著者の所属・活動拠点の国は、セルビアです。
掲載誌:Toxics
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:加熱加工で生まれる化学物質をどう捉えるか
パンやビスケット、ポテトチップスなど、でんぷんを多く含む食品を高温で焼いたり揚げたりすると、アクリルアミドという化学物質ができることがあります。食品の色や香ばしさを生む「メイラード反応」の過程で、糖とアミノ酸の一種であるアスパラギンが反応して生じるものです。アクリルアミドは2002年に食品中で見つかり、国際がん研究機関(IARC)は「おそらくヒトに対して発がん性がある」グループ2Aに分類しています。EUでは2017年の規則で食品群ごとの目安となる基準値(ベンチマークレベル)と低減対策が事業者に義務づけられ、2019年の勧告で監視対象の食品が広げられました。
一方、食品を加工の程度で4つに分けるNOVA分類は、主に原材料や添加物の有無に基づいており、加熱でできる汚染物質は考慮していません。著者らは、焙煎コーヒーのように加工度の低い食品とされるものでもアクリルアミドなどができうる点を挙げ、加工度の分類だけでは化学的な安全性の評価が不十分になりうると指摘しています。そのうえで研究チームは、食品中のアクリルアミドの全体像を示し、検出の傾向や発生源を探り、現在の検出・監視・低減の取り組みを評価することを目的としました。
何を調べたか:EUの食品・飼料警報システムの記録
研究チームが用いたのは、EU加盟国の当局間で食品の危険情報を素早く共有する「食品・飼料に関する早期警告システム(RASFF)」の公開データです。2009年から2025年までに報告された、食品に関するアクリルアミド関連の通報を検索し、食品の種類、リスク判定、通報の種類、原産国ごとに件数と割合を集計しました。
さらに、通報された製品をNOVA分類の4区分(未加工・最小限の加工食品、加工された調理用素材、加工食品、超加工食品)に振り分け、リスク判定や通報の種類と組み合わせた「リスクマトリクス」を作成しました。あわせて、各国の市場調査や、低減対策の導入前後を比べた研究も参照し、長期的な傾向や対策の効果を検討しています。
主な結果:通報の多くは超加工食品に集中
期間中に確認されたアクリルアミド関連の通報は98件でした。2017年と2019年の規制強化の後に通報は大きく増えましたが、著者らはこれを汚染そのものの増加ではなく、監視や取り締まりの強化を反映したものとみています。ただし、2023〜2025年の3年間も通報件数が高い水準で続いており、対策が導入された後もアクリルアミドが食品安全上の課題として残っていることを示すと述べています。
食品の種類では、ビスケットを中心とする穀物・ベーカリー製品と、ポテトチップスなどの調理済み食品・スナックが目立ちました。いずれも焼く・揚げるといった高温の加工を受け、でんぷんや糖、アスパラギンを多く含む食品です。28件(28.6%)は迅速な対応が必要な「深刻なリスク」と判定され、22.4%は製品がすでに市場に出回っていたことを意味する「警告」通報でした。
NOVA分類に当てはめると、通報全体の84.7%が超加工食品でした。「深刻なリスク」と判定された製品の85.7%、「警告」通報の対象となった製品の77.3%も超加工食品で、最も重大なケースの多くを超加工食品が占めていたことになります。
文献の整理では、欧州のポテトチップスの平均濃度がアクリルアミド発見以来54%下がり、基準値を超える試料の割合も2002年の40%超から2019年には7.75%に減ったとする研究が紹介されています。一方、スペインの2025年の調査ではポテトチップス試料の51%が基準値を超えており、対策の実施が製造者間でばらついていることや、ジャガイモの発芽抑制剤の使用禁止で保存中に糖がたまりやすくなったことが要因として挙げられています。同じスペインの朝食用シリアルでは、平均濃度が2006年の292μg/kgから2025年には114μg/kgに下がったと報告されています。
この研究が示すこと
著者らは、RASFFの通報件数は汚染の実際の広がりをそのまま表すものではなく、監視の強さや報告の仕方にも左右されること、また通報データだけでは摂取量や健康への影響は推定できないことを注意点として挙げています。そのうえで、アクリルアミドに関する重大な通報の中心が超加工食品であることから、超加工食品を低減対策や監視の優先対象とすべきだと結論づけています。加工度による分類と、加熱で実際に生じる汚染物質の監視とを組み合わせて見ることの重要性を示した研究といえます。
原著論文の著者・所属:Đorđe Kitić(Department of Pharmacy, Faculty of Medicine, University of Novi Sad, Hajduk Veljkova 3, 21000 Novi Sad, Serbia)、Branislava Srđenović Čonić(Center for Medical and Pharmaceutical Investigations, Faculty of Medicine, University of Novi Sad, Hajduk Veljkova 3, 21000 Novi Sad, Serbia; Department of Pharmacy, Faculty of Medicine, University of Novi Sad, Hajduk Veljkova 3, 21000 Novi Sad, Serbia)、Ljilja Torović(Center for Medical and Pharmaceutical Investigations, Faculty of Medicine, University of Novi Sad, Hajduk Veljkova 3, 21000 Novi Sad, Serbia; Department of Pharmacy, Faculty of Medicine, University of Novi Sad, Hajduk Veljkova 3, 21000 Novi Sad, Serbia)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Đorđe Kitić, Branislava Srđenović Čonić, Ljilja Torović. Chemistry of Food Processing: Acrylamide in (Ultra-Processed) Food—A RASFF-Based Assessment. Toxics 2026-08-22. DOI: 10.3390/toxics14090738. 原著ライセンス:CC BY.