは、硫酸化後も分子内に残る構造(二重結合や水酸基)がこの違いに関係していると考えています。細胞毒性も、硫酸化によって弱まったと報告されています。
最も際立っていたのは、NRF2経路の結果です。9種類すべてで、硫酸化体はNRF2経路を活性化しませんでした。この結果は、元の化合物の活性化の強さや、硫酸基が付いた位置に関係なく共通していました。
炎症の指標への作用は化合物ごとにさまざま
炎症反応を起こした細胞での結果は、NRF2のように一様ではありませんでした。遺伝子レベルでは、COX-2の遺伝子の増加を有意に抑えたのは2つでした。1つは元の化合物であるゲニステイン、もう1つはミリセチンの硫酸化体です。iNOSの遺伝子の増加は、4つが有意に抑えました。元の化合物のフィセチン、アピゲニン、ケルセチンと、ミリセチンの硫酸化体です。
ミリセチンの硫酸化体は、元のミリセチンより効果が強いという結果でした。著者らは、その理由として硫酸化体のほうが安定であることを挙げています。一方、タキシフォリンやミリセチンの硫酸化体は、全体としては作用の弱い調節物質だったとされています。またタンパク質レベルではばらつきが大きく、統計的に有意な変化は確認されませんでした。
このように、炎症の指標に対する硫酸化の影響は、作用が弱まる、保たれる、強まるとさまざまでした。著者らは、炎症の指標への作用を決める構造上の要因は、NRF2の活性化を決める要因とは少なくとも一部異なると述べています。また、ヒトの小腸や肝臓にある複数の硫酸転移酵素(SULT1A1、1A3、1B1、1E1)が、これらの硫酸化体を作りうることも確認されました。
代謝後の姿を含めて考える必要性
著者らは、硫酸化はフラボノイドの振る舞いを大きく左右する要因だと結論づけています。食後に血流や組織に届く分子は、食品に含まれていた分子とは根本的に異なりうるという見方です。一方で、硫酸化体の一部は炎症の指標に作用していました。このことから、代謝された後の物質も生物学的に不活性とは言えないことが示されました。
ただし論文は、限界も明記しています。この研究では、炎症に関わるNF-κBなどの経路の活性化そのものは直接測っていません。細胞内の化合物濃度も測定していません。硫酸化体は細胞膜を通りにくいため、元の化合物と比べた作用の強さは過小評価されている可能性があるとしています。
この研究が示しているのは、フラボノイドの働きを理解するには、食品中の形だけでなく、体内で変化した後の形も一つひとつ調べる必要があるということです。
原著論文の著者・所属:Jiří Vrba(Department of Medical Chemistry and Biochemistry, Faculty of Medicine and Dentistry Palacký University Olomouc Czechia)、Veronika Zapletalová(Department of Medical Chemistry and Biochemistry, Faculty of Medicine and Dentistry Palacký University Olomouc Czechia)、Jakub Havlásek(Department of Medical Chemistry and Biochemistry, Faculty of Medicine and Dentistry Palacký University Olomouc Czechia)、Barbora Papoušková(Department of Analytical Chemistry, Faculty of Science Palacký University Olomouc Czechia)、Barbora Petránková(Department of Genetics and Microbiology, Faculty of Science Charles University Prague Czechia; Institute of Microbiology of the Czech Academy of Sciences, Laboratory of Biotransformation Prague Czechia)、Helena Pelantová(Institute of Microbiology of the Czech Academy of Sciences Laboratory of Molecular Structure Characterization Prague Czechia)、Kateřina Valentová(Institute of Microbiology of the Czech Academy of Sciences, Laboratory of Biotransformation Prague Czechia)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Jiří Vrba, Veronika Zapletalová, Jakub Havlásek, et al. Sulfation Rewrites the Biological Profile of Dietary Flavonoids: Implications for Stability, Redox Signaling, and Inflammation. Food Science & Nutrition 2026-09-01. DOI: 10.1002/fsn3.72382. 原著ライセンス:CC BY.