著者の所属・活動拠点の国は、ポーランド、オランダ、ドイツです。
掲載誌:Pharma research
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的と位置づけ
生薬パウダーは、植物の根や葉、樹皮などを粉末にした製品です。市場や健康食品店、通信販売で消化の助けや滋養、伝統的な治療薬として売られ、数週間から数か月にわたって使われることもあります。著者らは、こうした製品が食品と医薬品の中間に置かれ、品質のばらつきが大きいことに注目しました。粉末にすると原料の由来が見た目では分かりにくくなり、細かく砕かれた粒子が土壌や製粉機、保管場所からの汚染にさらされやすくなるためです。
この論文は、市販の生薬パウダーにおける重金属汚染と微生物汚染について、すでに発表された市場調査、毒性に関する総説、規制文書、分析方法の論文を整理した「ナラティブレビュー(叙述的総説)」です。題名は市場調査のようにも読めますが、著者らは新たに試料を集めて分析してはおらず、新しい汚染データは示していないと明記しています。示される数値は、元の研究が報告したものです。
著者らは、汚染がどこから入り込むのか、どの金属や微生物がよく報告されるのか、それらをどう測定するのか、薬局方などの基準値がどう使われているのかを整理しました。薬局方とは、医薬品の品質の基準を定めた公的な規格書です。
汚染はどこから入り込むのか
論文によると、重金属の主な入り口は植物が育つ環境です。植物は土壌から、種類によっては大気からも金属を取り込みます。鉱山や製錬所、交通量の多い道路の近く、下水汚泥や一部のリン酸肥料を使った畑で育った植物では濃度が高くなるという報告があります。土に直接触れる根や根茎は、葉や花よりもカドミウムや鉛を多く含む傾向があるとされます。また、特定の金属をため込みやすい薬用植物もあります。
収穫後の工程も汚染源になります。複数の製品に使われる小型の製粉機の金属部品から微量元素が混入したり、地面や屋外で乾燥させることで粉じんや動物のふんにさらされたりします。湿気が残ればカビが急速に増えます。市場で袋から手ですくって小分けする販売方法も、汚染が広がる原因に挙げられています。
これとは別の問題として、一部の伝統医学では、水銀や鉛、ヒ素の化合物などの鉱物・金属をあえて処方に加えることがあります。著者らは、この場合の金属は偶然の不純物ではなく処方の一部であり、環境から取り込まれる汚染とは性質が異なると指摘しています。なお、蒸気殺菌や放射線照射などの処理は微生物を減らせますが、金属やすでに作られたカビ毒は取り除けないとされています。
主な報告結果
重金属について、著者らがまとめた研究の状況は一様ではありません。米国の複数の州では、鉛を含むアーユルヴェーダ薬の使用者に鉛中毒が起きた例が報告されています。オランダ市場のアジア系生薬製剤の調査では、表示どおりに服用すると、受け入れられている上限を超える量の鉛、水銀、ヒ素を摂取することになる製品が一部にありました。一方、中国医学で使われる単一の生薬の研究では、ほとんどの生薬は金属濃度が低く、一部にカドミウム、鉛、ヒ素が目立つものがあったと報告されています。単純な生薬パウダーやハーブティーでは、大半が基準内で、基準を超えるものは少数でした。著者らは、リスクは現実に存在するものの、特定の製品や産地に集中していると述べています。
微生物については、日本の粉末生薬で主にアスペルギルス属やペニシリウム属のカビによる強い汚染が見つかり、一部からカビ毒のアフラトキシンが検出された研究が紹介されています。ブラジルやアルゼンチンでは毒素を作るカビが、ナイジェリアの市場で売られていた製品からは大腸菌、サルモネラ、黄色ブドウ球菌などの病原菌が見つかっています。著者らによると、方法や判定基準は研究ごとに違うものの、衛生管理なしに扱われた粉末は汚染されやすいという点で各研究は一致しています。また、見つかる微生物は植物そのものではなく、土や水、人の取り扱いに由来すると考えられるものでした。
論文はカビ毒の性質も説明しています。アフラトキシンB1は肝臓に対する強い発がん性物質で、オクラトキシンAは腎臓に作用します。これらは熱に強く、通常の乾燥や加熱では分解されないため、カビを殺しても毒素は残ります。また、多くの粉末は加熱せずにそのまま飲み込まれるため、細菌を死滅させる工程がないことも問題として挙げられています。乾燥した粉末の中でも何か月も生き残る病原菌があり、水分に触れると再び活動できるとされます。
比較の難しさと、この総説が示すこと
著者らは、研究同士の比較が難しい点を強調しています。試料の取り方、分析方法、使う基準値が研究によって異なるためです。原料の植物向けによく引用される上限値は、鉛でおよそ5〜10mg/kg、カドミウムで0.3〜1mg/kgと幅があり、同じ製品でもある国では合格し、別の国では不合格になることがあります。医薬品の元素不純物に関する国際的な指針(ICH Q3D)は、1日に許容される摂取量を定める別の考え方をとっており、経口製品では鉛とカドミウムが5マイクログラム、無機ヒ素が15マイクログラム、水銀が30マイクログラムとされています。
重金属の健康リスクは、濃度だけでなく、服用量と服用期間で決まります。それにもかかわらず、多くの調査は粉末中の濃度しか報告しておらず、1日の摂取量に換算して健康上の基準値と比べる評価はまだ少ないと論文は指摘しています。少数の便宜的な試料に頼る調査が多いこと、ヒ素や水銀の化学形態を区別した分析が少ないことも、根拠の限界として挙げられています。
著者らの結論は、市販の生薬パウダーの汚染は現実の問題であるものの、その分布は偏っており、安全かどうかは製品、産地、流通の経路によって大きく変わるというものです。「植物由来だから安全」とも「生薬パウダーはすべて危険」とも言い切れません。著者らは、生薬パウダーを選ぶことは中立的な選択ではなく、リスクを考慮して判断すべきものだとまとめています。
原著論文の著者・所属:Kaczmarek, Tomasz(Department of Phytochemistry, Warmia Institute of Pharmaceutical Sciences, Olsztyn, Poland)、Brouwer, Joost(Department of Phytochemistry, Twente Institute of Pharmaceutical Technology, Hengelo, Netherlands)、Thielmann, Lukas(Department of Pharmacognosy, Neckar Valley Institute of Pharmaceutical Sciences, Heilbronn, Germany)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Kaczmarek, Tomasz, Brouwer, Joost, Thielmann, Lukas. HEAVY METAL AND MICROBIAL CONTAMINATION IN MARKETED HERBAL POWDERS. Pharma research 2026-10-23. DOI: 10.62655/s-epub.2026.v18.i02.pp71-80. 原著ライセンス:CC BY.